中国の中小企業決算書

日本経営管理教育協会が見る中国 第289回--下崎寛(日本経営管理教育協会会員) ● 中国の決算書とその運用   私の事務所は、中国に進出している日系中小企業の会計を支援している。私は税理士であるが、中国では日本の税理士は中国の資格として利用できないことから営業ができない。そこで、中国の会計士事務所と協力して会計業務を行っているが、そこで中国の中小企業の決算書を見ることがある。   中国では、中小企業の決算書は簡単に見せてくれない。企業の儲けのノウハウが詰まっているので、企業のトップシークレットとなっている。   また、中国では、決算書について中国の会計士の監査証明がないと税務当局に申告ができないし、資本金以上の赤字が発生したり、税務申告しないと営業継続ができないこととなっている。日本では、上場会社以外は、会計士の監査証明がなくても申告ができるし、赤字であっても会社の営業はできるので、中国では会計申告制度は日本よりも厳しい。さらに、日本では考えられないが、中国の会計事務所は、税務当局の税務調査も一部代行している。したがって、中国の会計士は、納税者の立場ではなく、税務当局の税務事務代行としての立場もあり、上場会社の監査を専門とする日本の会計士とは異なる。そのため外資企業については、監査納税が厳しくチェックされる。 ● 中国の中小企業の決算書は複数あり   中国の会計制度は国際会計基準に準拠しているが、中小企業においては、あいまいになっている。   まず、中小企業の決算書は、その目的(税務申告用、董事会用、銀行用等)によって異なり、実際どの数値が正しいか企業もわかっていなしし、相手からも要求がなく単なる形式の決算書となっている。   次に、中国の会計は増値税の申告を前提とする発票(インボイス)主義であり、増値税の領収書で収支を計算するため、未収、売掛金等の把握は重視されず、在庫管理等は現物の照合もされず会計担当者は辻褄合わせをしている。会計担当者が商品を横流ししたり、リベートをもらったりしていることもある。   さらに、原価計算の概念が甘く、会計は現金収入-現金支出の簡単な構造となっており、費用の区分が大まかであり、原価の把握よりも利益の数字が重視される。   また、利益の増加や損失の減少の傾向があり、損切、損出しをやりたがらない。損失を嫌うのは、会計担当者、経営者の成績、評価、責任になって出世に大きく影響するからである。さらに、納税が多いほど、過剰納税をするほど優秀な経営者や会計担当者とみなされる傾向がある。   以上のように、もともと中国の会計は、社会主義としての国を主体とした公営企業会計を基本としていることが原因と思われる。 ● 今後は中国の中小企業会計制度の整備が求められる   しかし、このままでは、中国の中小企業の決算書が形骸化し本来の経営分析、管理会計ができないまま推移していることは、中小企業の発展に大きな阻害要因となっている。   日本においては、企業経営のための厳正なる会計制度が運用されており、中小企業庁が2003年までは毎年中小企業の経営指標、それ以降は中小企業実体基本調査を行いその結果を公表、また中小企業診断士制度があり、中小企業の経営サポートを行っている。   そろそろ中国においても会計制度の質を向上させ、中小企業の経営、金融を支援する機関を設立する必要がある。   写真は中国のP/L。(執筆者:下崎寛・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)     
私の事務所は、中国に進出している日系中小企業の会計を支援している。私は税理士であるが、中国では日本の税理士は中国の資格として利用できないことから営業ができない。そこで、中国の会計士事務所と協力して会計業務を行っているが、そこで中国の中小企業の決算書を見ることがある。中国では、中小企業の決算書は簡単に見せてくれない。企業の儲けのノウハウが詰まっているので、企業のトップシークレットとなっている。
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2014-01-15 10:30