川崎市のキング スカイフロント、羽田空港と直結で世界のライフイノベーション拠点に飛躍

羽田空港と多摩川を隔てて向かい合う、川崎市殿町地区の「KING SKYFRONT(キング スカイフロント)」がライフサイエンス・環境分野の国際的な研究開発拠点として大きく羽ばたこうとしている。2015年4月にはナノ医療イノベーションセンター「iCONM」がオープン。今後羽田空港エリアと同地区とを結ぶ連絡道路の整備が具体的に動き出す見通しだ。同地区には、すでに国立医薬品食品衛生研究所、日本アイソトープ協会、神奈川県ライフイノベーションセンター、CYBERDYNE、富士フイルムRIファーマ、クリエートメディック、大和ハウス工業など、ライフサイエンスに取り組む産学官の有力機関が続々と進出を決定している。地区の開発を進めてきた川崎市と、すでに同地区で運営を開始しているジョンソン・エンド・ジョンソンの東京サイエンスセンターを訪ね、「キング スカイフロント」の今後の展望について取材した。写真は左が川崎市の玉井一彦氏、右がジョンソン・エンド・ジョンソンの東京サイエンスセンターの後藤肇克氏。
殿町地区は、いすゞ自動車のトラック・バス工場の跡地だった。京浜工業地帯の中心部に位置し、首都圏域の人材・情報・技術のネットワークと連結している。川崎市は、「京浜臨海部の企業拠点は、以前は化学・鉄鋼系の事業が中心でしたが、たとえば、うまみ調味料を作っておられた味の素は、がん診断や再生医療関連の事業を展開、送電用器具を作っておられた東芝の工場では超音波診断機器やDNAチップの生産を行っているなど、ライフサイエンス分野で活躍しているところが少なくありません。殿町地区の開発にあたっては、臨海部の産業との連携も視野に入れ、さらに、世界が直面している課題の解決に貢献できる高付加価値産業を創出する研究開発エリアとして将来像を描き、企業誘致にあたりました」(川崎市総合企画局臨海部国際戦略室担当課長の玉井一彦氏)という。
「キング スカイフロント」の構想は2008年にスタート。更地だった場所の土地区画整理や道路の整備が始まった。2011年12月に総合特区の第一次指定を受け、国立医薬品食品衛生研究所の進出が決定。その後、相次いで有力機関の進出が決まった。そして、2013年9月に神奈川県と横浜市と共同で「健康・未病産業と最先端医療関連産業の創出による経済成長プラン」を提出し、2014年5月に川崎市を含む神奈川県が国家戦略特別区域に指定された。「キング スカイフロント」は、この国家戦略特区を活用した産業振興の重要な戦略拠点に位置付けられている。
川崎市では、今後を展望し、「羽田空港地区と殿町地区を結ぶ連絡道路を整備する構想が具体化してきたことで、大田区に集積するものづくり企業との連携による“医工連携”の可能性を探りたいと考えています。すでに、大田区や川崎市の企業とのビジネスマッチングを始めていますが、今後、続々と誘致した機関の運営が始まることで、キング スカイフロントを拠点とした様々な交流が活発化していくと思います。川崎市は、それらの交流を通じて生まれる新しい動きが、より大きく育っていくようなサポートをしっかり行ってまいります」(玉井氏)と語っている。
4月に運営開始する「iCONM」には、川崎市や神奈川県の他、東京大学、東京工業大学、東京女子医科大学、慶應義塾大学、東京医科歯科大学、国立がん研究センター、放射線医学総合研究所、実験動物中央研究所、アイソトープ協会、医療産業イノベーション機構、富士フイルム、日立製作所、日本化薬、日油、ニコン、ナノキャリア、帝人、島津製作所、JSRライフサイエンス、味の素が参加し、産学公民が一つ屋根の下、異分野融合体制で革新的な研究開発に取り組む。プロジェクトリーダーに東京大学特任教授の木村廣道氏を、研究リーダーに東京大学教授の片岡一則氏を迎え、「ウイルスサイズのスマートナノマシン」の開発をめざすという。「キング スカイフロント内の各機関との連携に加え、国内外との連携を進め、これまでの積み上げ式の研究では実現できなかった大きな目標設定と、その実現が可能になると考えています」(玉井氏)と、キング スカイフロント発の研究開発に大きな期待を抱いている。
この「キング スカイフロント」に、2014年8月にオープンしたのがジェンソン・エンド・ジョンソンの「東京サイエンスセンター」。同社の医療機器を安全かつ適正に使用するためのエデュケーションプログラムを提供する施設だ。腹腔鏡手術をはじめ、脳神経外科・血管外科のハイブリッド治療や、不整脈を治療する為の3D透視シミュレーションを利用したプログラムなど、実際の治療に近い環境で受講してもらうため、最新鋭のアンギオ(血管造影)装置や3次元マッピングシステムなどを完備している。また、精巧な人体ドライモデルを用いた腹腔鏡手術や脳の模擬モデルによる演習など、実際の臨床現場を様々な角度から想定しながら、実践的なトレーニングを提供している。
東京サイエンスセンターのセンター長である後藤肇克氏は、「昨年8月にオープンして半年あまりが経過しましたが、全国の医師の先生方からトレーニングに参加したいというお申込みを多くいただいています。特に週末は人気が高く3か月先まで予約で埋まっている状態です。また、アクセスの良さから平日の利用も徐々に上がってきています。」と、想定を超える反響だという。「東京サイエンスセンターは、札幌などの地方からでも、日帰りでトレーニングを受けられる」とあって、地方から参加される先生も多いという。
東京サイエンスセンターは、ジョンソン・エンド・ジョンソンが世界で運営しているトレーニングセンターの中でも、外科、脳神経外科、整形外科、内科など幅広く診療領域を網羅している数少ない施設のひとつ。「医療現場ではさまざまな診療科が連携し、患者さんに最善の治療を提供する『チーム医療』が主流になっています。東京サイエンスセンターには、専門分野が異なる先生がご来訪されますので、知見を交換する場となることを期待しています。また、今後キング スカイフロントに、国内外の企業や研究者の方々、そして臨床の先生方が集まり、先端医療の情報や技術、意見を交換し、研究開発の拠点となることを願っています。」(後藤氏)と、キング スカイフロントにおいて先端医療の関係者の交流が進むことを期待しているという。
東京サイエンスセンターへ来所する医師は年間1万人。今後は、海外からのトレーニング希望者の受け入れも行っていくという。
この他、キング スカイフロントでは、同地区に立地する川﨑生命科学・環境研究センター(LiSE)にある川崎市環境総合研究所や、臨海部に立地するエネルギー・資源循環などの先端的な環境分野に取り組む企業などとの連携によるグリーンイノベーションの拠点機能としての期待もあるという。羽田空港が24時間国際拠点空港化されたことによって、国内各地や海外との間で人やモノ・情報の交流が一層活発化する方向にある。連絡道路ができれば、その羽田空港まで徒歩15分で結ばれることになる。世界に開かれた一大交流拠点として、世界的な注目を集める存在になりそうだ。(編集担当:風間浩)
羽田空港と多摩川を隔てて向かい合う、川崎市殿町地区の「KING SKYFRONT(キング スカイフロント)」がライフサイエンス・環境分野の国際的な研究開発拠点として大きく羽ばたこうとしている。
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2015-03-30 18:00