オリックス、中小企業の新しい退職年金制度として総合型DBを提案

オリックスは総合型DB(確定給付企業年金)制度を運営受託している。企業規模も地域も業種も問わず、中小企業も加入ができ、2014年8月現在、約120社が加入している。中小企業の企業年金は、2002年から始まった適格退職年金制度の廃止、そして、2014年から始まった厚生年金基金の存廃の検討という事態を受け、企業年金実施率が年々低下するという課題を抱えている。
オリックスは「資産運用ビジネスとしての年金受託ではなく、人数規模に関わらず加入できる制度を組成して中小企業の企業年金の存続を支援していきたい」と、厚生年金基金の受け皿としても同社が組成・運営に関わっている総合型DB制度の活用を呼びかけている。同社営業推進部企業年金担当部長の齊藤幸代氏(写真:左)と、同部年金営業第一チーム長の三宅規文氏(写真:右)に、同社が運営する総合型DBの特長と、企業年金が抱える課題等について聞いた。
――オリックスが企業年金ビジネスを実施している理由は?
三宅 2001年に、適格退職年金制度が2012年3月をもって廃止されることが決まり、その際に当社の取引先である多くの中小企業が退職年金制度を維持できなくなるという不安が広がりました。中小企業向けに適格退職年金制度の受け皿が必要でしたので、当社は翌2002年に厚生労働大臣指定法人となり企業年金ビジネスに参入することにしました。
企業が単独でDB制度を導入する場合、大手信託銀行や生命保険会社では100名以上や300名以上を受託要件としていたため、従業員が100名に満たない中小企業は、適格退職年金制度の廃止に伴って、退職・企業年金制度を廃止する他に方法がないという状況でした。そこで、従業員の人数に関係なく加入できる総合型DB制度をつくって、中小企業に提案を始めたのです。
――適格退職年金制度の代替としてはDC(確定拠出年金)という選択肢もありましたが、なぜ御社ではDBの提案を選択したのですか?
齊藤 中小企業にとっては、DCよりも、DBの方がマッチすると考えたのです。
私は人事部門に所属していたときにオリックス自体の企業年金制度の改定を担当しました。オリックスはDBとDCを両方導入していますが、DC部分については、前払い退職金との選択制にしています。前払い退職金は女性社員の利用が多いのですが、これは、出産や育児などで一時的に仕事を離れた時に、現在のDCでは運用指図だけしかできなくなってしまうデメリットがあるためです。
また、60歳以上でないと受け取れないDCに対し、DBは退職時に退職一時金として払い出すことができるメリットがあります。老後資金と割り切って積み立てるのであればDCのメリットは活きますが、中小企業が退職年金制度として導入する場合は、退職時に一時金が用意できるというメリットは大きいものと思います。
加えて、DCの拠出限度額は現在でも最大で年額66万円(DBを実施していない場合)であり、拠出に限度額がないDBの方が使いやすいといえます。
さらに、DCを導入する場合に必要となる従業員に対する投資教育の実施ということも、大きな負担に感じる企業が少なくないと考えられます。
――オリックスが提案している総合型DBとは?
三宅 「ベネフィット・ワン企業年金基金」は、業種・規模・所在地を問わず加入できる総合型DB制度です。オリックスでは同基金の提案営業のお手伝いをするとともに、基金の記録管理業務および数理計算業務を受託しています。
この基金は2010年9月に組成しました。資産運用は生命保険会社の一般勘定のみで行い、生保会社が元本および最低利回りを保証する運用手法をとっていることに特徴があります。現在、加入企業は119社、加入者数は3834人ですが、1年前の2013年6月末の加入企業数は76社でした。厚生年金基金解散の受け皿として検討していただくケースも増えていて、現在、全国で加入の案内をしています。
年金の給付設計は、「キャッシュバランスプラン」を採用し、積立累計額に国債等の利回りを基準にした利息累計額の合計が給付される仕組みです。利息額は、長期金利によって変わるため、積立不足が発生しにくい仕組みになっています。また給付額が債券市場に連動するため、インフレに強い仕組みということも言えます。また、年金資産の運用状況は、保証利回り年1.25%に配当が加わって年2%程度の運用実績となっています。給付額に上乗せする利息のベンチマークである国債利回りの水準を超える運用実績が続いているため、リスク資産による運用を選択しなくても剰余金が積み上がっている状況です。
厚生年金などの被用者年金の被保険者であれば従業員1人でも加入できる制度なので、多くの企業が対象になります。また、この基金は会計上、複数事業主制度となりますので、DB制度でありながら退職給付債務をバランスシートで認識せず、DCと同じように費用処理のみで済みます。そして、従業員一人ひとりの給付残高が個別管理され、自分の給付額について透明性も高い制度になっている点もDCと似ています。
――今後の企業年金は引き続きDBが中心なのでしょうか? DCが発展する可能性は?
三宅 企業年金を退職金制度の一部と考えると、DBの方が企業や従業員にとって使い勝手が良いように感じます。もちろん、DCなら従業員は自分の判断で運用し、大きな収益が獲得できる可能性もありますが、反対に運用でマイナスになる可能性もあります。良いか悪いかは別として、資産運用に関して慎重な国民性にとっては、運用の巧拙とは関係ない仕組みとして、DBを好む方が少なくないと思います。
ただ、DCは徐々に導入企業や加入者が増えていることは事実です。将来的にDC導入を検討する場合でも、「ベネフット・ワン企業年金基金」などで採用しているキャッシュバランスプランは、国債利回りに連動する運用なので、債券利回りへの関心を高める効果はあります。そうして徐々に資産運用についての知識が広まる中で、自分自身で資産運用をしたいというニーズが高まれば、その段階でDC制度を導入するという発展はあるでしょう。
齊藤 当社ではFP資格を持った担当者が、世代別のセミナーを開催し、各世代の置かれた状況に応じた資産運用についてアドバイスをしています。そして、このような取り組みに積極的に参加する社員もいますので、選択肢のひとつとしてDCを用意したことは有効だと思っています。
企業として従業員に対して、どのような制度を提供するのかということは、個々の企業によって個性があって当然です。企業年金制度の改革についての議論もあり、企業年金制度そのものが変革期にあります。今後の発展のあり方については、様々な可能性があると思います。(取材・編集担当:徳永浩)
オリックス営業推進部企業年金担当部長の齊藤幸代氏(写真:左)と、同部年金営業第一チーム長の三宅規文氏(写真:右)に、同社が運営する総合型DBの特長と、企業年金が抱える課題等について聞いた。(写真は、サーチナ撮影)
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2014-08-21 11:15