<推定>と<視為>はどう訳す?
日本経営管理教育協会が見る中国 第323回-高橋考治(日本経営管理教育協会会員)
● 「推定」と「みなす」の法律用語上の違い
中国語での法律用語、特に「推定」と「みなす」に相当する言葉に着目してみよう。中国語を学習をしていても、あまり気にすることのない言葉だろう。しかし、このような専門用語にこそ「うまく訳す」ポイントが隠されている。
まず、日本語の意味を確認しよう。「推定」とは「ある事柄について、法令が一応一定の事実状態にあるものと判断し、そのように取り扱う」ことをいう。したがって、反対の事実があることが証明されれば、その後は「新たに証明されたことにもとづいて判断される」ことになる。
これに対して「みなす」とは「ある事物と性質を異にする他の事物を、一定の法律関係につき、その事物と同一視して、そのある事柄について生じる法律効果をその他の事物について生じさせることをいう」とされている。
● 日本の民法における扱い
普通は、「推定」と「みなす」の違いは反証を許すか否かと解説されている。
例えば、日本の民法第4条では、「満20歳をもって、成年とする」という条文がある。さらに第753条では「未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす」と規定している。この婚姻による成年条件は「みなす」なので、反証は許されないことになる。つまり、仮に「20歳になる前に離婚した」と反論したとしても無効だ。すでに「みなされて」いるのだから、成年として扱われることになる。
● 中国の著作権法の例から翻訳上の注意点
日本語の「推定」を中国語に訳す場合<推定>、日本語の「みなす」は<視為>もしくは<為>の語があてはめられる。なお、中国語部分だが、中国大陸においては簡体字(略字体)が用いられるが、本文章では日本の常用漢字で表記する。
さて、「推定」と「みなす」、あるいは<推定>と<視為>についてだが、単純に訳すと間違えることになる。
中国の著作権法第11条第4項には「例えば、反証のない限り作品上に署名している公民、法人、その他組織が作者とみなされる」とある(原文は「如無相反証明,在作品上署名的公民、法人或者其他組織為作者」)。非常におかしな文章と言える。「反証のない限り……みなされる」となっている。
この点を見ると、残念ながら中国語では法律用語がかなりいい加減に使われていると言わざるをえない。そして、中国語だけを知っていても、日本語として間違いのない訳を作ることはできないということが改めて浮き彫りになる。中国語以外の専門分野を持ち、その分野の言葉に精通してこそ、このようなことに気づけるというわけだ。
そのように考えて日本語としての法律用語に間違いがないように著作権法第11条第4項を訳すなら、「例えば、反証のない限り作品上に署名している公民、法人、その他組織が作者と推定される」とするべきだろう。もちろん、どんな辞書にも<為>を「推定する」と訳しているものはない。通訳家や翻訳家を目指している人には、このようなことにも注意して欲しい。(執筆者:高橋考治・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)
中国語での法律用語、特に「推定」と「みなす」に相当する言葉に着目してみよう。中国語を学習をしていても、あまり気にすることのない言葉だろう。しかし、このような専門用語にこそ「うまく訳す」ポイントが隠されている。
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2014-09-10 16:00