中国における個人情報の保護の実態

■1. 営業の電話
「月利息3%の金利商品に興味はありませんか?」
「税金対策の領収書は要りませんか?」
日本では、固定電話はともかく、携帯電話に1日に3-4回もこのような営業の電話が来るようなことはないでしょう。しかし、中国では当たり前にある光景です。
営業の内容は、理財、金融商品の販売に限らず、振り込め詐欺(中国人も結構、騙されています)までなんでもござれ。携帯電話代が安いという事もありますが、個人情報が不正に取引されていることに原因があるのは間違いないでしょう。
とくに中国では、社会通念としては、携帯電話番号などの個人情報を伝えること、聞くことの意識も日本よりハードルが低いように感じられます。
例えば、初めて知り合った人の携帯電話を聞くことも、それほど失礼には当たりません。「初めてあった人に携帯番号を聞くのはどうかなぁ、でも何かと連絡取る可能性もあるし、会社の代表電話通して毎回連絡するのも手間だしなぁ」などとこちらが日本人的な遠慮から悩んでいると、驚くほどストレートに、「携帯教えてください、微信(日本でいうLINE)をしましょう」と聞かれる場面が多くあります。
名刺に携帯番号を書いているビジネスマンも沢山います。会社支給の携帯は勿論、営業マンであればプライベートの携帯番号やSNSの情報まで書いている人も居ます。こうした携帯番号の情報が出回りやすいことも、個人情報が漏れやすい一因と言えます。
■2. 法律の規定
日本では、個人情報の保護に関する法律で、個人情報を取り扱うことになる業者に厳しい管理条件を付けると共に、従わない場合に是正勧告などがなされます。
中国ではいままでこうした個人情報の保護については、法律レベルでは規制がありませんでした(ガイドラインはありました)。そして、昨年2014年3月に、ようやく日本の消費者保護法にあたる消費者権益保護法において、消費者の個人情報についての規定が作られました。しかし、中国消費者権益保護法における個人情報保護の規定は、たった1条だけです。36条からなる日本の個人情報保護法に比べれば不十分なものです。
■3. 状況
この中国消費者権益保護法の規定の具体内容は大枠以下のとおりです。
(1) 事業者は個人情報を収集・使用する際には、消費者の同意を取ったうえでその目的、方式及び範囲を明示しなければならない
(2) 事業者は個人情報を収集・使用する際には、収集、使用規程を公開しなければならない
(3) 事業者は、消費者の情報を漏洩、売却、不法に提供してはならず、技術的措置などを生じなければならない
(4) 漏洩、紛失などが生じた場合にはただちに救済措置を取らなければならない
(5) 消費者の商業情報を発信するには、消費者の同意又は請求が必要であり、明確に拒絶した場合には発信してはならない
しかし日本と比べれば、どのような数のデータを取り扱う事業者を対象にするかなど定義などが曖昧であり、具体的な罰則などが本法で規定されている訳ではない為、強制力に乏しいと言われています。
また個人情報が売買された場合、結局どこで収集されたかを追跡することは大変困難であり、漏洩・紛失した業者の責任を問うのが難しく、このような法律が個人情報保護の抑止となっていないのが実情といえます。
■4. 成りすまし被害
また日本で流行ったLINEの成りすましのようなものは、中国でははるか前から、行われています。私も週に1回は、「大家ですが銀行振込先を変えました。妻の名義の下記の口座に振り込んでください」といったメールを受け取ります。
このような振り込み詐欺の被害は中国でも増えています。先述の中国のSNS微信には、振込みに関わる話題が出ると、「突然の振込みの話は詐欺の可能性があります」といったメッセージが自動表示される機能が標準装備されています。
中国では個人情報の保護はあまり進んでいないため、詐欺師が“ターゲット”にコンタクトしやすく、ネット上の詐欺が横行しました。それでこうしたIT上の対応が、多くのメジャーなアプリケーションで取られるようになりました。法などの規制では個人情報に対するリテラシーがまだまだ低い中国企業に対する抑止として十分ではなく、各個人の注意を喚起する方法を取るしかないのでしょう。
日系企業で、今回紹介した消費者権益保護法の規定(個人情報取得時に同意を取るなど)を遵守されていない場合は、プロセスの改善を是非ご検討ください。以上。(執筆者:東城 聡 提供:中国ビジネスヘッドライン)
日本では、固定電話はともかく携帯電話に1日に3~4回もこのような営業の電話が来るようなことはないでしょう。しかし、中国では当たり前にある光景です。
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2015-01-15 09:15