GDP予測2~3%に下方修正、下半期の経済リスク=香港ポスト
特区政府が8月15日に発表した第2四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で1.8%。第1四半期の2.6%から縮小し、2012年第3四半期以降の過去2年で最低となった。主に旅行者による消費減少と内需の減速が影響した。通年伸び率予測は5月に発表した3~4%から2~3%に下方修正した。下半期の見通しでは不動産市場の過熱再燃や米国の早期利上げなどが経済危機を招くリスクとして指摘されている。
経済統計の発表に先駆けた10日、曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は公式ブログで通年の経済成長の減速と失業率上昇などのリスクがあることを警告していた。香港の下半期のリスクとしては、米国の早期利上げ、地政学的リスクの増大、不動産市場の過熱再燃を挙げ、さらに香港政局の不安定が加わり国際投機筋に機会を与え、金融・経済危機を招く恐れがあるとの懸念を示した。
香港金融管理局(HKMA)の陳徳霖(ノーマン・チャン)総裁も11日、HKMAのウェブサイトに掲載した論説で、米国の利上げによって香港に三重の打撃が訪れると警鐘を鳴らした。陳総裁は「米国の利上げが始まれば過去5年に香港に流入した1000億米ドル余りの資金が流出し、香港は流動性収縮、金利上昇、資産価値の下落圧力という三重打撃に見舞われる」と指摘した。
恒生銀行はリポート「香港経済月刊」8月号で、通年のGDP伸び率予測を先に発表していた3.3%から2.8%に引き下げた。第2四半期の経済成長では個人消費による貢献が第1四半期より劣り、投資も顕著に縮小したため全体的な経済成長を押し下げたと指摘。下半期の経済見通しについては先進諸国の経済回復に伴いアジア各国の輸出も全面的に増えるとみているが、注目されている小売りなど内需の見通しについては悲観的な見方を示した。
特区政府統計処が発表した6月の小売り統計によると、小売業総売上高は前年同月比6.9%減、価格変動要因を考慮した小売業総販売量は同7.5%減。ともに前月に比べ減少幅が拡大した。売上高が減少したのは宝飾品・時計・高級贈答品の同28.2%減、耐久消費財の同23.9%減、電器・撮影器材の同15.3%減などとなっており、主に中国本土からの旅行者による消費で支えられていた分野である。
香港政府観光局(HKTB)が発表した観光統計によると、6月の来港者数は前年同月比6.9%増の449万2695人。伸び率は今年に入って最低となった。うち本土からの旅行者は同7.8%増の339万5330人。上半期の来港者数は前年同期比12.5%増の2852万9215人。うち本土からの旅行者は同16%増の2182万2829人。宿泊客による1人当たり消費額を見ると、上半期は同3.2%減の7978ドル。うち本土からの旅行者は同3.9%減の8771ドル。旅行者による消費減少が内需に響いたことは明らかだ。
かねて観光客増加による弊害が叫ばれる中、立法会の方剛・議員(卸・小売業界選出)らは8月5日、自由行(本土からの観光目的による個人旅行)を削減した場合の経済への影響に関する調査研究報告を発表した。これは方議員が6月末に香港理工大学会計・金融学院の林本利・元副教授に委託したもの。先に自由行を20%削減した場合、GDPは約393億ドル減少、失業者数は1万385人との試算が学者らから出ていたが、林氏はこれを楽観過ぎると指摘。連鎖反応によって卸売り、運輸、広告などの業界に影響し、GDPは400億ドル以上減少、1万人以上が失業するとみている。小売業がGDPに占める割合は1.3%だが、従事者は34万人余りで就業人口の9.3%を占める。小売りと関連する業界の従事者は120万人に上り、自由行が削減されると多くの家庭が影響を受けるという。
● 住宅価格指数が過去最高に
特区政府が特に警戒するのが不動産バブルの再燃だ。特区政府差餉物業估価署が発表した6月の住宅価格指数は249.8で、5月の247.2から1.05%上昇。3カ月連続で上昇し、過去最高を更新した。上半期の累計では1.9%の上昇となる。ピークに当たる昨年8月の246.3を1.4%上回る上、返還バブルのピークである1997年10月の172.9に比べると44.5%も高い。
8月8日に発表された中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)は124。昨年3月の123.66を上回り過去最高となった。さらに15日には125.66まで上昇し2週連続で記録を更新。2010年以降に3度にわたり打ち出された過熱抑制策は効力を失ったことになる。
投資銀行モルガン・スタンレーの不動産アナリストは住宅価格が今年と来年それぞれ5%上昇すると予測。年初に発表した今年通年で10%下落するとの予測を修正した。米国の利上げが16年第1四半期まで先送りされるとみられることを理由に挙げた。不動産コンサルタントのクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドも政府が向こう1年は抑制策を強化することはなく、利上げペースも鈍いとみられることから通年で5%の上昇を予測している。
不動産市場の小幅回復を受けて不動産代理ライセンス所持者が増加していることも分かった。地産代理監管局の統計では7月末現在の不動産代理ライセンスを持つ個人は3万5550人で、前月末に比べ0.2%増。3カ月連続での増加となり、4月末に比べ173人増えた。支店数は同0.05%増の6296店舗で、店舗数の記録としては過去最高となった。
香港中文大学の生活質素研究中心が発表した「2013年香港生活質素指数」では住宅ローンの負担割合が最も悪化していることが示され、中位数の収入を持つ市民が九龍地区で400平方フィートの物件を買うには14年分の収入が必要になることが分かった。住宅はますます市民の手の届かないものとなっており、公共住宅の需要も高まっている。6月末現在の賃貸型公共住宅の累積入居申請(当選待ち状態)は25万5800件で、3月末に比べ3.1%増。わずか3カ月の間で7700件も増え過去最高を更新した。
14/15年度に供給される賃貸型公共住宅は新たに完成する物件が9800戸、回収・改装によって供給できる物件が1万5000戸で、計2万4800戸となる。だが前年度に比べ8800戸少なく(26%減)、08/09年度以降で初めて3万戸を下回り、96/97年度以降では最低となる。特に新築物件は前年度のわずか半分で、過去7年で最も少ないことが響いた。今年は平均3年で入居可能という承諾は守れない可能性があり、住宅難による市民の不満も大きな潜在的リスクといえる。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:水野陽子)
特区政府が8月15日に発表した第2四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で1.8%。第1四半期の2.6%から縮小し、2012年第3四半期以降の過去2年で最低となった。主に旅行者による消費減少と内需の減速が影響した。通年伸び率予測は5月に発表した3~4%から2~3%に下方修正した。
china,column
2014-09-01 00:30