【MSカンファレンス】特別対談、NISA元年の実践的な運用戦略

モーニングスターが2014年1月11日、東京・港区で開催した「モーニングスターカンファレンス2014」で、フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏と、モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏が対談し、「NISA元年」にあたって「これからのポートフォリオの作り方(実践編)」をテーマに語り合った。両氏が一致して語ったのは、「資産運用の手順として、まず、『目標を決める』ことが大切で、目標に応じて自ずと運用商品の選択は決まる」(朝倉氏)という点。「NISAを資産形成の手段として上手に活用してほしい」(野尻氏)と呼びかけた。
■4つのマイナスと1つのプラス
野尻氏は、2014年を考える上で、「3つのマイナスと1つのプラス」という考え方を示し、「3つのマイナスとは、2013年末で証券優遇税制が廃止されたこと、4月に消費増税が実施されること、そして、2015年1月には相続税の増税が実施されること。NISAは、その中で唯一、プラスメリットのある新制度。上限100万円で利用価値が小さいという声も聞くが、使わないと損という気持ちで活用を検討してほしい」と語った。
これに対し、朝倉氏は、「マイナス要素は、もう一つあって、今後やってくるインフレは、実質的にお金の価値を低下させるものなので、大きなマイナス要因。資産運用をしてインフレへの備えをしておかないと、増税よりも厳しい苦労をすることになるかもしれない」と語り、資産運用の重要性を強調した。
■世代別に考えるNISA口座の活用メリット
野尻氏は、「資産運用は、世代によって考え方が違ってくる」として、世代ごとに異なるNISA口座の活用法を提言。「就労している現役世代は、資産を増やすことが大きな目的になるので、NISA口座では成長性を重視した運用を心掛ける。退職を意識し始める50代-60代の方々は、リスクを少しずつ抑えながら退職後に資金を引き出しながら運用を続けることに備える。また、70代後半になって蓄積した資産を引き出しながら生活する世代では、NISA口座でも毎月分配型投信を活用して上手に資金を取り崩すということも選択肢になる」と語った。
また、「資産を使いながら運用する」考え方として、「たとえば退職時に3000万円の金融資産があるとして、毎年、残高の4%を引き出しながら、年3%で資産を運用していくと考えると、毎月10万円を取り崩しながら、60歳から75歳までのの15年間を過ごしたとしても、15年後に金融資産は2580万円残っていることになる。これだけの資金があれば、その後に運用することを止めても毎月10万円を取り崩して20年以上にわたって生活すること可能になる」と紹介した。
■年3%-5%の資産運用を実現する資産運用
朝倉氏は、120兆円あまりの公的年金を運用する世界最大の運用機関であるGPIF(年金積立金運用管理独立行政法人)が「過去10年間の平均で年3%程度の実績を残していることから、年3%程度の運用を安定的に実現することは可能」と語った。「ただ、安定運用を行う上で中心的な運用先と考えられる債券の利回りが、世界的な低金利で低くなっていることから、ややリスクを取って株式の運用配分を高めにすることが現実的な対応といえる」とし、モデルポートフォリオの事例を紹介した。
そこでは、株式と債券の配分を50対50にすることを取り上げた。資産配分の内訳は「国内株」20%、「先進国株」20%、「新興国株」10%、そして、債券部分では「先進国債券」30%、「新興国債券」20%という割合。期待される運用利回りは3%-5%としている。「大事なことは、資産を分散し、自分の目的に適った運用ポートフォリオを組むこと」とアドバイスしていた。
また、朝倉氏は具体的に投信を選定する際に、「コスト(販売手数料や信託報酬など)」「リスクとリターン」「運用資産残高の推移」の3つのポイントを必ずチェックすることすすめた。「非課税口座のメリットを活かすことにおいて、手数料等の運用コストはできるだけ低いものを選びたい。また、10年以上など長期にわたる運用成績をチェックして相場の大きな変動期にも安定した運用成績が確認できる投信を選ぶこと。さらに、投信の運用資産残高は、資産の増減が激しいものではなく安定的に資産が増えているものを選びたい」と語っていた。
■2014年は大きな転機の年
野尻氏は、NISAという新しい制度が導入されたことについて、「資産形成を行う個人投資家のために初めて制度化された優遇税制と考えることができ、これによって長らくいわれ続けてきた『貯蓄から投資へ』ということが実践に向かう、重要な分岐点になるかもしれない」と期待を語った。
そして、「現在、日本の個人の資産は、不動産も含めると総額で2200兆円から2300兆円程度ある。この中で最大の資産は、現預金で38%を占める。バブル景気の絶頂のころは不動産が60%を占めて土地神話などといわれたが、今では不動産の比率は30%程度で現預金にかなわない。デフレ経済によって、現預金がバブルのように膨れ上がっている。今後、インフレに進むのであれば、いずれ、この現預金が投資資産に移動していくことになろう。その向かう先は、再び不動産ということにはならないだろう。このような日本全体の資産の動きを考え、今、何をすべきかということを考えていただきたい」と締めくくった。
朝倉氏は、「一人ひとりが、自ら資産運用を考える時代。投資信託は運用を運用会社に任せて託す商品だが、どの商品を選ぶのかということまで任せてしまってはいけない。自分の運用目的に適った商品を自ら選んで、自分にふさわしい運用ポートフォリオを構築してほしい」と呼びかけた。(編集担当:徳永浩)
モーニングスターが2014年1月11日、東京・港区で開催した「モーニングスターカンファレンス2014」で、フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏(写真:右)と、モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏(写真:左)が対談した。(サーチナ撮影)
japan,economic
2014-01-11 20:30