【中国における紛争処理】仲裁より訴訟を選択すべき

■紛争発生時、仲裁を選択するのは「主流」ではなくなっています。  日本と中国との間の国際取引契約において、仲裁を紛争処理の方法として選択するのは「主流」であるようなイメージが強いです。  その主な原因の1つは、今までの国際弁護士たちが、日本と中国の裁判所の間ではお互いの裁判及び裁定を承認せず、その執行を認めないという現実から、ニューヨーク条約に基づき日中間の紛争においても執行が認められる仲裁を選択すべきという実務経験を日系企業に伝え続けてきたことがあります。その結果、第3国又は地域の仲裁(たとえば、シンガポール、香港)を選択することが、日中間の契約フォームによく盛り込まれていました。  しかし、現実には、第3国又は地域の仲裁の場合、中国において保全措置が取られず、膨大な仲裁費用及び第3国又は地域の弁護士費用等を支払い、実務担当者などの第3国又は地域への往復時間等の大量の人力をかけ、有利な仲裁判断を取得しても中国での強制執行に時間がかかり、結局債権を回収できず、悲鳴をあげている日系企業は少なくありません。  「第3国又は地域の仲裁を選択することは、契約当事者がお互いの協議のみによって紛争を解決しようとするものであり、他の有益な紛争処理の方法を放棄することと同じである」というコメントは日系企業の実務担当者達からよく聞かされます。  従来、仲裁を選択するもう一つの原因は、中国の裁判所は「地方保護主義」の傾向が強く、又中国の裁判官の質が低いため、日系企業が中国において訴訟した場合、ほとんど負けるというイメージが強かったためです。  その結果、中国の仲裁を選択することも「流行」しています。確かに、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)等の仲裁員の質は一定の水準を有し、「地方保護主義」の弊害も少なく、その執行も第3国又は地域の仲裁判断よりもスムーズに行われます。保全措置が取られる場合もあります。  ただ、中国の仲裁を実際に経験した日系企業の実務担当者達からは「有利な証拠があるにもかかわらず、十分な主張の機会が与えられず、仲裁員が見た目の公平性(たとえば、折半)を重視し、仲裁員から不利な和解を『強要』され、又は和解を『説得』され、一審制であるため、やむをえず和解する」というコメントも少なくありません。  ここでわれわれは、中国における訴訟の経験を生かし、日系企業が中国(特に北京、上海などの大都市)において訴訟する場合も、丁寧に準備すれば勝てる(又は有利な法廷内和解ができる)と考えており、この最新の「主流」を皆様にお伝えしたいと考えます。  現在の中国は、契約社会、訴訟社会(中国の政治に関わる判断しにくい要素を除く)であり、契約に基づき、有利な証拠があれば、まず訴訟を提起し、相手の財産を保全し、相手にプレッシャーをかけ、自分に有利な法廷内和解に持っていくのが「中国流」の紛争処理法の主流であります。 ■中国での訴訟を選択する場合のメリット ・訴訟を提起するコストは仲裁よりも低くなります(法廷内和解の場合、訴訟請求金額を問わず、裁判費用が50人民元の裁判所もある)。 ・相手の財産を保全し、相手にプレッシャーをかけることができます。 ・二審制であり、仲裁と比べると上訴の機会を有します。不利な和解を「強要」されても、やむをえず和解する必要がありません。 ・結審期限は立件日から6カ月以内ですので、紛争の長期化を回避できます。 ・判決、裁定又は法廷内和解の場合の和解調書等は、仲裁判断と比べると強制執行に時間がかからず、スムーズに強制執行を要求することができます。  ちなみに、近年、中国の北京、上海等の大都市の人民法院(裁判所)の裁判官の質がかなり良くなっているので、実務上、契約当事者の住所地の人民法院の「地方保護主義」に関するリスクを回避するために、たとえば、日系企業が北京、上海等の大都市で契約を締結し、契約締結地として北京、上海等の大都市の人民法院の合意管轄として選択する「流行」もあります。(執筆者:翁 道逵 提供:中国ビジネスヘッドライン)
日本と中国との間の国際取引契約において、仲裁を紛争処理の方法として選択するのは「主流」であるようなイメージが強いです。
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2015-02-17 11:30