2014年香港10大ニュース<1>=香港ポスト

  2014年は行政長官の普通選挙問題をめぐり「セントラル占拠行動」が発生。それに先駆けて民主派への政治献金が暴露されるなど、背景の一端をのぞかせた。占拠行動の最中にスタートした上海・香港両証取の相互乗り入れや、広州と香港を結ぶ高速鉄道の工事遅延問題も注目された。昨年の主なニュースを振り返る。 ❶セントラル占拠が発生・・・2017年の普通選挙をめぐり   構想発表から2年近くを経て実施された「セントラル占拠行動」は学生を中心に金鐘、銅鑼湾、旺角など各地を占拠し約2カ月半にわたる大規模デモ活動となった。   香港専上学生連会(学連)は9月22日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会による行政長官普通選挙に関する決定への抗議として授業ボイコットを開始。決定撤回や香港基本法に反する「住民指名」の実現、梁振英・行政長官らの辞任などを要求した。   金鐘の特区政府本庁舎前で集会を行っていた学生らは26日深夜から政府本庁に乱入して警官隊と衝突。セントラル占拠行動の戴耀廷・発起人は28日未明に占拠開始を宣言した。参加者らは金鐘の幹線道路を占拠し警官隊と衝突したため、28日夕方から警察は催涙弾を放ち強制排除を試みたが、収束の気配は見られなかった。同日夜からは警察に抗議する市民らが警察本部前、銅鑼湾、旺角に集まり、占拠行動が拡大した。   占拠行動が始まってから路線バスの運休・路線変更、小中学校の休校、銀行の営業拠点閉鎖、緊急車両の到着遅れなど市民生活にも影響。経済的な打撃も顕著となった。香港中小型企業大連盟の調査では42%が10~30%の売り上げ減と答えた。セントラル占拠に反対する「保普選反占中大連盟」は11月3日、警察を支持する署名活動の結果を発表し、183万5793件の署名が集まった。 ―セントラル占拠ドキュメント― 《9月》 22日 学連、授業ボイコット開始 26日 学民思潮メンバーらが特区政府本庁舎に乱入 28日 セントラル占拠行動を正式発動 《10月》  2日 政府が学連代表との対話発表  8日 梁振英・行政長官、豪州企業からの巨額報酬が暴露  9日 政府、学連代表との対話棚上げを発表 11日 汪洋・副首相がセントラル占拠で欧米の関与指摘 12日 セントラル占拠で尖閣問題の抗議船も出航 14日 銅鑼湾と金鐘で一部交通が回復 14日 特区政府本庁舎付近でデモ隊と警察が衝突、警官が公民党メンバーを殴打 17日 旺角で連日、デモ隊と警察が衝突 19日 梁振英・行政長官、占拠行動への外国勢力の介入に言及 21日 政府と学連代表が対話 26日 セントラル占拠、「広場投票」を棚上げ 26日 香港取引所、証取相互乗り入れ先送り発表 28日 学連、李克強・首相との対話要求 28日 セントラル占拠発起人が職場復帰を発表 29日 自由党の田北俊・代表、全国政協の資格取り消し 《11月》  3日 セントラル占拠反対署名が183万件  5日 学連が董建華・元行政長官に中央との対話仲介を要求 10日 証取相互乗り入れ、17日開始と発表 10日 董建華・元行政長官を中心とするシンクタンク発足 10日 高等法院、旺角と金鐘(中信大厦前)の占拠地に対する臨時禁止令を延長 11日 セントラル占拠発起人、自首を示唆 12日 オバマ大統領、占拠行動への介入を否定 15日 学連代表の北京行き、香港空港で搭乗拒否 17日 上海・香港両証取の相互乗り入れ開始 18日 金鐘の中信大厦周辺で裁判所禁止令の強制執行 19日 デモ隊が立法会議事堂を襲撃 25~26日 旺角で裁判所禁止令を強制執行 30日 学生団体が政府本庁舎の包囲を宣言 《12月》  1日 学民思潮メンバーがハンスト開始  1日 高等法院、金鐘占拠地の臨時禁止令を認める  3日 セントラル占拠発起人らが自首 11日 中環・金鐘の占拠地で裁判所禁止令の強制執行と警察の強制排除 14日 『りんご日報』の黎智英氏、壱伝媒会長を辞任 15日 銅鑼湾・立法会議事堂前の占拠地で強制排除 ❷普通選挙の枠組み決定・・・政治体制改革プロセス立ち往生   特区政府は2013年末、17年の行政長官選挙に向けた政治体制改革の公開諮問を開始。5カ月を経て報告書を作成し全人代常務委員会に提出した。   全人代常務委は8月31日、行政長官の普通選挙問題と2016年の立法会議員選挙に関する決定草案を可決した。決定内容は主に ①指名委員会は現行の選挙委員会に照らし、4大分野(工商・金融界/専門業界/労働・社会福祉・宗教界など/政界)が同等の割合、1200人を維持 ②正式な行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要 ③候補者数は2~3人——となっている。この決定により政治体制改革プロセス5段階の第2段階が完了。決定に基づき特区政府が立法会に改革案を提出、3分の2の支持が得られなければ否決となり、17年の行政長官選挙は現行の方法で行われる。