資源国の通貨安と商品市況の下落-リスクか投資機会か-=村上尚己

 為替市場では先週(1月16日)、豪ドル安が進み、対ドルで0.88と、2010年以来3年ぶりの水準まで大きく下落した(グラフ参照)。対円でも91円台まで調整している。きっかけは、メディアでも報じられているとおり、同国の12月分の雇用統計が予想外に減少し、中銀による利下げ観測が台頭したことである。  やや長い目でみると2011年半ばまで豪ドル高が続いたがその後頭打ちになり、2013年春先から大幅な豪ドル安が進んだ。資源価格の下落に加えて、中国など新興国全般に対する懸念が浮上したためだ。そして、2014年になっても一段と通貨安となっている。為替市場では、資源国通貨である豪ドルだけではなく、新興国の通貨安が散見されている。   国際商品市況のインデックスであるCRB指数をみると、足元で下げ止まる兆しもあるが、2013年後半から低下基調が続いている(グラフ参照)。新興・資源国通貨や国際商品市況は、依然として低調である。   日本、米国など先進国株式市場では2013年末まで高値更新が続き、2014年になっても高値圏を保っている。新興・資源国通貨や国際商品市況の低調とは、対照的な状況が続いている。こうした値動きは、2014年も新興・資源国の通貨・株式は、投資対象として魅力が小さい、という大方の市場の見方と整合的といえるだろう。   今週発表された、10-12月の中国のGDPや鉱工業生産などの主要な経済指標は、ほぼ事前の予想通りで、前月(前四半期)とほぼ変わらない結果だった。良く言えば安定成長が続いているが、好材料にはならなかった。   むしろ、中国では、短期金融市場での金利上昇など、政策対応への不透明感が根強い。またシャドーバンキングや不動産価格上昇などが、潜在的なリスクとして報じられている。中国など新興国において政治動向を含めたリスクを踏まえると、引き続き新興・資源国への投資には慎重にならざるを得ない。であれば、2014年になってからの資源国通貨安や商品市況の低調ぶりは、「新興国を震源地としたリスク」のシグナルということになる。   一方で、米国を中心とした先進国経済の2013年後半からの景気回復が、同地域への輸出回復を通じて新興国経済を支える経路がある。2013年後半の米国の経済成長率は年率ベースで3%前後の高成長となったとみられる。米国を中心とした先進国の総需要回復を背景に、中国、韓国、ブラジルなどからの輸出は2013年後半から伸びがやや高まっている(グラフ参照)。   また、国際商品市況のインデックスであるCRB指数は下落が続いているが、原油などのエネルギー価格の押し下げが大きく影響している。シェールガス増産という供給要因が、エネルギー価格全般を押し下げている面がある。  製造業の生産活動の影響を受ける、産業用金属(銅、アルミニウム、鉛など)の価格指数は足元で持ち直しており、2013年夏場の大底と比較すると、やや上昇した位置づけにある(グラフ参照)。   産業用金属価格については、銅市場における在庫確保を巡る思惑など、中国での投機的な取引で動いているという見方もある。ただ、2013年から低下が続くCRB指数、そして3年ぶりの安値を更新した豪ドルとは、やや異なる動きとなっている。先進国の景気回復が、新興国を含めて世界の製造業の生産活動を強め、それが産業用金属価格を支えている可能性がある。   先進国を中心とした世界経済の回復が、新興資源国を支える面があることは、あまり注目されていないのではないか。であれば、2013年同様の新興・資源国の通貨安や株価の低調は、「リスク」かもしれないが、無視できない投資機会が生まれつつあるとみることもできる。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
為替市場では先週(1月16日)、豪ドル安が進み、対ドルで0.88と、2010年以来3年ぶりの水準まで大きく下落した(グラフ参照)。対円でも91円台まで調整している。きっかけは、メディアでも報じられているとおり、同国の12月分の雇用統計が予想外に減少し、中銀による利下げ観測が台頭したことである。
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2014-01-22 18:00