【投資戦略2015】潜在成長率を上回る経済成長で日経平均2万円超え=三菱UFJモルガン・スタンレー証券の吉越氏

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部副部長シニア投資ストラテジストの吉越昭二氏(写真)は、「2015年の日経平均株価は年末2万500円に向け、年後半に一段高へ向かうだろう」と見通している。特に、円安や原油安を背景にした賃金上昇が、日本の消費を押し上げる段階を迎え、株価も堅調に推移すると語っている。ただ、「株価が好調な時こそ、リスクが増大していることに注意が必要」とし、短期急落場面に備えたリスク管理を怠らない必要性にも言及した。 ――2015年の日本経済の見通しは?  15年の日本経済は、消費増税による落ち込みから脱し、緩やかな回復歩調に戻る見通し。年前半は、14年4-6月、7-9月のマイナス成長からの反動増が続き2%前後の高成長が予想され、後半になっても消費増税の先送りを受け、潜在成長率(0.7%)を上回る成長が持続すると考えられる。また、物価は年間を通じて1%程度に抑制され、年後半には日銀の追加緩和の可能性もあるとみている。  特に、日銀の強力な金融緩和による円安と、それを凌駕する原油価格の下落によって、日本経済は内外需ともに強い好影響を受けると考えられる。円安は、日本の主要輸出産業の価格競争力を強め、業績拡大を通じてGDPを押し上げるだろう。過去に円が20%下落した場合を振り返ると、GDPの押し上げ効果は、1年目が0.38%ポイントだったが、2年目には0.76%ポイント、3年目は1.16%ポイントの効果があった。  また、原油価格が30%下落した場合の日本経済への影響は、設備投資については1年目に0.44%ポイント、2年目に0.81%ポイントのプラス効果があり、賃金の伸びについては、1年目に0.71%ポイント、2年目には1.35%ポイントの押し上げ効果があった。物価抑制効果も加わるため、これが消費を喚起し、主に内需刺激効果として大きく出てくると期待される。  この原油価格は、14年6月にWTIで1バレル=107ドルだったものが12月には53ドルの下値まで50%下落したが、この下落の影響は3四半期のタイムラグをおいて、先進国経済にプラスの影響が出てくるという経験則がある。中でも、原油を輸入に頼っている日本では、価格下落効果の影響は大きく、次いで欧米先進国、そして、インド、中国などにもプラスの影響が波及していくことが考えられる。  一方、原油価格については、需給関係においてヘッジファンド等とみられる原油先物買いポジションがピーク比半減したことが確認できるので、14年の後半に起こったような大幅で急激な価格下落はピークを越えたとみることもできる。ただ、15年6月に予定されるOPEC総会において、減産合意ができないようであれば、もう一段の下落の可能性を残している。  仮に、原油価格が1バレルあたり40ドル台に入ることがあれば、現在でも信用不安が高まっているベネズエラやウクライナなどにデフォルト懸念が一段と高まるだろう。また、原油生産事業の採算コストが高い米国シェールガス開発会社の中には経営に行き詰まるところが出てくる可能性があり、そのような危機が表面化すると、「リスクオフ」による一時的な調整が考えられる。 ――日本株の見通しは?  年初は、年末の好調を引き継いで強く始まるだろう。ただ、5月頃になるとヘッジファンド等の中間決算に伴う整理売りが出やすく、米FRBの利上げへの警戒感や、6月のOPEC総会を意識したリスクオフの動きも出やすくなると考えられ、調整安になる可能性が高い。安値は日経平均で1万6000円程度があり得るだろう。この1万6000円という水準は、日銀の追加緩和前(1万5658円)を下回らないとのアノマリーを考慮し、かつ、年末の日経平均株価1万8000円程度から、戦後の日経平均の平均下落率(マイナス10.4%)並みの水準と想定した場合の価格だ。  年央以降は、企業の15年度決算を期待して上昇相場に転じ、年末には日経平均で2万500円程度の高値に達するとみている。現在、日経225の予想EPS(アナリストコンセンサスベース)は1091円だが、これは1ドル=105円程度を前提にした決算で、徐々に為替の円安修正が図られているところ。年度末には1100円近辺になるだろう。そして、15年度はEPSが12.4%増になる業績予想だ。予想EPSは1200円台となり、過去4年間平均の予想PER15.3倍を当てはめると日経平均の妥当株価は1万8700円程度と試算される。投資家の期待値(強気局面は+1シグマ~弱気-1シグマ)の変動範囲13.6倍~17.0倍を当てはめると1万6600円~2万800円のレンジで推移する可能性が高い。  また、バブル崩壊後の日経平均株価の年間最大上昇率は平均15.5%で、これをあてはめると15年の高値は2万800円程度になる。円安や原油安のプラス効果が加算されれば予想業績の上振れも考えられるため、一時的には2万800円を上回る場面があってもおかしくない。 ――15年の相場でリスク要因として注意するポイントは?  日銀の追加緩和で日銀資産が大きく膨れ上がっていることは、折に触れてリスク要因として意識される可能性がある。日銀は年間80兆円の資産を購入する計画を明らかにしており、15年末にはマネタリーベース残高は355兆円、対GDP比76%になる。16年末にはさらに80兆円拡大し、GDP比83%という水準にまで膨れ上がる見通しだ。  これは、米国がQE3まで実施した結果、GDPの25%にまでFRBの資産を拡大したことと比較しても、非常に大きな規模になっている。それほど、日本経済は日銀の金融政策に依存した成長過程にあるということ。特に、株価が順調に値上がりしている時こそ、その一方でリスクも高まっていることは、常に意識していく必要がある。  この2年余りは、アベノミクスで株価が大きく上昇したが、この間にも年に3回くらいは数日間で日経平均株価が1000円以上値下がりする経験をしてきた。このような急落場面は、今後むしろ増える可能性がある。一方的な日本株買いポジションだけではなく、上昇局面での着実な利益確定売りやベア型ファンド、信用取引のつなぎ売りの活用、また、インバース型ETFなど、順調な時こそ株価の短期急落に備えた対策も検討して臨みたい。 ――15年に活躍が期待されるセクターや投資テーマは?  一つには「ドル高でメリットを受ける企業群」で、米国圏で売り上げを稼いでいる企業にはドル高・円安の恩恵が明確に出てくる。自動車、航空機の部材メーカー、電子部品メーカーなど。特に、航空機に関しては、エアライン各社は原油安によって燃料安メリットを受けるため設備増強に動きやすい。米ボーイングの機体には日本メーカーが35%の部材を供給しているため、受けるメリットは小さくない。また、自動車の自動運転や安全性向上に関わる自動車部品メーカーも引き続き注目できる。  また、「消費」に関わるセクターも注目できる。消費増税先送りによって過度な節約志向が緩むことが期待される。また、アベノミクス効果が行き届いていないといわれる地方に対する投資に、政策的なバックアップが一段と振り向けられるタイミングであり、地方経済においてはガソリン安、灯油安の効果が表面化するタイミングでもある。さらに、円安による訪日観光客の増大が、日本国内における消費を押し上げるだろう。  そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えて、各種の競技場や交通インフラの整備などが、いよいよ本格的に動き出すので、折に触れて株式市場で材料視する場面がありそうだ。(取材・編集担当:徳永浩)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部副部長シニア投資ストラテジストの吉越昭二氏(写真)は、「2015年の日経平均株価は年末2万500円に向け、年後半に一段高へ向かうだろう」と見通している。
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2014-12-29 14:00