【相場の福の神トップインタビュー】ネットSNS時代のPR戦略をトータルで提案するベクトルに死角なし

 戦略PRを旗印に、イベントの運営からニュース配信、動画の制作、タレントのオーディションまで、幅広い分野で斬新な取り組みを打ち出し続け、年率30%の営業利益成長を続けるベクトル <6058> 。2014年11月に東証マザーズから東証1部に指定替えとなり、一段と活躍ステージを広げている。ベクトルは今、何を目指しているのか? 同社代表取締役CEOの西江肇司氏に、「相場の福の神」として活躍するSBI証券投資調査部シニアマーケットアナリストの藤本誠之氏が、ズバリ切り込んだ。(写真は、SBI証券の藤本誠之氏<左>とベクトル代表取締役CEOの西江肇司氏) ――御社は2014年11月に東証マザーズから東証1部に上場市場が変更になりました。ただ、まだ御社のことをよく知らない投資家の方もいらっしゃると思うので、ベクトルが何をやっている会社なのかということをご紹介ください。  当社は一言でいうと「戦略PR会社」です。効率的に、モノを広めていく会社という意味で使っています。たとえば、企業が新商品をリリースした場合に、従来は広告をして情報を広めていました。ただ、昨今のようにインターネットでのニュースが普及し、SNSが発達すると、従来の広告では昔と比べ十分な効果が得られません。そこで、広告だけに頼るのではなく、うまくPRをして、メディアに記事として取り上げてほしいというニーズが高まっています。このニーズに応えるのが、当社が提供する「戦略PR」という手法です。  PRニーズは、「広告したい」、「メディアで露出したい」、「ニュースとして取り上げてほしい」、「テレビの話題で取り上げてほしい」、「口コミで情報を拡散したい」など、様々な要素がありますが、これらをトータルで提供するインフラを作って提供しています。  また、2014年10月にはサイバーエージェントの子会社マイクロアドと合弁で「ニューステクノロジー」という会社を設立し、アドテクノロジー技術を得ました。ITによるターゲティングによって、届けたい消費者に効率的に情報を届けることができます。さらに、動画を組み合わせることによって、PCだけではなく、スマートフォンなどの新しいデバイスに最適化したPR手段を提供していくことができると考えます。 ――アドテクノロジーについて、もう少し詳しく教えてください。  ネット広告について、あらかじめターゲティングされたユーザーに対して効率的に表示するための技術です。たとえば、「ハワイ旅行」というキーワードに関心を持っている層に対し、ハワイや海外旅行についてのニュースを届け、それと一緒に関連の動画を表示するということが技術的に可能です。これは、従来の新聞や雑誌、テレビなどを使った広告ではできなかったことです。ターゲットを絞り込むことによって、広告宣伝費を圧縮し、効果的な広告を展開することが可能になります。  テクノロジーの部分では、動画を作成・配信する機能を付加したことが、これから大いに活きてくると思っています。ちょうど、映画の予告編のような3~4分の動画を制作し、ターゲティングをされたユーザーにインパクトのある情報を届けることができます。  ニュースや動画に注力しているのは、ネットにつなぐ端末が、PCからスマホに大きくシフトしていることに対応しています。スマホの画面は小さいので、PCのバナー広告のようなものが通用しません。ところが、ニュースはスマホでも見ていただけます。また、動画は全画面表示で観ていただけるのです。 ――PR会社の中で、ベクトルの強みは?  ベクトルは、ベンチャーであるという点が、通常のPR会社とは大きな違いであると思います。広告業界やPR業界は、伝統的なビジネスをベースにしているところが多いと感じます。たとえば、テレビのキー局との取引をメインに、数億円などの大きな予算を取りに行くのが大手の広告代理店の仕事として定着している、というようなことです。一方、もっと小さな案件に、しかも、柔軟に対応できるところは少ないのです。  ベクトルでは、ニュースリリースを一般にも配信する「PR TIMES」、記者会見等を開催するイベントチームやPR部隊がおり、動画を制作することもできます。また、アドテクノロジーによってターゲティングされたユーザーのみに届けるなど、リアルな記者会見から、TV・新聞・雑誌、ネット、SNSを使った情報発信まで、PRや広告に関するサービスをワンストップで提供できます。このように、最先端のIT技術に強いPR会社は、ほとんどありません。 ――最近、IR(企業が行う株主・投資家への情報提供)ビジネスに注力されているのは?  上場した時にIRサービス会社から話を聞く機会があったのですが、サービス内容が昔ながらのものでした。たとえば、「株主通信」を大量に印刷して株主に届けるという提案は、「株主通信」を印刷して郵送している間に、ネットでは情報がどんどん公開され、「株主通信」が株主の手元に届く時には、その情報は既知のものになっています。何人の株主が「株主通信」を読んでいるのかさえ分からない状況です。このようなIRに関する情報提供にIT技術を使えば、もっとシンプルに効果的なIRができると確信しました。  