中国調達:激安スーパーからコンビニに変貌する中国

誰も知らない中国調達の現実(234)-岩城真   ある中国調達部長の言葉である。「『コンビニだと思って使ってほしい』って、日本の関係者にはお願いしているんです。」読者の皆さんは、彼が何をいわんとしているのか、おわかりになるだろうか。実際に中国調達に携わっている方ならば「なるほどね」と相槌を打っていただけるのではないだろうか。今回は、一般的な日本人の方の中国イメージを覆す中国調達の現状をお話したい。   “コンビニ”とは、何でも揃って(調達できて)便利、という意味と同時に、価格は安くないということなのである。かつては、中国から調達できれば激安でモノを買うことができた。2000年当時、日本ではすでに一般的になっていたNC旋盤やマシニングセンターといった工作機械も、中国の中小零細加工業者には普及していなかったし、基本的な技術や管理も未熟だった。そんなわけで、調達できるものは加工難易度が低く、リードタイムをたっぷり確保でき、多少の不良が発生して納品数量が減っても困らないものに限定されていた。筆者の担当していた一品ものの受注生産品など、恐ろしくて発注できないというのが実情だった。   それでは、今の中国は?というと、一般の人が想像している以上にこの10年ちょっとの間に変貌を遂げている。かつて筆者は「日本にあって中国にないものなんてない、探せば必ずある。ただし、“・・・のようなもの”だけどね」と言っていた。しかし、今は“・・・のようなもの”から“本物”はもちろん、日本にないものまである。件の調達部長曰く、日本でなかなか請け負うサプライヤーが見つからない時に声を掛けてもらっても間違いなく中国ならみつかる。   ご存知のように、日本の景気は急速に回復しているものの、右肩上がりがこのまま続くなどとは誰も信じていないので、合理化投資はしても増産投資はしない。新しく取引を始めるというのは意外にむずかしいのである。日本で行き場を失った部品はどんどん中国に流れている。これが調達の現場の現実である。新聞、ビジネス誌には、急速な円安人民元高をきっかけにした国内回帰が報じられているが、帰る(買える)ところのない部品は帰ってこない。   中国サプライヤーは、件の調達部長が言うようにコンビニなので、激安なはずがない。今、中国のサプライヤーの多くは設備過剰に苦しんでいて、為替変動分を価格に転嫁できていないが(円建て取引の場合はもちろんのこと、ドル建て、人民元建ての取引であっても、日本側の予算は円建てで設定されているので、何らかの影響はある)、かつてのような激安は不可能だ。中国の内陸部はともかく、日本とほとんど同じ生活ができる上海などの沿海部では、円安の影響もあって、生活物価は日本と同等か、それ以上である。日系ブランドの牛丼並盛は300円前後、マクドナルド、ケンタッキーといったグローバルブランドのハンバーガーのセットは600円以上する。それらの食事は、現地の感覚では、ふつうの日本人が日本でならちょっとためらうよう食事をとっているようなものなので、円換算で同額なら日本より安くついていると思ってほしい。要するに、日本と同じもの(品質や付帯サービス)を求めれば、日本並みのコストになるのである。   ところが、中国のサプライヤーを前提にした瞬間、予算を3割も削減する担当者が日本側にはいると、件の調達部長は嘆く。確かに内陸部のサプライヤーに発注すれば価格はどうにでもなる。内陸部にあるサプライヤーが、すべてダメだと言っているのではないが、たいていの場合、それでは筆者のいう“・・・のようなもの”になってしまう。そんなことは、真っ当なバイヤーならできるわけがない。コンビニのようにまったく値引きにも応じないというわけでもないが、適切な価格での取引をする。   それだけではない。耳を疑う読者もいるだろうが、筆者の最近の事例では、日本のサプライヤーよりも中国のサプライヤーの方が平均するとリードタイムは短い。(輸出入海上輸送期間を含む)「そんな短納期対応は日本じゃできないが、中国だから大丈夫だよ」ということが、しばしば発生している。   調達の現場では、世間の常識とはだいぶ違ったことが起きている。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
ある中国調達部長の言葉である。「『コンビニだと思って使ってほしい』って、日本の関係者にはお願いしているんです。」読者の皆さんは、彼が何をいわんとしているのか、おわかりになるだろうか。実際に中国調達に携わっている方ならば「なるほどね」と相槌を打っていただけるのではないだろうか。今回は、一般的な日本人の方の中国イメージを覆す中国調達の現状をお話したい。
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2015-02-10 09:45