中国調達:町工場の廃業、受け皿になる中国サプライヤー

誰も知らない中国調達の現実(230)-岩城真   数年前に団塊世代の退職による日本の製造業の技術力低下問題が投げかけられた。それから5年ほど経った今、日本の町工場の廃業が静かにはじまっている。企業に雇用される労働者は60歳で定年した後、再雇用制度によって65歳くらいまで働く。一方、町工場の経営者の引退は、それから約5年のタイムラグがあるようだ。つまり団塊世代の経営者の引退と廃業のはじまりである。   最近、筆者は廃業を決めた町工場の社長と面談した。廃業の理由は、社長の高齢化と後継者がいないためである。しかし、その社長のケースは、泣く泣くといった後ろ向きの廃業ではなく、「ライフプランに基づいたもの」と明るいことが救いである。社長は70歳を越えたとはいえ、顔の色艶もよく健康そのものである。社長曰く、「元気な内に引退させてくださいよ、家内孝行もしたいのでね」と満面笑みを浮かべて語った。   元請企業のバイヤーとして考えなくてはならないことは二つある。廃業する企業に今まで発注していた部品の転注先をどうするか、廃業する企業から仕事を請けていた企業、いわゆる孫請け企業の経営問題である。この二つの課題をコラボレートさせて、上手に解決することもバイヤーの重要な仕事であり、その手腕が問われるところである。   しかしその類の話になると、「孫請けのことは、何も心配しないで大丈夫です。弊社の廃業を待って廃業する会社ばかりです。仲間は、みな同世代。どちらかというと、私が彼らの廃業を引き延ばしてきたのです。ですから転注先は、岩城さんの方で・・・」と、件の社長は、半分晴々としたように、半分申し訳なさそうに話した。   筆者の立場からすると、ややこしい話がなく転注は進めやすい。それでは「どこに転注するのか?」という結論を先に書いてしまうと、中国しかないのである。この類の町工場への発注価格は、材料費相当分を除くと20年以上不変といったものが大半なのである。設備の償却をとっくに終え、そこで働く経営者も労働者も年金受給世代となり、今までと同じ仕事ならば、ずっと同じ加工賃でなんとかやっていけてしまうのである。新しい顧客を探す、新しく設備を導入するといったことには耐えられないが、今までと同じ仕事ならば要領もわかっているので、新規参入の競合企業に対しても優位性を確保できるのである。   そのような受注企業に発注企業も甘えてしまってきた一面もあって、発注価格は驚くほど低く、国内の同業者に新規に見積を依頼すれば、2割、3割どころか、場合によっては2倍の価格になってしまうのである。人件費の上昇に加え、円安の逆風があっても、頼みの綱は中国サプライヤーなのである。しかも、中国のサプライヤーは、景気低迷と設備過剰から工場稼働率が低く、日本向けの比較的小ロットのオーダーにもとびついてくる。もちろん、日本国内のサプライヤーにも見積依頼をするよう担当バイヤーに指示しているが、中国とは逆に景気回復で忙しくなっている日本国内のサプライヤーは、興味を示さないかもしれない。振り返ってみると、サプライヤーの廃業や倒産後の転注先の半分は、中国サプライヤーが受け皿になっているのである。   最初に「後継者がいない」と書いたが、子供がいなかったわけではない。件の社長に「息子さんは?」と訊ねると、「お蔭さまでサラリーマンとして何とかやっていますよ」と話しだした。「息子は継ぐつもりでいたんですよ。高校生の時『家業を継ぐから、もう勉強しない』と言って、夏休みに工場に入ってきた。将来のことを考えたら手放しで喜べずに、『勉強して大学へ行け』と言って工場から追い出しちゃった。それ以来、工場には息子を一度も入れなかった。大学を卒業してサラリーマンになり家業を継がないのは、私の希望なんです」と話した時だけは、笑みを絶やさなかった社長の目に光るものがあった。   息子の将来を考えたとき「家業を継がせない」と判断させてしまった頃は、筆者をはじめセットメーカーのバイヤーが、次から次へと中国への転注を進めていた時ではなかったのか?と思うと、筆者は心にチクリと刺さるものを感じざるを得なかった。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
数年前に団塊世代の退職による日本の製造業の技術力低下問題が投げかけられた。それから5年ほど経った今、日本の町工場の廃業が静かにはじまっている。企業に雇用される労働者は60歳で定年した後、再雇用制度によって65歳くらいまで働く。一方、町工場の経営者の引退は、それから約5年のタイムラグがあるようだ。つまり団塊世代の経営者の引退と廃業のはじまりである。
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2014-10-14 10:15