全人代常務委の李飛・副秘書長(基本法委員会主任)は9月1日、来港して行った全人代の審議状況の説明でセントラル占拠に触れ、「違法活動による脅迫に屈すれば違法活動が増えることを考慮した」と説明した。   民主党と工党は決定に先駆け「指名委員会の過半数の支持」を堅持するならば立法会で改革案を否決すると予告していたが、決定を受け民主派議員27人は立法会で否決しセントラル占拠を支持する声明に署名した。9月28日に始まった占拠行動によって、10月から始める予定だった政治体制改革の第2回公開諮問は早くとも1月7日の開始となる。公開諮問の期間も1回目より短く、最長でも約2カ月との見通しだ。ただし民主派議員らは公開諮問のボイコットを宣言。普通選挙は棚上げされる可能性が高い。 ❸民主派と中央政府が対話・・・大衆迎合主義の回避など説明   立法会議員50人余りが4月12~13日、上海市を訪れ、2017年の行政長官選挙について中央官僚と意見交換を行った。こう着状態の政治体制改革の議論を前進させるため、民主派と中央高官による単独会談も実現した。   立法会全体による中国本土訪問は過去に2回行われ、05年9月の広東省訪問では議員60人のうち59人が参加、うち民主派は25人、10年5月の上海訪問では議員55人のうち42人が参加、うち民主派は8人だった。   今回の上海訪問では国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任、全人代常務委の李飛・副秘書長らとの会談が設定された。香港マカオ弁公室主任が立法会議員全員と会談するのは初めて。だが参加届け締め切りである3月31日までに届け出たのは親政府派全員のほか、民主派からは1人だけだった。その後、民主派からの参加が14人、全体で57人となった。   全体会談で李秘書長は、「住民指名」は基本法に反すると明言し、指名委員会が行政長官候補を指名するのは ①政治対立 ②立憲政治の危機 ③大衆迎合主義——のリスクを低減するためと説明した。 ❹民主派への献金暴露・・・黎智英氏と米国の関係に注目   『りんご日報』などを発行する壱伝媒集団(ネクストメディア)の黎智英(ジミー・ライ)会長が民主派の政党や関係者に多額の献金を行っていたことが7月に暴露された。公にされた資料からは黎氏が民主派を財政面で支えていることが分かるほか、黎氏と米国との関係も明らかになった。   献金疑惑は「壱伝媒の一般株主」と名乗る者がメディアやネット上で暴露したもの。2012年4月から14年6月までに9団体と14人に計4080万ドルを献金したことを示す小切手や領収書などが公にされた。政党では民主党、公民党、個人では陳方安生(アンソン・チャン)元政務長官、真普選連盟の鄭宇碩・召集人らが目立つ。   壱伝媒集団傘下のネット番組に出演した黎氏は暴露された書類が本物で、献金した事実を認めた。選挙条例や立法会の議事規則では献金の申告が義務づけられているが、献金を受けたとされる民主派議員らはみな申告しておらず、献金を否定する者もいる。   公にされた書類の多くには壱伝媒集団幹部のマーク・サイモン氏のサインが記されている。サイモン氏は米共和党香港支部長を兼務、米海軍で情報工作に従事した経験を持ち、黎氏による政党への献金処理をすべて担当している。   また5月末にはネオコンの論客で知られる米国のポール・ウォルフォウィッツ元国防副長官と黎氏が香港で密会していたことが暴露されていた。時期的にセントラル占拠行動に向けた準備と憶測されている。 ❺上海・香港証取の相互乗り入れ・・・セントラル占拠で遅延?   李克強・首相が4月に発表した上海と香港の証券取引所の相互乗り入れが11月17日から始まった。相互乗り入れは上海証取が窓口となって中国本土住民が香港株を直接取引でき、域外投資家は香港取引所(HKEX)を通じてA株に投資できるというもの。中国の資本市場開放の一環である同措置は香港にとっても国際金融センターとしての地位強化につながる。   当初10月の開始が見込まれていたものの、HKEXは10月26日、まだ承認を得ておらず開始日時が確定していないと発表。中央消息筋は相互乗り入れの遅れは「中央はセントラル占拠によって香港の法治が打撃を受け、金融商品に対する外界の信頼に影響することを懸念している」と指摘した。   相互乗り入れの開始から1カ月で上海総合指数は23.5%上昇したものの、ハンセン指数は6.2%下落した。一方、相互乗り入れに合わせて香港住民の人民元両替上限(1日2万元)も17日から撤廃された。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:水野陽子)
2014年は行政長官の普通選挙問題をめぐり「セントラル占拠行動」が発生。それに先駆けて民主派への政治献金が暴露されるなど、背景の一端をのぞかせた。占拠行動の最中にスタートした上海・香港両証取の相互乗り入れや、広州と香港を結ぶ高速鉄道の工事遅延問題も注目された。昨年の主なニュースを振り返る。
china,column
2014-12-29 01:45