「新たな時代」にラップ型ファンド「My-ラップ」の可能性=モーニングスター朝倉氏

モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏は2014年12月12日、SBIマネープラザ新宿中央支店で「『新たな時代』に求められる資産運用法――グローバル・アロケーション戦略のラップ型ファンドの活用」をテーマに、特別セミナーを開催した。世界的に不安定化する金融市場への向き合い方として、新たに登場したSBIグループで取り組むラップ型ファンド「My-ラップ」の商品性やその具体的な活用方法など、ズバリと切り込む講演に、約100名の来場者は最後まで熱心に耳を傾けていた。(写真はモーニングスターの朝倉智也氏のセミナーの様子。サーチナ撮影)
■新しい時代は、資産運用には難しい環境
朝倉氏は、現在の運用環境について、「新たな時代を迎え、難しい運用環境になってきた。足元は異次元緩和が実施されたことによって、日経平均株価は2012年11月14日の野田政権の解散発表を起点にすると、日経平均株価は2倍ほどに上昇。この間は、世界の株価も大きく上昇している。また、一般に資産運用を考えるときには、その時の金利水準が重要になるが、足元の金利は世界的に低金利になっている。
たとえば、日本の10年国債利回りは0.39%と過去最低水準、独は0.65%、米国は2.15%などという水準なので、運用を考えると、債券で利回りを得るには水準が低過ぎ、投資環境は不透明な状況にありながらも、株式での投資を考えざるを得ない状況といえる」と、現在は投資家にとって難しい環境になっていると指摘した。
また、「低金利でありながら、物価が上がっている。つまり、金利から物価上昇率を引いた実質金利は、マイナス金利になってしまう。たとえば、日本の状況は国債利回りが0.4%で、物価上昇率が1.5%程度と、実質マイナス1.1%。ドイツでも同じような状況になっている」とし、「運用しないこと」が「マイナス金利」のリスクにつながると語った。
ただし、資産運用にあたっては、より慎重な対応が必要だと注意を促した。「日銀の『異次元緩和』についても、たとえば、米国は量的緩和を3回にわたって行い、この秋にQE3の終了を宣言し、出口戦略を始めたが、このQE3が終了した段階で、米国の中央銀行(FRB)の資産残高は、米国GDPの25%の水準だった。これから10年をかけて量的緩和で過剰に積み上がった資産を減らしていこうとしている。ところが、日銀はこれまでにおいて250兆円の資産を積み上げ、すでにGDPの53%の水準になっている。
日本の量的緩和が異次元といわれるのは、これほどの規模で中央銀行が国債やETFなどを買い上げ、資金を放出しているところにある。今後も引き続き量的緩和を実施していくので、現在の計画が実行されると、2017年にはGDPの70%を占めるほどまで日銀の資産は膨れ上がる計算。これが、現在の日本の株価を支える要因」と解説した。
そして、「2017年4月には消費増税が控えています。日銀の量的緩和からの出口戦略のスタートを考えると、どこかで大きなショックが起こると考えることが自然だ」と、今後の資産運用で注意を払った方が賢明だというシグナルが、見て取れるようになった現状を挙げていった。(1)米国の「VIX」(恐怖指数)が、このところ大きく上昇してきている、(2)原油価格の急速な下落など。
朝倉氏は、「日本では今、異常な金融緩和策が実行されているので、これが、正常に戻ろうとするときに、何らかのショックへの警戒が必要。そのようなショックに備えることの方法の一つが、資産を分けて、分散して投資するということ」とアドバイスした。ただし、世界の金融市場の連動性が高まっており、連動性が高まってきているだけに、「これまでより、もっときめ細かな対応が必要になってくる」と、新たな投資環境に対応した、新しい分散投資の構築が必要になっていると語った。
■「スマート・ベータ」「リキッド・オルタナティブ」など新しい潮流
そこで、米国における投資信託の新しい潮流として「ETF」の人気、そのETFで採用が活発になっている「スマート・ベータ」という考え方を紹介した。一般にインデックスを作る場合は、TOPIX(東証株価指数)などでも採用されている時価総額加重平均という方法で、インデックスを作っているが、「スマート・ベータ」は、これまでのインデックスである時価総額ベースのインデックスを上回る成果が見込まれる、新しいインデックス。インデックス運用とアクティブ運用の中間に位置する投資手法といえるものという。日本で導入された「JPX日経400」などの新指数は、この「スマート・ベータ」という考え方に基づいて開発されたインデックスのひとつと紹介した。
また、「リキッド・オルタナティブ」という、従来は極めて限られた大口の投資家にしか提供されてこなかった「ヘッジファンド」に、「リキッド」(流動性がある)という、誰でもアクセスしやすい形でヘッジファンドを提供することが始まっていることを紹介した。「日本においても今後、金利が上昇していく過程にあっては、金利上昇に対抗する手段として、債券型のヘッジファンドなど、これまで日本では一般的ではない投資手法を用いたリキッド・オルタナティブのような商品が必要とされる時代が来る」と見通している。
■SBIグループのラップ型ファンド「My-ラップ」の可能性
そして、今年12月11日にSBIアセットマネジメントが設定した「SBIグローバル・ラップファンド(My-ラップ)」は、「これからのアセットアロケーションという最新の考え方を取り入れたファンド。モーニングスター・アセット・マネジメントが投資助言を行い、SBI証券が販売するというSBIグループ3社が共同で提供する新商品」として紹介した。
「My-ラップ」は、運用のコストを抑えるということで、ETFを組み入れ、この組み入れるETFの選定にあたって、モーニングスター・アセット・マネジメントが助言を行っている。モーニングスターが世界27拠点において評価しているETFの中から、「スマート・ベータ」の考えを取り入れたETFも含めて、評価が高いETFを組み入れる。
また、リバランスも含めて、資産配分の見直しもファンドの中で行う。「ラップ口座」とは、資産運用機関と投資顧問契約に基づいて、資産運用の指図を運用機関に一任してもらうサービスだが、それと同等のサービスを投資信託に取り入れたものになっている。基本的なポートフォリオとして、リスクが控えめな「安定型」と、比較的リスクが高く大きなリターンを狙う「積極型」という2つのタイプが用意され、販売にあたるSBI証券ではWEBサイトで、いくつかの質問に答えるだけで、投資方針やリスク許容度に応じた投資信託と、その組み合わせを選択できるイージーオーダー型の商品設計として提供している。
最後に、朝倉氏は、「My-ラップ」の活用法について言及し、「ひとつには、『コア』と『サテライト』という考え方に基づいて、『コア』とする資産に『My-ラップ』に90%を投資し、残り10%をサテライトとして自由に運用する。または、運用の時間軸を考え、5年以上の長期で運用する資金であれば『積極型』を選んでリスクを取った運用とする。3年以内の資金であれば債券の比率が高い『安定型』で運用するという考え方もできる」など。「安定型」、「積極型」の2つのポートフォリオそのものも、分散投資をしたポートフォリオなので、それを組み合わせることによって、より分散効果を高めることができると強調した。
「世界は、これまでになく不確かな時代になった。この新しい時代は、運用するのに難しい時代でもあり、それだけに、これまでとは違う考え方による分散投資が必要とされている」と講演を締めくくった。(取材・編集担当:徳永浩)
モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也氏は2014年12月12日、SBIマネープラザ新宿中央支店で「『新たな時代』に求められる資産運用法――グローバル・アロケーション戦略のラップ型ファンドの活用」をテーマに、特別セミナーを開催した。(写真はモーニングスターの朝倉智也氏のセミナーの様子。サーチナ撮影)
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2014-12-15 21:00