これから本番を迎える中国経済の構造改革に重なる3つの困難=大和総研
大和総研経済調査部シニアエコノミストの齋藤尚登氏は2014年10月28日、「三期畳加と新常態」と題したコラムを発表した。中国経済が置かれている厳しい状況を表す「三期畳加(さんきじょうか)」という言葉と、中国で今年もっとも流行した「新常態(ニューノーマル)」を対比させ、中国で注目される「経済成長速度のギアチェンジ」に、習近平体制が進める綱紀粛正が重なって進行する難しさを指摘。これから本番を迎える構造改革を「(中国が)どう乗り切るかに注目したい」と締めている。コラムは、以下の通り。
三期畳加(さんきじょうか)とは聞きなれない言葉かもしれない。直訳すれば、「三つの期間の重なり」である。これは中国が置かれている厳しい状況に対する認識であり、三つの期間とは、一般に、(1)経済成長速度のギアチェンジ期、(2)構造改革の陣痛期、(3)4兆元景気対策の消化期、を指す。(「三期畳加」の「畳」の字は、中国語表記では、上の冠部分の「田」が「又」を3つ重ねた形=「桑」の上部)
経済成長速度のギアチェンジとは、改革開放政策導入以降の平均10%近い「高速」成長から「中速」成長への移行であり、中国社会科学院マクロ経済動向実験室は、2016年-2020年の潜在成長率は平均5.7%-6.6%へ、2021年-2030年は同5.4%-6.3%へ低下するとしている。
構造改革の陣痛と過去の景気対策の消化とは、投資に過度に依存した経済発展パターンから消費主導への移行の難しさであり、投資効率の低下、生産能力の過剰、住宅市場の過剰在庫、イノベーション能力の不足、地方政府債務など負債率の上昇、財政・金融リスクの増大、資源浪費や環境破壊など問題が噴出している。
諸問題を改善するには、改革を深化させるしかない。それを阻むのが、許認可権を握る官庁や腐敗した党幹部などの既得権益層の抵抗であり、行政認可項目の削減や習近平総書記が主導する綱紀粛正が、そこにメスを入れようとしている。
新常態は、今年、中国の経済分野で最も流行した言葉であろう。ここ数年の成長率が7.5%前後で安定していることに焦点が当てられるが、それだけではない。新常態は、三期畳加を踏まえており、「中速」成長はもう少し下に幅があるし、さまざまなリスクに対応しつつ、経済構造改革を推進することを内包している。
リスク対応と経済構造改革についても端緒が開かれている。地方政府債務問題では、財政部が「減らすだけで増やさない」という強い姿勢で抜本的な処理方針を固めるなど、大きな一歩を踏み出そうとしている。今後の持続的安定成長には、消費が厚みを持つことが不可欠であるが、中国は都市と農村で分断されている年金制度を2015年末までに統一する方針を既に打ち出している。これにより、農村・都市間の年金の接続が可能になり、人口移動がスムーズになると期待される。農村からの移転者が都市で安心して消費ができる体制を整備しようとしているのである。
もちろん、構造改革はこれからが本番である。今後、中国が三期畳加という困難な時期をどう乗り切るかに注目したい。(情報提供:大和総研、編集担当:徳永浩)
大和総研経済調査部シニアエコノミストの齋藤尚登氏は2014年10月28日、「三期畳加と新常態」と題したコラムを発表した。
china,economic
2014-10-28 19:15