「牛乳価格」が暴落する中国 「経済危機とは関係ない」と専門家

中国の山東、河北、内モンゴルなどでは1月になったころから、牛乳価格が暴落したなどで、生産農家が牛乳を地面に撒いたり、乳牛を殺す現象が注目されるようになった。中国経済発展研究会の常務理事を兼任する南京市社会科学院の唐啓国教授は同現象について「経済の危機とは無関係」と述べた。
新華社によると2013年末までは牛乳価格が高い状態が続いていた。しかし14年2月からは下落を始めた。中国当局は現在、同年11月までの物価指数を発表しているが、牛乳価格は同月まで10カ月連続で価格が下がり続け、前年同月比で6.1%の下落となった。
12月には乳業会社が原料乳の買い入れ量を大きく制限する事態も目立つようになったという。そのため、酪農農家の多くが搾乳後、牛乳を地面に捨てるなどの現象が広まった。一方で、飼料価格などは逆に値上がり傾向を示すようになった。そのため、乳牛を飼育していたのではかえって損をすると、殺処分する酪農農家が出現したという。
一部では、「牛乳を地面にまく」現象は経済危機と関係しているとの主張が出た。唐教授は「何ら関係ない」との考えを示した。
唐教授は、資本主義社会でもかつて、「牛乳を地面にまく」事態が出たと説明。ただし、同現象は当時の社会制度がもたらしたもので、「資本家が利益を最大化しようとしたため、牛乳生産量が過剰になった。当時の労働人民は資本家の搾取のために、購買能力が乏しく、有効需要の不足のためもたらされた」ことが理由だったという。
唐教授は一方で、中国において牛乳生産者が直面している事態は、業界の発展に伴う「痛みが発生する時期」によると説明。中国市場で牛乳が過剰になった第1の原因として、ニュージーランドなど牧畜の盛んな国からの輸入が増えたためと主張した。
技術面も高く、自然条件もよいニュージーランドから輸入される牛乳は品質も高く、中国産牛乳は対抗できていないという。
唐教授はさらに、2008年に原乳にメラミンが混入され、多くの健康被害を出す事件が発生したことで、中国産の牛乳に対する「極めて深刻な信用危機」が発生したことにも言及。消費者は高価でも、国外産の乳製品を求めるようになったと論じた。さらに、ネット通販などの普及で、国外産の乳製品は当初に比べれば、極めて安価に購入できるようになったという。
唐教授は、中国の現在の酪農業界について、「生産者が単独で戦いを進めている」状態に問題があると主張。個別の生産者では飼育条件や技術導入のための資金が不足するという問題が出ると言う。
唐教授は、大規模農家や生産組合、農業法人を育成し、大規模経営でコストを低減し、さらに付加価値商品も開発するなどの体制を整えるなどで苦境から脱却する試みがあってよいとの考えを示した。
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◆解説◆
唐教授によると、現在、中国で目立つようになった生産農家が「牛乳を地面にまく」現象は、資本主義国でかつて発生した「牛乳を地面にまく」現象とは性質が違うという。
仮にその通りとしても、「どちらの方がタチが悪いか」は別の問題だ。まず、資本主義システムを導入すれば、各経営体は「利益を最大」にすることを目指す。これは現在の中国も同じだ。
古典的な資本主義は「自由競争」を旨としたので、立場の弱い労働者が低賃金や劣悪な労働条件を押し付けられることが普通だった。そのため、購買力が不足し、それにともない生産が過剰になり経済が混乱することも多かった。
しかしその後、資本主義諸国は「労働者の過剰な搾取は資本家にとっても不利益をもたらす」ことに気づいた。きっかけのひとつはソ連の誕生で、労働者の不満が大きくなれば、自らの国でも社会主義革命が起こりかねないとの危機感が発生したという。その後、資本主義国は労働者保護の法制度を整備するなどの「修正」を行った。マルクスやレーニンの最大の“誤算”は「資本主義国の学習能力を甘く見過ぎた」との冗談めかしたいいかたがあるほどだ。
なお、日本では昨今「ブラック企業」が問題にされている。同問題では一般的に、「被害者は不当に搾取される労働者」ということになるが、別の側面からは、「資本側が労働コスト増大という“痛み”を分かち合い、市場における購買力を保とうとしているのに、自らの業績を上げようとしてルール違反の“抜け駆け”をする」という点で、「ブラック企業」は財界側からも糾弾されるべき存在ということになる。
中国で発生した「牛乳を地面にまく」現象の原因は、古典的資本主義体制で発生した同事態と重複する部分もあるが、異なる面もある。つまり発端が「メラミン混入事件」にあったことだ。資本主義の運営では、「自由で平等な競争」に加えて「契約の絶対視」が極めて重要だ。「契約不履行」は資本主義下では「極めて重い罪」になる。「信用」がなければ、「経済行為の推進」は大きく阻害されることになるからだ。
「メラミン混入事件」は生産者が、「原乳の質の悪さを糊塗(こと)するために有毒物質を入れた」ために発生した。つまり「偽商品の売り付け」という点で、まさに「契約違反」である行為だった。しかも、多くの生産者が「手を染めた」とされている。
つまり当時の中国の、少なくとも乳業業界では「資本主義的システム」を採用できる条件が整っておらず、その影響が現在までも及んでいると理解することができる。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)
中国の山東、河北、内モンゴルなどでは1月になったころから、牛乳価格が暴落したなどで、生産農家が牛乳を地面に撒いたり、乳牛を殺す現象が注目されるようになった。中国経済発展研究会の常務理事を兼任する南京市社会科学院の唐啓国教授は同現象について「経済の危機とは無関係」と述べた。(イメージ写真提供:123RF)
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2015-01-08 18:00