中国の製造業は、「前門の虎・後門の狼」状態

中国政府・工業和信息化部(工業と情報化省)はこのほど、「製造強国への戦略が新たな章の扉を開く」と題する文章を発表した。ドイツのインダストリー4.0など、日米を含む先進国が新たな製造業の構造づくりの枠組みを定める一方で、多くの発展途上国も製造業を「立国の基本」としていることから、中国は「前後に挟み撃ち」される状態との危機感を示した。
文章は、中国はこれまでにも、高度な技術の獲得に力を入れてきたと主張。世界的なトップクラスの地位を獲得した分野として原子力発電、大型水力発電、火力発電、超高圧直流変圧、大型重機などの分野を挙げた。
今後の技術向上の重点分野は知的生産システム、省エネ、新エネルギー車(解説参照)、電力装置、鉄道交通関連、航空機などとそれらの周辺分野とみなし、発展のために資源を集中させ、重要技術の発展に対する展望性と、戦略的な問題研究をしていくという。
産業の新たな分野については「どの国も、スタートラインは同じ」と強調し、「先進国との差を縮め、新たな技術革命で先頭ランナーの地位を得ることを目指す」と主張した。
中国の製造業が克服せねばならない問題点としては、自主開発能力の乏しさ、製品の品質問題の大きさ、資源利用効率の低さ、産業構造の不合理さ、最先端技術の製品でも性能がよくないこと――などが「依然として続いている」と指摘した。
中国メディアの第一財経日報は工業和信息化部の上記文章を受け、「中国を生産拠点としていた外資が、労働力がさらに安い東南アジアに移転」、「中国企業も東南アジアに拠点を移す場合がある」などと指摘。さらに、中国に進出した先進国のハイテク企業が、本国に戻る例もあることにも触れた。
同文章は中国の製造業は「インダストリー2.0から3.0に向っている状態で、インダストリー4.0の圧力を受けることになった」とするなど、中国の製造業の前途は楽観視できないとの見方を示した。
しかし一方では、方策はあると主張。経済評論家の呉暁波氏が発表して有名になった、日本の洗浄機能付き便座や炊飯器を称讃する文章を例に、「インダストリー1.0の時代にすでに存在した商品」でも、徹底した改良で人気商品にすることができると主張。
一時期は中国製造業に圧迫された日本の製造業が逆襲に転じたとして、「他山の石、もって玉を攻(おさ)むべし」と結論づけた。なお、日本では「他山の石」とは「他者のつまらぬ言動」と原義通りに理解されることが多いが、中国では「他者の成功事例」を指すことが珍しくない。(編集担当:如月隼人)
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◆解説◆
インダストリー4.0とは、高度なIT技術で生産工程や物流の過程をリアルタイムで一元管理できる産業状態を指す。インダストリー1.0は18世紀からの産業革命で実現した、機械化された工業生産、同2.0は20世紀初頭に米国などで実現した、流れ作業による大量生産、同3.0は1970年代に実現した、電子・情報技術により最適化が実現された工業生産を指す。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:(C) Liu Junrong /123RF.COM)
中国政府・工業和信息化部(工業と情報化省)はこのほど、「製造強国への戦略が新たな章の扉を開く」と題する文章を発表した。(イメージ写真提供:(C) Liu Junrong /123RF.COM)
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2015-02-06 15:15