【投資戦略2015】小売りと不動産の復調で秋口に2万円をめざす=野村證券・松浦氏

野村證券エクイティ・リサーチ部エクイティ・ストラテジー・チームのシニアストラテジスト兼エグゼクティブ・ディレクター松浦寿雄氏(写真)は、「15年の基本観は、日経平均株価で1万8000円~2万円と考えている。その中で前半には“リスクオン”と“リスクオフ”が繰り返され、比較的大きな株価変動を経験する可能性を否定できない」と見通している。特に、「日本の個人投資家が日本株式市場に、どの程度前向きに入ってくるか」ということに注目し、「個人投資家が日本株投資に戻ってくる動きが出てくれば、全般的に力強い動きとなり予想範囲を上ぶれさせる力になる」と語っている。
――15年の日本株式市場の見通しは?
企業業績について、15年度は1ドル=115円の前提でEPS(1株あたり利益)の伸び率を15%増と見込んでいる。この業績伸展を背景に、日経平均株価は年後半に2万円をめざす動きになるだろう。基本観として日経平均株価で1万8000円~2万円の範囲で推移すると考える。
市場全般の動きとしては、慎重な15年度企業業績のガイダンス(業績予想)によって4-6月に市場の勢いがそがれる可能性がある。その後、4月-6月の業績発表等で業績の伸びを確認できれば、秋口には日経平均で2万円程度の高値に向かうだろう。年末にかけては、16年の米国景気の方向性などを見極めたいということもあって、上値はやや抑えられる展開を予想している。
ただ、緩やかな円安や原油安によって、企業業績が想定以上に上ぶれることがあれば、株価は2万円を超えて上昇することもあるだろう。また、ROE経営の浸透やコーポレートガバナンス強化などを通じて、日本企業の「稼ぐ力」が一段と高まる、あるいは、公的年金による日本株買いが想定よりも強い場合にも、株価を想定以上に上ぶれさせる効果がある。
一方で、国内の個人投資家が日本株について、前向きな姿勢に転じるかどうかということも、株価の動きには大きな影響がある。過去3年間続けて、日本の株価は上昇という結果を残してきているので、個人投資家の日本株についての評価は改善してきているとは思う。ただ、14年からNISA(少額投資非課税制度)がはじまり、投資を促す制度的なバックアップがあっても、個人投資家の動きが活発化したとはいえない状況だ。
日銀が日本株を買い、公的年金が日本株への投資比率を高めたというのは、確かにインパクトはあるが長期に継続的なものではない。日本は個人金融資産においては世界の大国であり、この資金が株式市場に入ってくればインパクトは相当大きい。日本では金利が物価上昇率を下回り、実質マイナス金利状態にあり、金融資産としての株式の魅力は高まっている。また、日本株のROE(株主資本利益率)は、かつての平均5%から9%に高まるなど、投資魅力は明らかに向上している。個人投資家が日本株投資に戻ってくる「グレートローテーション」が始まれば、より力強い株式市場への転換が実現する。
――株価が下落するようなリスク要因は?
特に、年の前半においては、比較的大きな株価変動を経験する可能性を否定できない。これは、多くの市場参加者が、米国経済の順調な拡大を前提に市場に参加しているためだ。米国株は現在、必ずしも割安とは言いづらい水準にまで買い上げられている。15年のどこかで米国は利上げを実施する方針であり、一時的にせよ、利上げ実施によって株価に悪影響が生じる可能性もある。日本株価の波乱要因として、米国株の下落など、海外での変動には注意が必要だ。特に、米国株価については「リスクオン」、「リスクオフ」の引き金になりやすく注意が必要だ。
また、日本の国内要因としては、日銀の金融政策を巡るミスコミュニケーションのリスクがある。米FRBは金融政策の変更等について市場で事前の予想が大きくずれないように対話しているが、日銀の政策変更にはサプライズが続き、予見しづらいところがある。現在、15年秋に、もう一段の金融緩和策が発動されると見ているが、その期待感に対して日銀の行動が伴わなかった場合は、失望感につながりかねない。さらに、15年央の政府の成長戦略が成長期待を高めるものでなければ、株価の下押しにつながるかもしれない。
――15年の日本株式市場を展望して注目するセクターは?
「小売り」と「不動産」に注目している。基本的に内需関連に妙味が高まっていると思う。円安基調を背景にして、企業業績は外需中心に力強さを増していくと考えられるが、外需関連は14年の相場で上昇した経緯があり、14年の株式市場で取り上げられることが少なかった内需関連の見直しが進むだろう。
「小売り」については、15年は賃金が一段と向上する見通しにあることが追い風になる。14年は名目賃金が上昇したが、15年になると実質賃金も目に見えて拡大する方向だ。デフレ脱却をめざす政府の方針からも、実質賃金の向上は成果を求められるタイミングであるため、政策的な後押しもあるだろう。また、企業サイドも業績の向上を背景に、賃金の引き上げについて前向きな姿勢にある。
また、14年に進んだ東京と地方の成長格差、2極化を是正するという側面もある。既に円安によって訪日観光客の増大は、日本の小売りセクターの業績に無視しえないほどのインパクトを与えつつあるが、さらに、地方活性化の大きなエンジンとして観光資源の活用が進めば、一段と小売りセクターへのプラス要因になってこよう。
14年は、消費増税の反動による個人消費の低迷、円安による輸入物価の上昇など、小売りセクターにとってマイナス材料が続いて、「小売り」の人気は離散してしまった。これから、実質賃金が上昇し、個人消費の購買力が復活するという明るい見通しが出てくれば、小売りセクターの反発余地は広がるだろう。
一方、「不動産」については、金融緩和の拡大で14年も活躍が期待されたものの、結果的には冴えないパフォーマンスになってしまった。しかし、地価は上昇に転じ、低金利の継続、また、空室率の低下など、不動産セクターのファンダメンタルズは改善している。そして、日本の人口減少が不動産セクターのマイナス要因としてよく指摘されるが、人口の減少スピードが加速しているわけではない。今後、一段と金融緩和策が拡充される見通しにある中、改めて、不動産セクターが見直される可能性は大きい。
加えて、不動産セクターは法人減税のメリットもフルに受けられる業態である。海外から直接投資が進めば、地価や物件価格の上昇につながって売上高を押し上げる効果も期待できるだろう。さらに、アベノミクスが進めるデフレ脱却への取り組みは、資産インフレにつながる政策といえ、不動産セクターにとっては追い風になる。14年相場で不人気であっただけに、不動産セクターの再評価には期待が持てると考える。(取材・編集担当:徳永浩)
野村證券エクイティ・リサーチ部エクイティ・ストラテジー・チームのシニアストラテジスト兼エグゼクティブ・ディレクター松浦寿雄氏(写真)は、「15年の基本観は、日経平均株価で1万8000円~2万円と考えている。その中で前半には“リスクオン”と“リスクオフ”が繰り返され、比較的大きな株価変動を経験する可能性を否定できない」と見通している。
economic,company
2014-12-29 11:45