認知症にオメガ3系脂肪酸が光明、脳の認知機能低下を抑制する効果報告が続く

高齢期の認知機能低下が世界的に問題とされているなか、オメガ3系脂肪酸(摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸の1つの系統)であるDHA・EPAの機能性に注目が集まり、その効果を確認する研究が世界各国で行われている。杏林大学医学部精神神経科学教室教授・医学博士の古賀良彦氏は、「脳の機能の低下は一般的に40代からはじまり、60歳前後に症状として現れます。オメガ3系脂肪酸であるDHA・EPAには、認知症の予防と初期進行を遅くする働きが確認されています。脳の機能低下がはじまりつつも、血管の問題が生じていない40歳頃から、脳の健康を意識して食生活を見直したい」とアドバイスしている。画像はインフルエンザ重症マウスの生存率。
古賀氏によると「1990年代に認知症の前駆状態とされる『軽度認知障害(MCI)』という概念がひろがるなか、この段階で進行を遅らせる方法が模索されるようになりました。そのなかで、脳の神経細胞の構成物質のひとつであるDHA、体内でその一部がDHAに変換されるEPAをはじめとする『オメガ3系脂肪酸』が注目され、数多くの研究が進められてきました」という。
認知症の原因は、大きく2つある。ひとつは、脳の神経細胞が死滅し、神経細胞が減少してしまう「アルツハイマー型認知症」。もうひとつは、神経細胞そのものには異常がないものの、脳の血管の障害により十分な酸素と栄養を細胞に供給できないことが原因で起こる「血管性認知症」。
日本人には血管性認知症が多いといわれてきたが、近年の診断技術の向上によって、アルツハイマー型認知症が多いことがわかってきた。このアルツハイマー型認知症に対する有効な治療手段が現在はわかっていない。したがって、「予防」が重要視され、アルツハイマー型認知症の予防を中心に研究が進んでいる。
認知症予防には、運動と食事が有効ということが一部で実証されている。身体活動が少ないことは、アルツハイマー病の危険因子と指摘され、中年期の活動性の高さはアルツハイマー病に対して防衛的に働くという知見もある。運動の効果は、直接的には脳血流の増加作用、また、神経成長因子への刺激や、脂質、ホルモン、インスリン、あるいは免疫機能を介する作用などが考えられている。
一方、食事関連では、酸化による傷害から体を守る抗酸化物質が注目されている。また、脂質のなかでも、不飽和脂肪酸が認知機能によいということが知られるようになってきた。特に、オメガ3系脂肪酸であるDHA・EPAは、血栓予防、抗炎症作用、降圧作用、インスリン感受性への作用など多くの効果を有し、魚の摂取量が多いとアルツハイマー病予防効果をもたらすという報告もある。
オメガ3系脂肪酸を使った近年の研究では、オメガ3系脂肪酸の摂取で、高齢期の認知機能低下と脳委縮の抑制を期待できることがわかってきた。たとえば、55歳-90歳の819人(認知機能が正常:229人、軽度認知障害患者:397人、アルツハイマー病:193人)を対象に、神経心理学的検査とMRI検査を6カ月ごとに実施したところ、アルツハイマー病の危険因子とされるApoE4遺伝子を持たない認知機能が正常な人の中で、オメガ3系脂肪酸のサプリメントを常用していた人は、認知機能の低下が有意に抑制されていることがわかった。さらに、MRIの結果でも、認知機能に関与する脳の委縮が軽減していることが明らかになった。
また、軽度から中程度のアルツハイマー病患者204人を、オメガ3系脂肪酸摂取群(DHA1.72g+EPA0.6g/日)とプラセボ摂取群に分け、それぞれ6カ月間摂取した後、全員にオメガ3系脂肪酸を6カ月間摂取してもらったところ、オメガ3系脂肪酸の摂取群において、認知機能検査の低下が有意に抑制されていることがわかった。また、プラセボ群においてもオメガ3系脂肪酸を摂取した6カ月-12カ月目において同様の傾向がみられた。
このような研究成果に対し、古賀氏は「オメガ3系脂肪酸が健常な高齢者の認知機能の低下を抑制し、脳の委縮を低減した理由は、脳の神経細胞の構成物質であるオメガ3系脂肪酸により、神経細胞の構造が強化されたためと考えられます。また、非常に軽度のアルツハイマー病患者の認知機能検査の成績低下を抑制したのは、加齢に伴って低下する神経細胞の働きをオメガ3系脂肪酸が維持しているためと考えられます」と解説している。
そして、「認知症予防の前提となるのが、脳を健康に保つこと。このためには良質な睡眠と食生活、ストレスをためない生活などがあげられますが、意外と見過ごされているのが食生活です。特に血管性認知症予防を考えた時には、3つの『ア』(アルコール、甘いもの、脂っこいもの)を極力減らし、薄味にすることが有効です。そして、オメガ3系脂肪酸であるDHA・EPAには、予防と初期進行を遅くする働きがあることが確認されています」と語り、脳の機能低下が一般的にはじまる40代から、脳の健康を意識した食生活を心がけるようアドバイスをしている。(編集担当:風間浩)
高齢期の認知機能低下が世界的に問題とされているなか、オメガ3系脂肪酸(摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸の1つの系統)であるDHA・EPAの機能性に注目が集まり、その効果を確認する研究が世界各国で行われている。画像はインフルエンザ重症マウスの生存率。
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2014-12-18 11:30