3年間で売上80倍、社員1人当たり2.2億円・・・ブランド戦略さらに強化、アジア商圏でビジネス拡大=坂本ラヂヲ

 ユニークな会社がある。2011年度に5000万円だった売上高は14年度3月期には40億円に達する見込みだ。それも売上目標なし、ノルマもなしを続けての急成長だ。社員はわずか18人。つまり1人当たり2億2000万円だ。坂本ラヂヲ株式会社(本社・東京都目黒区)。24日には東京都で2015年度の事業戦略発表会を行った。同社ブランドのGRAMASをさらに強化し、シンガポールを始めとする東南アジア商圏への進出にも力を入れるという。写真は坂本ラヂヲ株式会社 代表の坂本雄一氏。 ■ノルマなし、数値目標なしで社員1人あたり2.2億円の売上を達成  会社設立は2009年。主力商品はケース類などのスマートフォン・タブレット用アクセサリーだ。坂本雄一社長によると、会社を立ち上げた当初は売上が伸びないなどの苦労もあったが、11年度には売上高5000万円を達成した。そして12年度には4億7000万円、13年度には12億1000万円。14年3月期には40億円を見込んでいる。わずか4年間で80倍。同社の社員数はわずか18人なので、1人あたり2億2000万円の計算だ。  これだけの成長を続けている同社の経営方針は実にユニークだ。まず、売上など数値目標を設けない。もちろん、社員にノルマを課すこともしない。  坂本社長は同社の哲学としてまず、働く者も、顧客も、取引先も、すべてが幸せになるという考えを紹介した。働くのは幸せになるため。もちろん、幸せになるのにはお金も必要。したがって、会社が利益を上げたからには、給与面で社員に還元を図るのは当然だ。しかし、賃金を得るために仕事をするのではない。  というと、なにやら「特殊な団体」を想像してしまいそうだが、決してそうではない。従業員も家族、その家族も家族という考えで、交流を図っている。社員のひとりによると「けがをして松葉づえをついていたら、自宅に見舞い品が届いたんです。驚きました」という。坂本社長は「昭和の雰囲気」などと表現したが、まさに日本の会社に濃厚だった「同じ釜の飯を食った仲」という雰囲気の中から、ジメジメしないカラッとした部分を抽出した社風であるようだ。 ■取引先にも適正な利益を確保してもらう必要、無理な値引きは絶対しない  社員だけではない。取引先、協力会社にも幸せになってもらわねばならない。したがって、相手が窮地に陥るような値引き交渉は絶対にしない。むしろ、適正な利益をしっかりと確保してもらわねばならないと考えている。  坂本社長は、大手家電メーカーの出身だ。したがって、業界の問題点を目のあたりにしてきた。最大の問題点は、工場、メーカー、流通、消費者とのチェーンにおいて、流通の力が強くなりすぎたことという。流通業者は販売量を確保したい。だからできる限り値引きする。値引きと言っても自分の身を削るのではない。メーカーに値引きを要求する。メーカーは工場に値引きを要求する。メーカーも工場も苦しむ。  値が下がったことは、消費者にとっては有利にも見える。坂本社長は「そうとは限らない」と指摘。「メーカーの利益が少なくなる。すると経費削減を考える。例えばサポートセンターのスタッフ数。それまで100人だったのを30人にするかもしれない。問い合わせの電話が一向につながらなくなる。買った人は文句を言うかもしれない。でもそういう結果をもたらしたのは、あなたが価格だけに価値を見出した結果なんですよ」と説明した。そもそも、工場の製品の品質そのものが低下することになる。  坂本社長は、ユーザーも流通もメーカーも工場もすべて対等な関係であるべきと主張。だから協力会社にはベストプライスを言ってもらう。できる限り応じることにしている。共存共栄を実現せねばならないからだ。 ■エモーショナルで他にはない「とがった商品」を世に送り出す  坂本ラヂヲの主力製品に、スマートフォンやタブレットのケースがある。世の中を見渡せば、安い物なら数百円で買える。