IRに特化した「IR BANK」は、昨年10月から上場会社の社長が3分間で語る「IRTV」のサービスを開始しました。さらに、アドテクノロジーを組み合わせて、IRTVを視聴したユーザーに、その企業の最新ニュースを届けるという展開を進めています。会社が出すニュースリリースは記者向けに作られたB2B媒体ですが、それを、B2Cとして一般の消費者にも分かりやすく届けることで、従来のIRの概念を越えた、効果的なPRにも使うことができます。 ――海外にも積極的に展開されていますが、その狙いは?  香港、台湾、上海、北京、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシアなど、アジアの地域で、日本で提供している戦略PRを広げています。アジア各国には、日本のような国内の大手広告代理店が存在しません。そこに、当社が提供するPR+IT技術、さらに、動画という提案は、新鮮で効果的な手法として受け入れられています。  また、アジア各地へは日本の企業も積極的に進出していっていますので、当社のアジア拠点は日本企業が現地でPRすることのサポートにも活躍しています。当社では、PRに関するインフラを提供することに注力しているので、アジアでの拠点ネットワークも、そのようなインフラの一つとして位置づけることができます。  一方、アジアに積極的に展開している関係もあって、昨今盛り上がっている訪日観光客への対応という点で、当社を指名していただける機会が増えています。アジア各国に日本の魅力をPRする、あるいは、日本においてアジア各国のPRを行うことなど、その両面で当社サービスを活用していただいています。 ――西江社長は、学生の頃から学生を集めたパーティを企画運営するなど、起業に向けた活動をされてきています。そもそも起業のきっかけは?  学生時代からビジネスに興味があって、それが面白かったというのが一番大きいと思います。広告代理店やPR会社などのノウハウをまるで知らないままに、モノを広めるということにチャレンジし、無我夢中で取り組んできました。PR会社を立ち上げてからはテレビの「asayan」の制作に携わり、その経験が「Starbank」の設立につながっています。「Starbank」では現在、大規模なオーディションを行っていますが、「asayan」での経験が活きた取り組みです。  結果的に伝統的なPR会社について知らないままに事業を起こし、効果的なPRに必要なコンテンツやツールを探し、開発し、どんどん付け加えていったことが、顧客のニーズに柔軟に応えられる現在の体制につながりました。それが成長のエンジンになっていると思います。 ――事業リスクは? また、今後の展望は?  事業リスクとして現在、大きく意識していることはありません。業績内容は、一つひとつの案件を積み上げてきた結果なので、どこかに在庫があるようなこともありません。営業利益で30%程度の成長を続けていますが、それ以上に伸びた部分を投資に回し、新しい事業分野を開拓しています。そもそもPRの分野は大きな投資が必要な分野ではないので、投資負担に圧迫されるということもありません。  あえてリスクを挙げるとすれば、管理の部分でしょうか? 成長して組織がどんどん大きくなってきているので、その組織をまとめ上げ、企業体としてひとつの目標に向かうよう意思伝達をスムーズに行っていくことは、常に意識して取り組んでいるところです。  今後は、投資の分野を強化します。従来は、グループ内に10社の上場企業を抱えるという目標を掲げてきましたが、これに加えて、100社の上場企業を投資やPRで支援するということに取り組みます。投資する段階では未上場で、成長して上場を果たすというのが理想です。投資した事業が成長する過程で、PRやIRのニーズが必ず出てきますので、ここで当社のインフラを活用していただくこともできます。  そして、ベクトルグループとしては、PRに関するインフラを提供する会社として、PR関連のプラットフォームカンパニーをめざしています。昨年10月にスタートした「Native News Wire」は、戦略PRとアドテクノロジーをかけ合せた情報発信をオンライン上で完結するプラットフォームを提供するサービスです。  何を、誰に届けたいかという情報を入力し、掲載したいメディアを選ぶだけで記事コンテンツとして露出を図ることができます。さらに、露出した記事をキュレーションアプリに配信し、外部メディアの広告枠や記事下関連記事に表示させるなど、一般の消費者に向けた情報発信までワンストップで実施することができるのです。これまで、代理店が間に入って、媒体につなぐという人と人との間でのやり取りを、簡素化、自動化することをめざしています。  やらなければならないことに、どんどん手を打って、国内でも、海外でも立ち止まることなく走り続けたいと思っています。(編集担当:徳永浩)
 戦略PRを旗印に、イベントの運営からニュース配信、動画の制作、タレントのオーディションまで、幅広い分野で斬新な取り組みを打ち出し続け、年率30%の営業利益成長を続けるベクトル。(写真は、SBI証券の藤本誠之氏<左>とベクトル代表取締役CEOの西江肇司氏)
2015-02-02 08:30