量的金融緩和の波及-マネーは巡り、脱デフレを後押し-=村上尚己
本日(1月16日)日経新聞において、マネーストックの2013年の増加率が前年比+2.9%と大きな伸びになったことが報じられている。マネーストックとは、企業や個人などが保有するマネー(現預金など)の総額である。
記事では2013年通年の伸び率の高さを紹介しているが、月次の動きを確認すると、2013年1月は2%前後の伸びだったが、2013年末には3%超の伸びに高まっている(グラフ参照)。アベノミクス発動による景気回復が続く中で、企業や家計が保有するマネーが増えているということだ。
記事で紹介されているが、マネーストックが増えている要因の一つは、大幅な株高を支えた利益拡大で企業の手元資金が増え、それが預金の増加をもたらしていることである。
なお、1990年代末にマネーストックが大きく伸びたのは、当時は、大手金融機関の破たん懸念が高まり、企業や家計が「予備的な手元資金」を増やしたことで説明できる。この時期を除けば、2013年末の民間部門のマネーの伸びは、デフレが本格化する前の1990年代半ば以来ということになる。インフレ率は究極的には、モノ(やサービス)とマネー(お金)の相対的な量の変化で動く。マネーストックの増加は、長年続いたデフレから脱却しつつあることを、金融指標の動きから示している。
また同記事で強調されていないが、2013年のマネーストック増加は、企業の手元資金の増加だけが要因ではない。銀行貸出が増え始めていることも、民間が保有するマネーを底上げする要因になっている(グラフ参照)。現状、家計への住宅ローンが目立つが、企業の投資行動積極化で、企業による借り入れも増えている。
アベノミクス発動による、日本銀行の政策の転換で、人々のインフレ予想の高まりで実質金利(名目金利-予想インフレ率)が大きく下がり、それが貸出需要を強めている。また、日本銀行の量的金融緩和拡大で、銀行の融資姿勢や資産選択行動が変わった面もあるだろう。
冒頭の記事では「日銀が大胆な金融緩和で13年に金融市場に前年比48%増のペースで資金を供給したのに比べると、市中のマネーの量の伸びはまだ低い」と締めくくっている。ただ、ベースマネーとマネーストックの伸びを直接比較すること自体に、大きな意味があるとは言えない(マネーストックが48%伸びたら大変なことである)。
重要な点は、ベースマネーの変化が金融緩和強化の一つのシグナルとなり、人々のインフレ予想に影響を及ぼす経路である。この変化を通じて、景気回復が実現し、お金が回り始め、マネーストックを高めている。日本銀行がコントロールできて、かつ貨幣価値の源泉となるベースマネーと、マネーストックには緩やかな相関関係がある(グラフ参照)。アベノミクスによる金融緩和でベースマネーが大きく増え、それがマネーストック拡大をもたらしたと考えることができる。
「マネーストックの量はまだ低い」点が強調されるのは、「日本銀行が金融緩和を強化しても効果はない」「日本のデフレは構造要因」など、アベノミクス発動前に流布した言説が、まだ根強いということだろうか。同様にアベノミクスの根幹である金融緩和強化策に対して、その持続性に疑念を抱く投資家は案外多いのかもしれない。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
本日(1月16日)日経新聞において、マネーストックの2013年の増加率が前年比+2.9%と大きな伸びになったことが報じられている。マネーストックとは、企業や個人などが保有するマネー(現預金など)の総額である。
economic,fxExchange
2014-01-16 18:15