中国調達:“爆買い”から中国人顧客の志向変化を読む
誰も知らない中国調達の現実(236)-岩城真
訪日中国人客の“爆買い”がマスコミで盛んに報じられた春節(旧正月)休みから2ヵ月近く経っている。賞味期限切れの感もあるが、一過性の話ではないつもりで書いているので、その点をご理解いただければありがたい。
訪日中国人客が“爆買い”に走る経緯はすでに報道されていることなので簡潔に書く。元々日本より派手な贈答の習慣があり、誰かが日本へ旅行に行くとか、日本から帰国するなどと聞きつけると、親戚や友人から日本製品の購入依頼がどっと届くのである。「日本には、こっそり行く」、「お土産のことを考えると中国に帰国したくなくなる」といったことを言いだす中国人の友人までいる。要するに、自己消費用よりも贈答用が多くを占めているということだ。
中国人のお土産需要は今始まったことではない。ここに来てなぜ“爆買い”と言われるほど目立つようになったかというと、人数の問題、購買力の問題もあるが、筆者は買い物の内容の変化にあると考えている。以前の買い物は、高級ブランド品中心で、アクセサリーやバックのように外で人から見えるものだった。言ってしまえば、見せるため、見栄の部分が大きい商品だった。実際、この類の高級品は、そっくりスーツケースの中に入ってしまう。一方、今般の“爆買い”の対象はちょっと違う。高級ブランド品と比較すると、圧倒的に嵩張る炊飯器や温水便座などの家電製品や食料品、医薬品の類である。贈答用であっても、貰った人は自分自身の満足や安心のために消費するものである。
中国でしばらく生活するとわかってくるが、中国人は外で使う(人に見られる)ものにはお金をかける。顕著な例が、携帯電話である。中国で携帯電話が急速に普及した理由は、元々固定電話が普及していなかったこともあるが、それ以上に携帯電話が外で使うものであるからである。また、購入する機種も、収入に対し不相応なほどの高級機を買う傾向にある。そのような中国人の消費行動が、外を意識しない、実質を重視するものに変化している。そのような顧客の志向性の変化は、乱暴な考察をすれば、派手さには欠くが、実用的で上質な日本製品への追い風にならないだろうか。筆者の友人には、日本的なものづくりに共感し、いずれは中国でも、そのようなものづくりへの需要が高まると考える中国人経営者が多い。そのような経営者は、「やっと時代が俺に追いついてきた」といったことを異口同音に言いだした。
大雑把な分析であるが、中国で日本製品に対するリサーチをすると、約半数が日本製品の“良さ”を認めている。(残り半数は、日本製品の使用経験がほとんどないとも考えられる。)しかし、実際に日本製品を購入するのは1割ほどである。そのことを「高くて買えないからだろう」と、我々は、単純に分析をしていた。ほんとうにそれだけだったのだろうか、ちょっと違う。
元々中国人、中国企業はそれなりのカネを持っていたが、表に出ないところに大金を使うという発想がなかったのではないか。自宅で毎日美味しい米飯を食べるより、月一度の高級レストランの会食にお金を使うこと優先していたのではないだろうか。もしそうだとすると、日本企業が中国ローカル企業との価格勝負に勝つためだけにコストダウンばかりに注力する姿勢は、顧客の期待とズレていることになるかもしれない。いわんや、コストと品質がトレード・オフされるようなことがあれば、本末転倒である。製造原価の低減は、自社のためにやるべきもので、原価低減の成果をまるまる顧客に還元するような商売は、いずれ疲弊する。
「品質とリードタイムで、中国ローカル企業に負けることはなくなった。だからボリューム・ディスカウントには応じるが、売らんがための値引きは絶対にしないし、商品代全額が入金されなければ出荷もしない」日本向けとともに、中国国内向けにも機械を製造販売している中国企業の経営者のことばである。
「そんな強気の商売ができるなんて羨ましいですね。」と筆者が言うと、その強気が信用を生むのだという。新しく機械を購入する顧客は、その機械の品質やほんとうのリードタイムは買ってみなければわからない。しかし、どの顧客に対しても強気一点張りの商売をしていても、リピーターがちゃんと存在するという事実が、新規顧客の信用の源泉になるのだという。
訪日中国人客の“爆買い”から、ものづくりの潮流の変化を感じたのは、筆者だけだろうか。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
訪日中国人客の“爆買い”がマスコミで盛んに報じられた春節(旧正月)休みから2ヵ月近く経っている。賞味期限切れの感もあるが、一過性の話ではないつもりで書いているので、その点をご理解いただければありがたい。
china,column
2015-04-14 10:30