中国調達:注文残が減っても残業を続ける中国工場

誰も知らない中国調達の現実(221)-岩城真   昨年の後半ごろから中国景気の停滞の影響のためか、中国サプライヤーからの納期遅延が激減、というよりも皆無になった。それどころか、細切れに残っていた注文残さえきれいさっぱりなくなってしまうサプライヤーも現れた。(筆者は注文数を超える納品を認めていないため、サプライヤーは注文数だけ仕込みを行い、万一不良が発生すると、その分だけ欠品として注文残が発生し、次の注文時にその分だけ多く作る契約にしている。そのことで、概略の出荷前不良率が日本にいても把握できる。)   これは効率と関係なく、抱えた仕事を片付けてしまえるまで工場の負荷が低くなっていることを意味しているともいえる。それほどまでに受注量が減っているのである。ところが、民工を中心に雇用している上海の工場は依然として土曜日も操業し、残業もしている。もちろん、短納期の仕事でも無理して受注しているからとも考えられるが、どうもそれだけではない。その辺の事情について、今回は話題にしたい。   ずばり最初に答えを書いてしまうと、従業員の手取り収入が減ると、従業員は離職してしまうので、人材をつなぎ止めるためには、何としても残業や土曜日操業(日給月給制のため出勤日数が減ると収入も減る)を継続しなくてはならないのである。中国の民工というと、世間では残業を嫌う80后、90后のことが話題になっている。しかし、中国の民工といっても、80后より上の世代も少なくない。   また、職種もいわゆる手に職のない単純労働者と筆者のサプライヤーの従業員のような旋盤工、溶接工といった職人までと様々である。少なくとも筆者のサプライヤーの従業員たちは、上海にいる間に稼げるだけ稼ぎたいと思っている。休みが増えれば、単純に収入が減るだけでなく支出も増える。時間つぶしに何をするかといえば、たいていは花札、麻雀といった賭け事になる。勝って得たカネなど、早々に使ってしまい、負けて失った分だけ仕送りが減ることは、彼ら自身が誰よりもわかっているのである。   そもそも景気が悪く仕事が減っているにも関わらず、なぜ人材市場は売り手市場なのだろうか。答えは単純で、旋盤工が減っているからだと思う。筆者の取引のあるサプライヤーで働く旋盤工の民工のほとんどは、国営企業や郷鎮企業で技術を身につけている。余剰人員を大量に抱えていた地方の国営企業、郷鎮企業は、結果的に職人養成機関といった役割を担っていたのではないだろうか。   そもそも旋盤工は、中学校の劣等生では勤まらないから、それなりに気の利いた人材である。中国の農村家庭では、高校進学が限界であった。ところが現在は、農民の子弟であっても大学に進学する者も現れている。旋盤工志願者は減少し、しかも余剰人員を抱えるほど大量に受け入れる国有企業も今はない。そのような理由から旋盤工は減少しているのではないだろうか。事実、50歳代の旋盤工に、息子は何をしているのか?と訊ねると、大学や高等専門学校を卒業してエンジニアになったと誇らしげに答える人も少なくない。   中国のサプライヤーが無理しても工場をフル稼働させるのは、人材の引き留めだけではない。経営者としても、設備をフル稼働することを前提に設備投資をしてきている。人件費が上昇しているものの、設備や建屋の償却費に比べて人件費は小さい、つまり中国の生産工場で固定費といえば固定資産の償却費なのである。(日本の場合は、最大の固定費は人件費であり、それを変動費化する魔法が、派遣労働者の活用であった。)それゆえに経営者も、とにもかくにも設備を稼働させたがる、操業することに執着するのである。   最後に蛇足をひとつ。日本のサプライヤーは、受注が減ってくると却って納入が滞ることがある。中国とは逆に最大の固定費は人件費である。それゆえに納期が迫っても、休日出勤はもちろんのこと、残業もしないといった経営に走りがちである。注文残で少しでも長く定時操業を維持しようという戦略である。その結果、バイヤーとの契約納期が反故にされることになる。バイヤーにとっては、要注意事項である。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
昨年の後半ごろから中国景気の停滞の影響のためか、中国サプライヤーからの納期遅延が激減、というよりも皆無になった。それどころか、細切れに残っていた注文残さえきれいさっぱりなくなってしまうサプライヤーも現れた。(筆者は注文数を超える納品を認めていないため、サプライヤーは注文数だけ仕込みを行い、万一不良が発生すると、その分だけ欠品として注文残が発生し、次の注文時にその分だけ多く作る契約にしている。そのことで、概略の出荷前不良率が日本にいても把握できる。)
china,column
2014-01-14 10:45