ドル円相場の気になる値動き-米長期金利のかい離-=村上尚己

 先週のドル円相場は、1月10日に発表された12月雇用統計の下振れをうけて一時102円台に突っ込む場面があった。雇用統計下振れについては、1月14日レポートで紹介したが天候要因で説明できるため、これに大きく反応したドル円の下落は短期間で収まった。ドル円は週半ばには反発し104円台で推移している。  ただドル円相場は、一時105円半ばまで上昇したが、雇用統計ショックを乗り越えたと言っても、年末年始までのドル高円安の勢いは衰え方向感がなくなっている。年始以降の日経平均株価の動きと似ているかもしれない。ドル円相場の最近の主な材料は、FRB高官によるテーパリングに関する発言や、数多く発表された米国の経済指標である。  一方、米国の10年金利とドル円を比較すると、2013年11月すなわちテーパリングが近いという思惑が再浮上してから、両者はほぼ同様に動いてきた(グラフ参照)。興味深いのが、雇用統計ショック後の先週以降、ドル円はやや戻ったが、米長期金利は低下基調を辿っていることだ。2013年12月18日のテーパリング決定前の水準まで長期金利は再び低下している。雇用統計の下振れは一時的でドル円は予想通り戻ったが、米長期金利は筆者の想定に反した動きとなっている。  これをどうみるべきだろうか。一つの可能性は、為替・債券市場で、米経済指標の解釈が異なることである。為替市場は、ヘッドラインを踏まえ、雇用統計を除けば総じて堅調で米経済は悪くないと判断。一方、米債券市場は、ヘッドラインよりも、経済指標の基調から回復モメンタムが薄れている点を気にしている可能性がある。  先週収録した月刊マーケットの歩き方でも紹介したが、米経済の指標は回復基調を保っている。このため株式などリスク資産への投資に慎重になる必要はないが、雇用統計以外にも若干だが低調な経済指標がある。先週発表された、製造業景況指数、住宅関連、鉱工業生産などは強いが、消費者心理など改善一服を示す経済指標もあった。  米債券市場は、天候要因で下振れた雇用統計を含め、経済指標の弱い面に目敏く反応しているのかもしれない。というのも、イエレン議長誕生を控えフォワードガイダンスの取扱いなどFRBの政策への思惑が揺れ動くことに起因して、市場心理が不安定になる可能性がある。それが、米債券市場での金利低下として表れているということだ。あるいは、新興国経済・市場の脆弱性に注目しているのかもしれない。  以上は筆者の一つの仮説に過ぎないが、投資家のリスク回避姿勢が強まり、(短期的とは想定しているが)米長期金利の低下が続く中で、来週1月29日FOMCまでは、ドル円相場の方向感は引き続き定まらないかもしれない。場合によっては、何らかのショックで、ドル円が米金利にさや寄せされ、再びドル安円高に振れる場面があるかもしれない。  そして、筆者のこの認識が正しく、FRBの政策対応を巡る思惑が相場の変動要因となる場合は、方向感が定まらないまま高値圏を保っている先進国の株式市場をどうみればよいか。2013年末のような上値追いよりも、押し目を丁寧に拾う投資行動が功を奏するだろう。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
先週のドル円相場は、1月10日に発表された12月雇用統計の下振れをうけて一時102円台に突っ込む場面があった。雇用統計下振れについては、1月14日レポートで紹介したが天候要因で説明できるため、これに大きく反応したドル円の下落は短期間で収まった。ドル円は週半ばには反発し104円台で推移している。
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2014-01-20 18:15