ポスト三中全会の財政・税制改革―課題となる地方政府の財源確保(1)=関志雄

中国経済新論「中国の経済改革」-関志雄
中国では、1994年に実施した「分税制改革」によって確立された現行の財政制度は、経済の安定成長に寄与してきた。しかし、内外の経済情勢の変化を背景に、資源配分と所得分配の改善という機能をもはや十分に発揮できなくなっており、財政収支赤字の拡大と政府債務の増大も加わり、改革を迫られている。
これに対して、習近平政権は、2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(以下「決定」)において、財政・税制改革の方針を示した(付録参照)。その後、それを具体化した「財政・税制体制改革深化総体方案」が中央政治局会議で審議・通過(2014年6月30日)され、また、改正された「中華人民共和国予算法」が公布された(2014年8月31日」)。続いて、「国務院の地方政府性債務の管理強化に関する意見」(2014年9月21日)、「国務院の予算管理制度改革の深化に関する決定」(2014年9月26日)も相次いで発表された。
三中全会の「決定」では、「予算管理制度の改善」、「租税制度の整備」、「権限と支出責任が対応した制度の構築」が財政・税制改革の優先課題として挙げられている。それに加えて、ここでは、「予算管理制度の改善」の項目として提示された「財政移転制度の改善」、「地方政府性債務管理の規範化とリスクの予防と解消」についても、詳しく解説する。
● 予算管理制度の改善
楼継偉・財政部部長が指摘しているように、全面的に規範化された、公開され透明な現代的予算制度を構築していくことは、予算制約を強化し、政府行為を規範化し、監督機能を効率化し、制度によって権力を制約することに向けた重要な改革でもある。その主な内容は次の通りである(楼継偉、「財政・税制体制改革を深化させ、現代的財政制度を構築する」、『求是』、2014年第20号)。
まず、予算の透明性を高める。機密に関わるものを除き、すべての部門に予算と決算の公開を義務付ける。特に、財政資金で手当てされた「三公」(公費海外出張、公用車購入・維持、公費接待)経費はすべて公開しなければならない。さらに、政府の予算と決算の公開内容を細分化し、部門の予算と決算の公開範囲と内容を拡大する。
第二に、政府予算制度を整備する。重点支出項目と年度財政収支の伸びやGDPを原則として連動させないようにする。これは、必要に応じて支出構造を変える裁量の自由度を高めるためである。また、政府収支のすべての項目を予算内に組み入れ、全体の予算を構成する「公共財政予算」、「政府性基金予算」、「国有資本経営予算」、「社会保障基金予算」の収支範囲と機能の位置付けを明確化し、互いの整合性を強化する。ここでいう「公共財政予算」とは、財源として税収が中心で、日本の一般会計に相当する。「政府性基金予算」は、財源として国有地使用権譲渡金(土地譲渡金収入)など、税収以外の収入が中心で、日本の特別会計に相当する。一般的に特定の財源を特定の支出に充てる。「国有資本経営予算」は、国有企業の利潤の上納などによる国有資本経営の財政収入とそれを財源とする支出の配分に関する予算で、「社会保障基金予算」は、社会保障の収入と支出の配分に関する予算である。2013年の各予算規模は、表1の通りである。
表1:全国予算収支の規模(2013年実績)(図入りサイト参照)
第三に、年度予算管理方式を改善する。予算審査の重点を、現在の収支バランスと赤字規模から支出予算と政策誘導へ広げる。年度を越えた予算の均衡メカニズムを確立し、中期財政計画管理を実施し、毎年更新される中期(三年)財政計画の年度予算に対する制約を強化する。
最後に、予算の執行管理を強化する。予算外の支出は一切認めず、予算の拘束力を強め、国庫の集中収支制度を徹底させ、国庫の現金管理を強化する。
● 租税制度の整備
