中国調達:「監査」の限界?その先にあるもの~上海福喜食品事件から~

誰も知らない中国調達の現実(228)-岩城真   先月末からネット、新聞紙上を賑わしている“上海福喜食品事件”、筆者はこの事件に政治臭を強く感じている。報道される事象にも、違和感を覚える点が多い。しかし、筆者は政治や社会事件の専門家ではないので、あくまでも報道されていることは事実であるとの前提で、サプライヤーの品質管理、調達品の品質確保について考えてみたい。   まず、上海福喜食品が米資本のグローバル企業・OSIグループの傘下であることを、上海福喜食品から食材を調達していた日本企業とそのバイヤーは、どのように解釈していたのだろうか。中国ローカルとは違う、海外大手(マクドナルド)とも大きな取引をしている“外資”だから、といった判断があったのではないだろうか。   多くの日系中国法人と比べると、中国の欧米系は、良くも悪くも現地化が進んでいる。現地に権限も何もかも移譲されていることも多い。親企業に利益を毎年上納していれば、親企業のブランド価値を棄損するようなことをしない限り、何をやってもOKといった空気もある。多くの日系現地法人のように、本社から派遣された日本人が、日本の本社の方を見て、中国で日本的な経営をしているわけではない。そのような現実を誤認していたのではないか、と筆者には見えてしまう。   既述のような筆者の憶測とは別に、上海福喜食品は、マクドナルドを筆頭に多くの顧客企業からサプライヤーアワード(優良供給者への感謝状)を授与されている。つまり、多くの顧客企業の監査は、件の事実に対し、まったく無力だったことを意味している。食品調達の専門家でもない筆者が、監査の詳細に言及するつもりはない。筆者が指摘したいことは、監査がチェックリストへの記載といったマニュアル化された作業になり、本来の目的を見失っていたのではないか、ということ。そしてもうひとつ、不備を隠蔽しようとする悪意に対して、監査は脆弱であるという本質的な問題である。   ひとつ目の問題、監査の“作業化”について考えてみる。判断や責任を伴わない、マニュアルに従って実行するだけのものを、筆者は“作業”と定義している。監査がしばしば陥る過ちとして、監査の目的がチェックリストをうめるという“作業”になってしまうことである。チェックリストをうめることは、手段であって目的ではない。「チェックリストに記載された客観的な事実によって・・・」というのは、一見論理的であるようだが、監査本来の目的、要求している品質(安全)が確保されているか否かという本質が欠落している。消費者が、求めていることは、自ら口にする食品の安全であって、バイヤー企業の監査リストの高い評点ではない。   似たようなことは、筆者の機械部品の世界でも発生している。品質保証部員は「図面通りだから合格、図面と違えば不合格、基準は図面だ」という類のことを言う。しかし、セットメーカーの品質保証部がユーザーに保証しなくてはならないことは、約束した機能や性能であって、図面通りの寸法ではない。仮に図面通りの寸法であっても、機能や性能が契約を満たしていなければ許されない。ユーザーにとっては、図面通りであるか否かなど関係のないことなのである。   そのようなことは、上海福喜食品の顧客の日本企業の“言い訳会見”からも感じられる。「限られた期間で、膨大なチェック項目をすべてチェックすることはできなかった」との発言には呆れてしまった。まさにリストのチェックが目的化しているのである。消費者が監査に求めていることは、安全が確認できたのか否かなのである。監査が判断と責任を伴う(“作業”の反対語としての)“仕事”であるならば、限られた期間で正しい判断ができる監査方法に変更するか、正しい判断できるまで監査期間を延長するべきだろう。それが消費者に対し安全を担保するバイヤー企業の監査員の仕事だろう。   ふたつ目の問題の、監査は悪意に対して脆弱であることについて考える。そもそも、消費期限を経過した肉や床に落ちた肉をラインに投入したのはなぜか?簡単なことである、原価を圧縮して利益を増やしたかったということだ。「5%までなら味に影響ないから・・・」という作業者の言葉を信用すれば、原材料費の5%削減のためにやったということであり、腐敗した肉を原材料にした製品を消費者の口に入れることが目的ではない。(この点は、5年前の“毒入り餃子事件”とは大きく異なる。)   そうだとするならば、もっと正しい方法で、製造原価を削減する方法を考え、指導すれば良い。「そんなに簡単に言うな!」とお叱りを受けるかもしれないが、これを愚直に実行することが、製造業の王道なのである。まったく異なる業界であるが、衣料品のユニクロは、自社の費用で技術指導員を委託先に常駐させている。不良品を作らせないことが、委託先業の利益につながるとともに、自社の販売計画を乱さないことを、損得勘定で判断しているのである。(不良ロスを作らせないことで、厳しい価格低減要求も可能になる。)   食品業界の門外漢である筆者の意見は、少々的外れの面もあったかもしれないが、食品であれ、産業機械であれ、ものづくりの根幹は、同じではないだろうか。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
先月末からネット、新聞紙上を賑わしている“上海福喜食品事件”、筆者はこの事件に政治臭を強く感じている。報道される事象にも、違和感を覚える点が多い。しかし、筆者は政治や社会事件の専門家ではないので、あくまでも報道されていることは事実であるとの前提で、サプライヤーの品質管理、調達品の品質確保について考えてみたい。
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2014-08-12 10:15