雇用統計の悪化でドル売り続く?外為オンライン佐藤正和氏

 4月3日に発表された3月の米雇用統計の非農業部門の雇用者数は予想の24万5000人増を大幅に下回って12万6000人増となった。2013年12月以来の小幅な増加であり、米長期国債の金利も大きく下落。その影響で対円、対ユーロなどあらゆる通貨に対して「ドル売り」の傾向が顕著になっている。米国金利引き上げはいつになるのか、日銀の黒田バズーカ―砲第3弾はあるのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに4月相場の行方を伺った。写真は佐藤正和氏。 ――米国の雇用統計で思わぬ結果が出ました。この影響はどう見ればいいのでしょうか?  3月の米雇用統計では、予想を大幅に下回りました。失業率は5.5%と前月と同じで市場予想と一致したものの、非農業部門雇用者数の伸びは市場予想のほぼ半分で、市場にサプライズを与えました。米国経済がドル高や原油安の影響を与えていることが、雇用者数の伸びの鈍化という形ではっきり出て来た、という印象でしょうか。  さらに、1月、2月の雇用者数の伸びも前回発表よりも合計で6万9000人下方修正されました。ドル高と原油安の影響がすでに年初から始まっていたと見ていいのかもしれません。ただ明るい材料もありました。平均時給が24.86ドルとなり、前月と比較して0.3%上昇しています。市場予想を上回る数値で、景気回復の基調は続いているとみていいのではないでしょうか。 ――ドル売りのトレンドは今後も強まるのでしょうか?  雇用統計の数値が予想を大きく下回ったことで、ドルが大きく売られました。ドル円では一時的に1ドル=118円70銭台までドルが売られて円高が進行。発表当日は「グッドフライデー」で米国の株式市場が休場だったため、はっきりした影響は分かりませんが、FRBの政策金利引上げはやや遠のいたかもしれません。  イエレンFRB議長は、政策金利上昇の時期について「いつあってもおかしくはないが、仮に金利引上げがあったとしても緩やかな金利上昇になる」と明言しており、最近軟調になりつつある株式市場など、金利引上げのショックを最小限に抑えようとしていることがわかります。4月は、28~29日にかけて「FOMC」が実施されますが、イエレン議長の記者会見もなく声明文のみですから利上げはないと思われます。 ――日本も日経平均が2万円直前で足踏み状態ですが、4月のドル円の予想レンジは?  一方の日本ですが、異次元の量的緩和を開始してから2年を経過したものの、物価上昇率はゼロの状態で追加緩和への期待が高まっています。日銀の金融政策決定会合は7-8日にかけて実施されますが、現在のように市場が追加緩和を望んでいる間は、これまでの経緯から考えて可能性は低いのではないでしょうか。少なくとも4月中の追加緩和の可能性は低いと思います。  日本経済全体の動きとしては、大企業を中心に好業績が発表されており、配当なども大きく増える傾向にあります。キャッシュリッチからROE重視の経営にシフトしつつあると考えられます。ただ、株式市場と為替市場の連動性が最近は薄らいできているため、ドル円相場などは日本株よりも米国の金利情勢の影響を強く受ける傾向にあります。  4月の「ドル円」の予想レンジとしては、1ドル=117円-121円というところでしょうか。このところ米国国債の長期金利が下落したため、ドル売り円買いの状態が続いています。雇用統計の結果を裏付けるような米国の景気減速のデータがこれ以上出てくるようだと、ドル円相場にも影響してくる可能性があります。 ――ギリシャ危機が相変わらず報道されていますが、4月のユーロ相場の見通しは?  欧州は量的緩和がはじまって以降、株価も上昇するなど順調に推移していますが、相変わらずギリシャ情勢は綱渡り状態が続いています。9日には資金が枯渇するなどと報道されていますが、ギリシャのEU離脱の可能性も視野に入って来たのかもしれません。  欧州経済そのものはユーロ安の影響などでやや回復傾向にあるようですが、量的緩和が始ったにもかかわらず思ったほどユーロ売りが進んでいないのも事実。ウクライナ情勢やイエメンといった地政学リスクがあって、ユーロ売り一直線というわけには行かないようです。  ユーロ相場の予想レンジとしては、「ユーロドル」で1ユーロ=1.04ドル-1.10ドル、「ユーロ円」では1ユーロ=125円-133円というところでしょうか。 ――豪ドルなどのクロス円はどんな動きになるでしょうか?  4月1日にオーストラリアの2月の住宅建設許可件数が発表されましたが、-3.9%という結果でした。主力輸出品の鉄鉱石の価格下落が響いて、豪経済の勢いが鈍っており、4月7日に行われる「オーストラリア準備銀行」の理事会で政策金利の追加引き下げを決めるのではないかという観測が強まっています。  その影響もあってか、このところ豪ドルは大きく売られており、1豪ドル=0.75ドル台まで売り込まれました。金利引き下げの可能性なども考慮に入れると、4月の「豪ドル円」の予想レンジは1豪ドル=88円-93円と見ています。 ――4月相場全体を総括すると?  全体的に見て「明確な方向性に乏しい」と言っていいのではないでしょうか。さらに、雇用統計の結果からも明らかなようにドル下落のリスクが高まっています。少なくとも、円安一辺倒という投資行動には現実味がなくなりつつあります。  昨年の2月から8月のような停滞相場が再び訪れる可能性もあります。思い込みだけで投資するのではなく、市場の動向を見ながら辛抱強く市場をウォッチすることが大切です。FRBに代わって、今度は投資家が「ペイシャント(patient)」を強いられる番かもしれません。(取材・文責:モーニングスター)。
米国金利引き上げはいつになるのか、日銀の黒田バズーカ―砲第3弾はあるのか・・・。
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2015-04-06 11:30