現在の税制は、新たな発展段階に入った中国経済には、もはや適さなくなっている。特に、生産能力過剰問題の解決、所得分配の調節、資源節約と環境保護の促進の機能が弱く、多くの税制優遇政策が規範化されないまま実施されている。これらは、公平な競争と統一した市場環境の整備にとってマイナスになる。例えば、税収は増値税や消費税、営業税といった流通段階で課せられる間接税が中心になっており、所得や資産を対象とする直接税のウェイトは低い(表2)(注1)。前者は逆進性、後者は累進性が強いため、直間比率の低い現在の税制は、所得再分配の機能を果たしていない。新しい税制の構築に向けて、政府は、次の分野を中心に税制改革を進めようとしている(楼継偉「現代的財政制度を確立せよ」、『人民日報』、2013年12月16日付)。
表2:全国の税目別税収とその構成(2013年実績)(図入りサイト参照)
まず、税収の中立性の原則に則り、営業税から増値税へ切り替える改革を全面的に実行する。産業発展の法則に見合った、規範化された消費型増値税制度を確立し、二重課税の問題を解消する(注2)。市場の役割をよりよく発揮させ、企業の活力を引き出し、産業構造の高度化とビジネスモデルの革新を推し進める。まずは、交通運輸業と一部の現代的サービス業において営業税から増値税へ切り替え、その後、適時にその他のサービス業に改革の範囲を拡大し、「第十二次五ヵ年計画」の「営業税から増値税へ切り替える」という目標を実現する。同時に、税率を適切に簡略化する。
第二に、消費税の調節機能を発揮させる。消費税改革の重点は、経済社会の発展と住民消費水準の変化に合わせて、消費税の徴収範囲を適切に拡大し、一部のエネルギー消費が多く環境汚染のひどい製品と、一部の高級消費財を課税の範囲に組み入れることである。その上で、一部の税目の税率を調整し、消費税の調節機能をいっそう効果的に発揮させる。
第三に、房産税をはじめ、不動産税制の立法を加速し、適時に関連の改革を推し進める。このことは、市場の期待の安定に資するだけでなく、地方政府に持続可能かつ安定的な収入源を提供するのにも役立つ。現在、個人所有の非営利物件については、原則として房産税の徴収が免除されているが、上海と重慶では、一部の物件を対象とする徴収が試行されている。この経験を総括した上で、建設や取引段階の租税と費用負担を適切に軽減し、保有段階の徴税を増やす。
第四に、資源税の改革を加速する。資源税は従量課税方式となっているため、経済発展が進むにつれて、徴税額が低下しがちで、資源節約と環境保護の促進という機能は発揮しにくくなる。それを改めるためには、石炭などの重要な鉱物関連製品の資源税を従量課税から従価課税に改める改革を推し進め、引き続き従量課税方式が適用されるその他の資源関連品目の税率を適切に引き上げる。
第五に、環境保護費の徴収を課税方式へ切り替える。課税による省エネ・廃棄物削減と環境保護の面のプラス効果を発揮させ、資源節約型で、環境にやさしい社会の建設を促進するため、諸外国の政策を参考にし、現行の汚染物質排出料金の徴収から環境保護税に改める。税率の設計に際しては、現行の汚染物質排出料金の徴収基準、実際の環境対策にかかる費用、環境破壊コストと料金徴収の実際の情況などの要因を包括的に考慮する。
第六に、税制優遇政策を整理し規範化する。現在、各種の租税特恵区が林立している。一部の地方政府は、「独自の政策」を打ち出し、税収の還付などを通じて、形を変えた税の減免を行っている。これは、経済構造の最適化と社会の公平の実現にマイナスとなり、公平な競争と統一した市場環境の整備に悪影響を及ぼし、現代的財政制度を確立する趣旨に反する。今後、税収関連の専門法律・法規を除き、その他の法律・法規、発展計画と地域政策を作成する際に、税制優遇政策を盛り込んではならない。国務院の許可がなければ、勝手に企業に対する税制優遇政策を決めることはできない。財政紀律を正し、財政資金の配分と利用への監督と問責を厳格に行い、違法行為を厳しく取り締まる。
● 権限と支出責任が対応した制度の構築
