中国調達:見えないものにはカネを払わない中国
誰も知らない中国調達の現実(232)-岩城真
最近、ちょっとばかりカスタマーサービス(アフターサービス)の仕事に関わっている。もちろん日本国内ではない、中国でのカスタマーサービスである。筆者の所属する部門は、今まで海外でのカスタマーサービスは無きに等しかった。何かあれば、日本から技術者を派遣するスタイルだった。海外での販売を強化する以上、カスタマーサービスも強化しないわけにはいかない。そんな事情から関係会社のカスタマーサービス部門のマネージャーに話を聞いた。出るわ出るわといった感じで、彼は中国の愚痴、いやカスタマーサービス事業の問題点を話してくれた。今回は、その中のいくつかを考えてみたい。
彼は開口一番、「中国のカスタマーサービスは、ほんとうに“サービス”なんですよ」と言った。彼が言う“サービス”とは、要するに“無償”だということである。日本語でもサービスという言葉が、値引き、おまけといった無償の利益供与を示すことがあるが、まさにそれである。機械の無償保障期間はとうに経過しており、契約上は、紛れもなく有償なのであるが、対価を受けとれないのである。もちろん、部品を交換すれば部品代は請求するし、実際受け取る。しかし、肝心の工賃はダメなのだという。機械の性格上(彼は開発機械のカスタマーサービスを担当している)出張先は中国国内とはいえ、辺境である。技術者の人件費はともかく、往復の交通費だってバカにならない。無理に請求すると次の商談に影響するからと、代理店は頼りにならない。
日本国内では、カスタマーサービス部門は、一部の例外を除くと、競争にさらされることなく高収益を計上している。メーカーは本体販売の損失をカスタマーサービス部門の利益でバランスをとっている一面もある。実際、バイヤーの立場からしても、自社が受けるカスタマーサービス費を値切るというのはむずかしい。ところが中国では、その逆なのである。特定の顧客が支払を拒むのであれば、そのような顧客を相手にしなければよいが、どの顧客もそうなのであるから、そんなことを言っていたら、商売にならなくなってしまう。知的財産権の侵害でもそうだが、中国人は目に見えないもの、カタチの残らないものにはカネを払わないのである。
工賃を請求できない分を部品価格に上乗せする手法にも限度がある。元々サービスパーツ(補修用部品)は、割高なのである。組立ライン向けと比較して生産ロットが小さいということに加え、管理手間が何倍も掛かっているのである。例えば、パッキン・セットと呼ばれる油圧機器に使う数種類のパッキンをセットにしたものがあるが、その中身は1個数十円から数百円のパッキンである。それを要求のあった機種によって異なるパッキンをピックアップしてセットにする手間は、中身のパッキンの価格を超えてしまう。サービスパーツとは、そのような性格のものである。言うなれば、モノを売っているのではなく、管理手間を売っているようなものだ。そのような元々割高の価格をさらに高くすると、どうなるかというと、たちどころにイミテーションが出まわるのである。
それでは、中国で逞しく商売しているローカルメーカーはどうしているのかというと、はっきり言って、彼らの商売は“売り切り御免”なのである。つまり、売ったあとのメーカーの供給者責任などという概念を持ちあわせていない。逆に解すれば、カスタマーサービスで利益をあげようなどと考えていない。メーカーは、本体を売って稼ぐという、ある意味で真っ当なビジネスモデルなのである。
件のカスタマーサービス部門のマネージャーは、顧客のところに出張すると商売抜きで大歓迎してくれると言う。翌日の仕事に差し障りがでるほどの大宴会を開いてくれるそうだ。日本では顧客からこれほどの歓待を受けたことはないので嬉しい気持ちもある。しかし「歓待するならカネをくれ!」これが本音だろう。
カスタマーサービスに活路を見いだそうとする日系メーカーが、見えないものにはカネを払わない中国とどう折り合いをつけるか――それが、市場制覇のターニングポイントになるのではないだろうか。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
最近、ちょっとばかりカスタマーサービス(アフターサービス)の仕事に関わっている。もちろん日本国内ではない、中国でのカスタマーサービスである。筆者の所属する部門は、今まで海外でのカスタマーサービスは無きに等しかった。何かあれば、日本から技術者を派遣するスタイルだった。
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2014-12-09 02:15