100円ショップでも売っている。しかし同社が追求するのは低価格でなく品質だ。そして常識にはとらわれない。流行は追わない。市場でもてはやされている商品ではなく「自分がほしい物だけを市場に投入」する。どこでもある商品ではなく、坂本ラヂヲならではの商品、エモーショナルで他にはない「とがった商品」を世に送り出す。  同社の重要ブランドがGRAMAS(グラマス)だ。本物の素材を使用し、素材の良さを生かしたデザインと加工を施す。フルレザーの牛皮革やクロコダイル、アカエイ、そしてアルミニウム。売れ筋は1万2000円程度だが、5万円以上の商品も扱っている。  例えば、GRAMAS Meister(グラマス・マイスター)というシリーズだ。クロコダイルの中でも最高峰とされる「ポロサスコロコ」の皮だけを使用。傷のない1級品だけを用いる。同じ革でも部位により柄が大きく異なるので、それぞれが最も美しくなるように裁断する。  ちなみにGRAMAS Meisterシリーズは日本国内生産で、1つ1つ職人の手作り。コストなどの足かせをすべて取り払い「世界で一番スタイリッシュな製品づくり」がコンセプトだ。  坂本社長は、「ブランドはユーザーへの約束」と説明。価格はそのまま価値をあらわす。素晴らしい物を手に入れて満足すればユーザーも幸せを感じる。つまり、同社の「哲学」にも合致するわけだ。  海外展開では、東南アジアへの進出を進めて行く考えだ。2014年11月にはシンガポールで販売を開始。翌12月にはマレーシアでも開始。2015年にはマレーシアに拠点を設立する考えだ。  坂本社長によると、GRAMASがiPhoneを中心とするスマートフォンアクセサリーブランドであることもアジア展開では有利という。アジアではアンドロイド・ユーザーが多いが、その理由は安い携帯端末が出回っているからだ。逆にiPhoneは裕福層の、いわゆるステータス・シンボルにもなっている。だからこそ、坂本ラヂヲの製品には強いニーズがあり、熱心なファン獲得も可能との考えだ。 ■会社成功のもう1つの原動力、創業者の「人を見る目」  坂本社長は、坂本ラヂヲを設立する際に、サラリーマン時代にいやだったこと、おかしいと思ったことを、自分の会社では絶対にやらないと決意し、それを今でも実行していると説明した。  数値目標やノルマについては、その数字の実現のためだけにエネルギーを使うようになってしまう。しかも「4月になったらリセット」ということになる。それでは、長期的な視野にたって、よい製品を開発し、売り出すことはできないと考えた。  社員には、働くことで幸せを感じてもらわねばならない。「居酒屋なんかで、サラリーマンが会社の悪口を言っていたりしますよね。あれ、本当に不幸せだと思いますよ」との説明だ。だから、まずは社員の収入を増やすことを考える。坂本社長が念頭に置いているのは社員の年収1000万円だ。すでに2人ほど実現したという。  それだけではなく、社長あるいは社長の「心意気」を感じてもらえるように、さまざまな気配りをしている。2914年冬のボーナス時には、社長賞としてローレックスの高級腕時計を社員全員に支給した。当初は「頑張った人には進呈」と言っていたが、ボーナス期になって、はたと困ったという。それぞれの社員が頑張る姿が改めて浮かんできたからだ。やや迷いをしたが、「約束通り」として全員に配ることにしたという。  同社の成長の背景には、坂本社長の理念だけでなく、社員が社長の期待に応えてきたということがある。坂本社長によると、人を介するなどで「この人ならば」という人材を採用してきたという。ということは、同社成長の大きな原動力として、坂本社長の「人物を見る目」を挙げねばならないことになる。(編集担当:如月隼人)
ユニークな会社がある。2011年度に5000万円だった売上高は14年度3月期には40億円に達する見込みだ。それも売上目標なし、ノルマもなしを続けての急成長だ。
business,company
2015-02-26 14:45