中国の老工業地区の苦境をAIIBが救えるか?=大和総研

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備が急ピッチで進んでいる。日本は創設メンバーに参加しない意向を示しているが、すでに英国、ドイツ、フランス、イタリアなどが参加を表明するなど、その参加の有無が国際的な関心事になっている。大和総研経済調査部のシニアエコノミスト、齋藤尚登氏は3月26日に「老工業地区の苦境とAIIB」(全1ページ)を発表し、AIIBについての中国側の事情を考察している。レポートの要旨は以下の通り。 経済成長率が若干低下するのを容認し、経済構造の高度化や質的向上を進めていくのがニューノーマルであるが、一部地方には、その痛みが集中して発現している。 石炭など資源や鉄鋼・セメントなど重工業への依存度が高い地方では、内需減速による鉱工業生産の低迷や過剰生産設備を抱える重工業分野の新規投資の落ち込みなどが響き、景気が急速に悪化している。2014年の中国全体の実質GDP成長率は前年比7.4%だったが、山西省は同4.9%、黒竜江省は同5.6%、遼寧省は同5.8%にとどまった。 2015年に入ると、これら一部地方は、その苦境の度合いを深めている。2015年1月~2月の中国の固定資産投資は前年同期比13.9%増に減速したが、石炭採掘は同16.3%減、鉄鋼関連は同4.1%減に落ち込んだ。全国電力消費量が同2.5%増となるなか、重工業部門は同0.4%減だった。鉱工業生産(全体は同6.8%増)を地域別にみると、東部は同7.4%増、中部は同8.4%増、西部は同8.0%増だったのに対して、老工業地区と呼ばれる東北三省(遼寧省、黒竜江省、吉林省)は、同0.6%減に落ち込んでいる。 こうしたなか、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備が急ピッチで進んでいる。当初は日本を除くアジア諸国が創設メンバーになると目されていたが、ここへきて英国、ドイツ、フランス、イタリアなど欧州各国が参加を表明するなど、国際金融機関としての体裁を急速に整えつつある。 AIIB設立によって、中国には、アジアにおける政治的・経済的影響力を行使できるというメリットがある。中国の識者へのヒアリングでは、(1)アジアの低所得国のインフラ整備で中国の過剰生産能力を吸収し、中国国内の需要減速を補う、(2)外貨準備の投資収益率を改善する、(3)領土問題を抱えるフィリピン、ベトナムとの経済的協調関係を構築する、(4)AIIBでは各国の自国通貨建ての貿易、投融資や資金調達が推進されるため、人民元の国際化が進展する、といったメリットが指摘された。 鉄道、道路、橋梁、港湾、空港などのインフラ整備によって、アジアの鉄鋼、セメントなどの需要が高まる。まずは、中国からの輸出増加によって、老工業地区の再活性化を目論んでいるのではないか。(情報提供:大和総研、編集担当:徳永浩)
大和総研経済調査部のシニアエコノミスト、齋藤尚登氏は3月26日に「老工業地区の苦境とAIIB」(全1ページ)を発表し、AIIBについての中国側の事情を考察している。
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2015-03-26 12:30