タンナスのソリッドタイヤ、自転車の次世代タイヤとして飛躍する新シリーズ投入

 「ソリッド(固体)タイヤ」、あるいは、「ノーパンクタイヤ」と呼ばれている自転車タイヤ分野に、韓国メーカーのTannus(タンナス)が化学の力で革新的な変化をもたらしている。「Aither」という特殊ポリマー素材を使い、従来のソリッドタイヤでデメリットとされていた重量(空気入りタイヤと比較して重い)、弾性(硬すぎる)などという課題に挑み、2015年から本格展開する新モデルでは、空気入りタイヤにかなり近づくことができているという。Tannus Global Marketing Centerの代表で、Tannus社マーケティング担当役員である三好多加也氏に、Tannusが新たに展開するソリッドタイヤについて聞いた。写真はTannus Global Marketing Centerの代表で、Tannus社マーケティング担当役員である三好多加也氏。 ――「Tannusタイヤ」全面リニューアルの準備が進んでいるということですが、既存の「Tannusタイヤ」と比べて何が変わるのでしょうか?  新シリーズは、特殊ポリマー素材「Aither」コンパウンドの混合比率を変え、加工方法も変えて、バージョンアップします。素材自体の違いによって、他のソリッドタイヤとの差別化を図ってきたタンナスが、素材そのものを進化させるのですから、単なるバージョンアップというよりも、まったく新しいシリーズを投入するということに等しい変化があります。  タイヤのサイズ区分こそ、現在の17サイズ種で変わらないのですが、タイヤのトレッドパターンはゼロから見直し、ほぼ全面的に刷新します。従来品は価格を下げ、手軽にTannusを試せるトライアル製品としてしばらくは販売を続けますが、店頭での販売も主力商品は新シリーズに切り替えます。  新素材は、従来品と比べて初動柔軟性がアップし、弾性特性は空気入りタイヤにより近い柔らかさと反発力を両立しています。見た目も、従来品よりも光沢が薄れ、ゴムに近い見た目になっています。転がり抵抗も8%-9%向上し、この点でも空気入りタイヤに近づきました。  また、これまでは韓国、日本、米国でしか発売していなかったのですが、2015年春からはイギリス、イタリア、スペイン、ドイツ、デンマーク、オランダ、ポーランドでも正式に発売開始されます。ソリッドタイヤのグローバルブランドとして、いよいよ本格的な展開をスタートします。 ――「Tannusタイヤ」の革新性とは?  韓国はポリマーとフォーミング技術で世界の最先端を走っているのですが、Tannus製品を製造販売するFine Chemical社(ファイン・ケミカル社)は、その中でも化学系の技術者が創業した会社として技術開発力で際立った能力を持ちます。たとえば、スポーツ用品分野では、国際的なトップブランドのランニングシューズのソール(靴底)を提供するサプライヤーとして長い実績を誇ります。アウトソールの素材からパターンに至る開発やミッドソールの弾性特性設計など、高度な技術力でマーケットを支えて来ました。また、アメフトのヘルメットやショルダーパットの内側に装備される衝撃吸収材などの分野でも世界有数なサプライヤーです。  Tannusというブランド名の自転車用のタイヤは、技術力と品質のみで勝負してきたFine Chemical社が初めて自社ブランドを冠した商品として、7年の歳月をかけて開発した商材です。私は2010年に国際的な展示会で、初めてTannusのタイヤに出会い、その軽さに衝撃を受けました。ソリッドタイヤは古くから研究されてきた分野ですが、一般には断熱材として使われるようなウレタンフォームなどの、ずっと重くて弾性特性の悪い素材を充填して作られているケースが大半です。このため、最終製品のタイヤも重くて硬いのが一般的なのです。  これに対してTannusは、空気のように圧縮でき、また発泡成形しても高い弾性を維持できるポリマー素材の開発に心血を注いで来ました。空気入りタイヤの場合、スポーツタイプでは最高12気圧(空気を12倍に圧縮)くらいに空気を圧縮してタイヤを硬くして弾性を実現します。Tannusが開発している「Aither」は、ポリマーチップを溶かして発泡させたもので、現在は成形の際に3気圧まで圧縮して製造しています。型枠に充填して成形し、最終的に一定の拡張率で圧力を逃がしつつ素材安定を終えると、空気入りタイヤのような弾性が完成します。また、空気を入れたタイヤとほぼ変わらないくらいの重量を実現しています。  