「ビターズ」「バタフライ」の投入で快進撃のキリンのRTDで光る「本搾り」の躍進

キリンビールは2015年1月28日、「キリンビールRTD戦略および新商品について」の記者発表会を開催した。アルコール1%の“ウルトラライトアルコール”を提案する新商品「バタフライ」や、2014年6月に新発売した新ブランド「ビターズ」の成長などが注目される発表会だったが、その中で、従来商品である「本搾り」が前年比60%以上も伸び、市場で存在感を増していることも光った。写真はキリン「本搾り」。
RTD(Ready to Drink)市場は2014年に前年比7%増の約1億3000万ケースに伸張し、2015年も4~5%増と引き続き伸びるとキリンは推計している。特に、20代男女は「お酒は甘みがある方が好き」、「ブランドよりもフレーバーを優先して選ぶ」、「アルコール度数の低いものを選ぶ」という傾向が強く、若者層にRTDが好んで選ばれているという。
キリンはRTD市場において「ビターズ」、「スミノフアイス」、「氷結アイススムージー」、「ハードシードル」など積極的な商品提案を実施。その結果、2014年は前年比15.6%増の4380万ケースを販売し、市場平均を上回る成長を遂げた。メイン商品の「氷結」が3270万ケースで4.1%増と気を吐いたほか、新商品「ビターズ」の好調、また、「本搾り」が前年比62.1%増の554万ケースに伸びたことなどがポイント。
「本搾り」は、「高果汁・生搾り感」をコンセプトに、果汁とお酒だけでつくったチューハイのパイオニア的存在。果汁率の高さが特徴で、レモンが12%、グレープフルーツが28%、オレンジが45%と、他にない高果汁であるため、この沈殿するほどの高果汁を楽しむため、冷やした缶を飲む前に、ゆっくりと逆さにしてから戻して飲むという「逆さ缶」を提案している。
そして、1月13日には昨年好評だった「りんご(果汁50%)」を期間限定で発売。4月28日には期間限定で「ライム」の新発売も予定し、「本搾り」らしい季節感・素材感にこだわったラインアップを拡充する。
この「本搾り」は、キリンビールのチューハイのメインブランド「氷結」の陰に隠れた存在だった。ワインブランドの「メルシャン」の女性チームが開発し、2003年に発売。リアルな居酒屋のチューハイの味をめざして様々な試行錯誤を繰り返した結果、「高果汁」のコンセプトと、現在の果汁比率を見出した。昨年から本格的に展開した「逆さ缶」の提案が浸透することで販売量が拡大し、2014年10月~12月に40%増産するまでに成長した。
メジャーなメインブランドの陰で、消費者が見つけ出すヒット商品には、必ずヒットにつながる強烈な個性や技術優位性が備わっている。メイン商品には、企業が自社の商品開発力の粋を投入し、広告宣伝にも力を入れて拡販に努める。一方、多様な消費者ニーズに応えて投入されるその他の商品は「ロングテール」とも呼ばれ、市場調査的な意味合いも含めて数多くの商品が出ている。その中で、本当に消費者の心をつかんだ商品のみが、時にメジャー商品に匹敵するほどの人気を獲得することになる。
たとえば、フィルムメーカーである富士フイルムが開発した化粧品「アスタリフト」はテレビCMが打たれるほどのヒット商品になった。また、料理の愛好家の間で“幻のバター”とまでいわれる「特選バター」は、カルピスが開発したロングセラーになっている。「アスタリフト」が写真フィルムの原料であるコラーゲンの活用技術を応用し、「特選バター」も牛乳から乳酸菌飲料をつくる工程で乳脂肪を分離するときにできる脂肪分から生まれるなど、各社の得意技術が活かされた商品になっている。
「本搾り」が、ワインをつくるメルシャンから生まれたのも、果汁とお酒の関係を追求するメルシャンならではの技術が活きているからだろう。「逆さ缶」という飲み方の提案が、ヒットのきっかけになったようにみえるが、商品そのものに魅力がなければ、年間500万ケースを超えるヒット商品にはならない。嗜好が移ろいやすい現在において、常に消費者のニーズをくみ上げ、不断の改良を続ける努力こそが、消費者の支持につながり、商品としての輝きを獲得することができる。RTD市場においてキリンが快走を続けるのも、メインブランド「氷結」の圧倒的な人気以外に、「本搾り」のような存在があってこその快進撃といえる。(編集担当:風間浩)
キリンビールは2015年1月28日、「キリンビールRTD戦略および新商品について」の記者発表会を開催した。
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2015-01-30 11:15