長年来、中央政府と地方政府の間、各レベル地方政府の間の役割分担が曖昧で、不合理で、規範に合っていなかった。これを改めるためには、各レベルの政府間の収入と、権限と支出責任の区分を見直さなければならない(楼継偉「財政・税制改革を深化する、緊急性の高い三つの任務」、『人民日報』、2014年7月6日付)。
まず、税目の区分について、現在、税収の最大項目である増値税と企業所得税は、いずれも共有税と分類されているが、中央政府に帰属する比率(増値税の場合は75%、企業所得税の場合は60%)が高い。これを反映して、2013年の実績では、中央政府の税収は5兆6640億元に上っており、地方政府の5兆3892億元を上回っている(表3)。
表3:各税目による税収の中央政府と地方政府間の配分(2013年実績)(図入りサイト参照)
これに対して政府は、公平性、簡便性、効率性の原則に基づき、中央政府と地方政府間の収入区分を調整する方針である。具体的に、まず、収入の変動が比較的大きく、比較的強い再分配機能を備え、課税ベースの地域的分布が偏っており、課税ベースの地域間の流動性が比較的大きい税目を中央税に区分し、あるいは中央政府の取り分をやや多い共有税とする。また、地方政府の掌握する情報が比較的十分であり、現地の資源配分への影響が比較的大きく、課税ベースが相対的に安定している税目を地方税に区分し、あるいは地方政府の取り分をやや多い共有税とする。さらに、収入区分の調整により生じる地方政府の財源不足は、中央政府が税収返還方式を通じて解決する。
一方、各レベル政府間の権限と支出責任を合理的に区分し、中央政府の権限と支出責任を適切に強化する。具体的に、まず、国防、外交、国家安全、全国統一的な市場ルールと管理に関わる事項は中央政府に集約し、委託事務を減らし、統一管理を通じて全国的公共サービスの水準・効率を高める。また、地域的公共サービスは地方政府の権限とする。さらに、中央政府と地方政府の共同権限を明確化する。その上で、中央政府と地方政府の支出責任をさらに明確化する。最後に、中央は移転支出を計上することによって、一部の権限の支出責任を地方に引き受けさせることができる。
【注1】中国では、増値税、営業税、消費税は最も重要な流通税である。増値税は、物品の販売、加工・修理などのサービスの提供、貨物の輸入を対象とし、基本税率は17%で、糧食、食用植物油、水道、飼料、化学肥料、農薬、農機道具など一部の商品の税率は13%である。増値税は一種の付加価値税であり、日本の消費税と同じように、納付額は、売上税額から仕入税額を控除した差額となる。営業税は、サービスの提供、無形資産の譲渡、不動産の販売を対象とし、基本税率は3%または5%で、娯楽産業の税率は5%、10%、20%のいずれかである。消費税は、日本の旧物品税に当たり、煙草、酒・アルコール類、化粧品、貴金属アクセサリーなどの高額品、奢侈品などに課税されるものである。課税方式は従量と従価の二種類があり、対象品目によって税率が大きく異なる。
【注2】従来の生産型増値税では、固定資産の仕入税額が控除できないのに対して、消費型増値税では控除できる。企業にとって、その分だけ税負担は軽くなる。
(執筆者:関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー、野村資本市場研究所 シニアフェロー 編集担当:水野陽子)(出典:独立行政法人経済産業研究所「中国経済新論」) <(2)につづく>
中国では、1994年に実施した「分税制改革」によって確立された現行の財政制度は、経済の安定成長に寄与してきた。しかし、内外の経済情勢の変化を背景に、資源配分と所得分配の改善という機能をもはや十分に発揮できなくなっており、財政収支赤字の拡大と政府債務の増大も加わり、改革を迫られている。
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2014-11-23 11:45