ウィンウィンを目指す「米中新型大国関係」(1)=関志雄
― 「トゥキディデスの罠」を回避できるか ―
中国経済新論「中国の経済改革」-関志雄
米国と中国は、それぞれ最大の先進国と発展途上国であると同時に、世界第1位と第2位のGDP大国である。それ故に、米中関係は世界で最も重要な2ヵ国関係であり、グローバル情勢などに大きな影響を与える特殊な2ヵ国関係でもある。米中関係が健全で安定的であることは、両国の利益になるだけではなく、世界全体の平和、安定、繁栄のためにも不可欠である。それに向けて、両国は「新型大国関係」の構築を目指している。
● 「米中新型大国関係」とは
習近平国家主席とオバマ大統領は2013年6月にカリフォルニア州で首脳会談を行った際、「米中新型大国関係」を共に築いていくという共通認識に達した。その内容について、楊潔篪国務委員は、次の三点にまとめ、解説している(「楊潔篪が習近平主席とオバマ大統領とアネンバーグ邸で行った首脳会談の成果について語る」、中華人民共和国中央人民政府ウェブサイト、2013年6月9日)。
まず、衝突しない、対抗しないことである。客観的かつ理性的にお互いの戦略意図を理解し、パートナシップを堅持し、ライバルにならない。衝突対抗ではなく、対話と協力を通じて、矛盾と相違を適切に解決する。
第二に、相互に尊重することである。それぞれの国が選んだ社会制度と発展の道、そして利益と関心点を尊重しあい、小異を残して大同に就き、互いに包容し、共に前進する。
第三に、協力してウィンウィン関係を目指すことである。ゼロサムゲームの考えを捨て、自国の利益を求める時、相手の利益にも配慮し、自国の発展を求めると同時に、共同発展を推進し、絶え間なく共通利益を実現するための仕組みを模索する。
●習近平主席の提案
米中の「新型大国関係」の実現に向けて、2014年11月12日に北京で行われた米国のオバマ大統領との首脳会談において、習近平主席は次の六項目からなる行動綱領を提案している(「習近平と米国オバマ大統領が会談を行った」、『人民日報』、2014年11月13日)。
① ハイレベルの意思疎通と交流を強化し、戦略的相互信頼を増進する。オバマ大統領と常に意思疎通する。双方は米中戦略・経済対話や人文交流ハイレベル協議などの対話の仕組みをより一層活用する。
② 相互尊重を踏まえ両国関係を進める。中国と米国は国情が異なる二つの大国で、互いの主権と領土保全を尊重し、それぞれが選んだ政治制度と発展の道を尊重し、自らの意志とモデルを相手方に押しつけない。これは両国関係が健全かつ安定した発展を維持するための重要な前提であり、基礎である。
③ 各分野の交流・協力を深める。中国と米国は幅広い共通利益および強固な協力基礎がある。双方は経済・貿易、軍事、テロ対策、法執行、エネルギー、衛生、インフラなど重要分野の実務協力を拡大し、深め、両国関係に新たな原動力を注入する。両国の政府、議会、地方、シンクタンク、メディア、若者など各界の交流を積極的に促進し、両国関係の社会的基盤を固める。
④ 建設的方法で意見の相違とデリケートな問題を管理・コントロールする。中国と米国は一部の問題において意見の相違が存在することは避けられない。双方は対話・協議を通じ、デリケートな問題を適切に処理し、相手方の核心的利益を損なうことをせず、全力で両国関係を維持し、発展の大局を安定させる。
⑤ アジア太平洋地域において互いに包容し、協力を進める。広大な太平洋は米中両国を受け入れる十分な大きさがある。双方はアジア太平洋地域において積極的に交流を進め、包容力のある外交に励み、共に地域の平和、安定、繁栄に建設的役割を果たすため力を尽くす。
⑥ 地域と世界の様々な挑戦に共同で対応する。中国は米国と共にイランの核問題、北朝鮮の核問題、アフガニスタンなどの地域における重要な課題およびテロ対策、気候変動への対応、伝染病対策などグローバルな課題において、意思疎通・協調・協力を強化し、世界平和の擁護および人類発展の促進のために共に積極的に貢献する。<(2)につづく>
(執筆者:関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー、野村資本市場研究所 シニアフェロー 編集担当:水野陽子)(出典:独立行政法人経済産業研究所「中国経済新論」)
米国と中国は、それぞれ最大の先進国と発展途上国であると同時に、世界第1位と第2位のGDP大国である。それ故に、米中関係は世界で最も重要な2ヵ国関係であり、グローバル情勢などに大きな影響を与える特殊な2ヵ国関係でもある。米中関係が健全で安定的であることは、両国の利益になるだけではなく、世界全体の平和、安定、繁栄のためにも不可欠である。それに向けて、両国は「新型大国関係」の構築を目指している。
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2015-03-09 12:15