大塚倉庫、共通物流プラットフォームのIT化を加速する「ID運輸」を本格稼働

 労働集約型産業のIT化が進む一方、ドライバー不足や燃料高騰化が問題を抱える物流業界は、依然として勘と経験によるオペレーションから抜け出せないという現状がある。そのような中、大塚倉庫(大阪市港区、代表取締役社長:浜長一彦)は、倉庫管理と配送業務を連携させたITプラットフォームを共有することによる効率化を提案している。同社が構築したプラットフォームをパートナー企業に開放し、提携企業全体のコスト競争力を高める狙い。2015年4月10日に、同社の浦安配送センター(千葉県)で、協力運送会社のトップが集う「全国パートナー会議」を開催し、その構想の全体像を説明した。(写真は、大塚倉庫の「全国パートナー会議」でID構想を説明する大塚倉庫社長の浜長一彦氏)  大塚倉庫は、2013年に稼働した「ID倉庫」に続いて、2015年から取り組み開始した「ID運輸」の仕組みをパートナー企業と共有し、「新システムの導入は、実際の収益には少しの改善効果しか生まないかもしれないが、将来には目に見える差となるはず。これからの物流を一緒に作り上げていきたい」(代表取締役会長の大塚太郎氏)と、パートナー企業に連携を呼びかけ、これまでの勘と経験から脱却し、Important Data(=ID)をベースとした2つの戦略で物流業界改革の先陣を切りたいと意気込む。  「オロナミンC」、「ボンカレー」、「ポカリスエット」などで知られる大塚グループの一員としてグループ企業の物流を担ってきた大塚倉庫は、現会長の大塚太郎氏が2011年に社長に就任して以来、企業体質の変革を加速。「医薬品、食品・飲料、日用品というグループの商品の物流と組み合わせてシナジー効果がある品物しか運ばない」というユニークな共通プラットフォームを展開することにより、売上の25%程度だったグループ外企業からの受注を拡大。2013年度に外販比率が50%を超え、今年度は54%に達する見込みになっている。大塚太郎社長の下で進められた経営改革は、現社長の浜長一彦氏が著した「やめるを決める~そして私は社長になった」(出版社:宝島社)に詳しい。また「ID倉庫」と「ID運輸」の本格稼働などによって、現在は約500億円の売上高を早期に1000億円へと引上げ、「共同物流でNo.1をめざす」(社長の浜長氏)と宣言している。  同社の「ID倉庫」は、BtoBの企業間取引をつなぐメーカー物流の配送管理に、BtoCのノウハウを導入し、「従来の荷主単位の管理を、商品単位の管理体制に改めた。約4100アイテムを配送先ごと、倉庫スペースごとに商品管理すると、54億通りの組み合わせになるが、これらのアルゴリズムをコンピュータで計算し、iPadを使って管理できるようにした」(大塚倉庫執行役員ロジスティクス本部長の西牟田克之氏)。従来の経験に基づく倉庫管理をIT化することで、入社1年目の新人でもベテラン社員と同等の入出庫作業が可能となり、システム導入以来、商品間違いゼロの実績を残している。現在、千葉県の浦安配送センターで稼働しているが、今年度中に全国の自社倉庫に展開する。  一方、「ID運輸」は、トラックにiPhoneを載せ、GPS機能の位置情報を使って、ルート条件などのデータを蓄積し、より効率的な配車を可能とする。現在、全国で1300台のトラックで運用している。2015年1月から都内を中心に実施した約3カ月間の実績として、従来は2時間を要していた配車作業が数十分で完了するようになったという。また、「東京23区で28台のトラックで行っていた輸送業務が、27台で同量の輸送が可能になった。配車の効率化は、蓄積されるデータが増えるほど、効率化が進むため、時間経過とともに一段と効率化できる」(西牟田氏)と期待している。  また、「ID運輸」では、「たとえば、予定時間よりも早めに到着した場合は、“通常の入り口右側にある空きスペースで待機する”など、軒先情報をきめ細かくデータ化していくことによって、「属人化している情報を共有化し、誰でもどこでも配送ができるようになり、配車の効率化が一段と進む」(西牟田氏)。さらに、受領書の電子化をめざすなど、より効的な運送を可能とする機能の追加を進めていく。  都内での運送・倉庫作業業務を大塚倉庫から受託しているハイエスサービス(埼玉県越谷市)代表取締役社長の串晃宣氏は、先行して「ID運輸」を導入した経験を語り、「過去に配送管理のシステム化に2度挑戦して思うような成果が出なかったことから、今回の『ID運輸』についても半信半疑で取り組んだが、『ID運輸』は各ドライバーの過去実績に基づいて配車計画が組める仕組みになっているため、配車作業員のイメージに近い配車が可能になる。当日の変更や緊急配送などにも柔軟に対応できるため、大変使いやすい作りになっている」と、「ID運輸」が実践的なシステムであると強調した。  そして、「現在、一段と深刻化しているドライバー不足に対応するためにも、1台あたりのトラックの効率的な運航は不可欠であり、『ID倉庫』と『ID運輸』の活用によって作業が効率化され、ドライバー1人あたりの生産性が高まることの価値は大きい」(串氏)と語っている。  また、大分県から参加した薬秀の代表取締役社長、薬師寺秀典氏は、「ID倉庫」、「ID運輸」と次々にITを活用した業務の提案を進める大塚倉庫について「未来の業務を見たような気がした。これまで、人の頭の中で行ってきたことをデータ化して、誰でもできるようになるという提案は魅力的。地方でも、新しいトレンドに遅れないようにして、ともに成長していきたい」と語っていた。    業務のIT化を進めることによって、「現在の4100アイテムの取扱いを、3万アイテムにまで拡大することが可能」としており、「GPSを活用した配車の効率化を一段と進めることによって、運輸業界が抱える深刻な人手不足を乗り越え、パートナー企業とともに年率8%以上の成長を持続していきたい」(浜長氏)と展望している。(編集担当:風間浩)
労働集約型産業のIT化が進む一方、ドライバー不足や燃料高騰化が問題を抱える物流業界は、依然として勘と経験によるオペレーションから抜け出せないという現状がある。そのような中、大塚倉庫は、倉庫管理と配送業務を連携させたITプラットフォームを共有することによる効率化を提案している。(写真は、大塚倉庫の「全国パートナー会議」でID構想を説明する大塚倉庫社長の浜長一彦氏)
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2015-04-15 16:45