一方、素材として独立性が強く、酸化しにくいなどの特性があります。接着剤も塗料も使えない素材なのですが、温度変化や紫外線による化学劣化などの経年劣化がないのです。空気入りタイヤは、表面がゴムなので、屋外に放置しておくとオゾンによる酸化劣化や熱や紫外線などで化学劣化してボロボロになります。この点、「タンナスタイヤ」は屋外に放置しても経年劣化がない、メンテナンスフリーという特徴があります。  さらに、摩耗も少なく、Tannusを装着後5000km走行した自転車による実験では、表面から1mmほど摩耗した程度でした。耐久性は空気入りタイヤよりも優れています。 ――空気入りタイヤと同じような機能を備え、さらに、メンテナンスフリーというメリットがあるということであれば、もっと普及していても良いと思うのですが、それほど「Tannusタイヤ」が普及していないのはなぜでしょう? 価格が高いのですか?  価格は、1本3800円からなので、一般の空気入りタイヤ一式(チューブやリムテープ込み)の価格と、ほとんど変わらない水準です。  普及が進まない理由は、まず、既存の自転車からタイヤを交換しようというニーズが少ないことだと思います。「ママチャリ」といわれる2万円以下の自転車が日本では多いので、「パンクしないタイヤ」、「メンテナンスの必要がないタイヤ」という理由で、前後輪合わせて8000円を使ってタイヤ交換するニーズがまだまだマスマーケットに於いては少ないところがあります。  また、既存の自転車のリム(タイヤの枠)に「Tannusタイヤ」を装着するにあたって、専門的な知識が必要なので、一般の自転車販売店ではまだ経験者不足で交換したことが無いメカニックが多いというネックがあります。慣れれば難しくは無いのですが。現在、日本における輸入代理店のEVERNEW社の特約店が全国で150カ店程度です。EVERNEW社では、購入希望者に自転車の車輪を送ってもらって、「Tannusタイヤ」を装着して送り返すというサービスも提供していますが、やはり手間がかかるという印象はあります。  さらに、そもそもソリッドタイヤは、空気入りタイヤと比較すると、“硬い”という先入観があるので、乗ってみないと信用されないハンディがあると思います。2015年から投入する新型Tannusは、乗り心地の点でも空気入りタイヤに迫っていますので、これから評価は高まってくると思います。 ――今後の普及に向けた取り組みは?  まずは、新シリーズの乗り心地を体験していただく体験会を全国で展開したいと考えています。ソリッドタイヤについては、かつてのウレタンフォーム製のタイヤのイメージが大きく、自転車に詳しい方々の間で、硬く乗り心地が悪い上に遅いという印象を持っておられる方が少なくありません。実際に新「Tannusタイヤ」を使っていただくと、それまでのイメージが一新されるものと思います。  また、現在は新車で「Tannusタイヤ」を装着して販売されている自転車は、日本では武田産業(株)から発売されている「チャクル(CHACLE)」シリーズのみですが、このような完成車への採用を積極的に開拓したいと考えています。たとえば、後輪のパンク修理が大変だといわれている電動自転車、また、業務用途では、警察官の白自転車、宅配便が都心部で使う自転車やリヤカーのタイヤなどは、ノーパンクタイヤの性格が生きると思いますので積極的に採用を働きかけたいと思っています。  我々は、自社の開発技術ならびにAitherという新素材のポテンシャルを信じていまして、近未来には自転車プロ・ロードレース・チームのレース本番での使用に耐える性能の製品開発を視野に入れています。あの、ツール・ド・フランスにチームを出して表彰台を目指すことは、決して夢物語だとは考えていません。「Tannusタイヤ」については、一度使っていただくと、もはや空気入りタイヤには戻れないと感じていただけるほどの使い心地を実感していただけると思います。まずは、消費者の皆さまに広く紹介する機会を増やしていきます。(編集担当:風間浩)
「ソリッド(固体)タイヤ」、あるいは、「ノーパンクタイヤ」と呼ばれている自転車タイヤ分野に、韓国メーカーのTannus(タンナス)が化学の力で革新的な変化をもたらしている。写真はTannus Global Marketing Centerの代表で、Tannus社マーケティング担当役員である三好多加也氏。
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2014-12-16 13:45