市場化改革の青写真を示した三中全会の「決定」(3)=関志雄

中国経済新論「中国の経済改革」-関志雄 《「体制移行の罠」を乗り越えられるか》   市場化を軸に改革の青写真を示した今回の三中全会の「決定」は、それを受けた中国の株式相場の大幅上昇に象徴されるように、高い評価を得ている。しかし、立派な改革案が策定されても、実施の段階になって骨抜きにされ、途中で挫折してしまうケースが過去にはしばしば見られた。   その一例は国有企業改革である。1999年9月の第15期四中全会における「国有企業改革と発展における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」において、すでに、国有経済が支配すべき業種や分野を「国の安全にかかわる産業、自然独占産業、重要な公共財とサービスを提供する産業、および基幹産業、ハイテク産業の重要な中核企業」に限定し、他の分野においては非公有制経済の発展を奨励する、という「国退民進」の方針が打ち出された。しかし、その後、国有企業改革は進展するどころか、近年の「国進民退」という現象に象徴されるように、むしろ後退する面も見られる。   これに対して、清華大学研究グループは、中国における市場化改革の停滞の原因を既得権益集団の抵抗に求め、中国が「体制移行の罠」に陥っているという仮説を提示している(清華大学研究グループ、2012年)。ここでいう「体制移行の罠」とは、計画経済から市場経済への移行過程で作り出された国有企業などの既得権益集団が、より一層の変革を阻止し、移行期の「混合型体制」をそのまま定着させようとする結果、経済社会の発展が歪められ、格差の拡大や環境破壊といった問題が深刻化していることである。   ロシアや東欧の国々が採った急進的な「ビッグバン・アプローチ」とは対照的に、中国が「石を探りながら河を渡る」といわれる「漸進的改革」を進めてきたことは、既得権益集団の形成に有利な環境を与えている。既得権益集団は、旧体制と新体制の要素を上手く組み合わせて、自分の利益を最大化しようとしており、国有企業による市場独占はその典型である。政治をはじめ、重要な分野において、改革が先延ばしされている。既得権益集団は、自分に不利な改革に反対する一方で自分に有利な改革だけは積極的に進め、その結果、大衆の改革に対する希望も支持も失われてきているという。   こうした認識を踏まえて、清華大学研究グループは、中国が「体制移行の罠」から抜け出すための方策として、次の三点を中心とする提案をしている。まず、市場経済、民主政治、法治社会といった普遍的価値を基礎とする世界文明の主流に乗らなければならない。第二に、権力を制約するメカニズムの形成をはじめ、政治体制改革を加速させなければならない。第三に、改革に関する意思決定を、これまでのように各地方政府や各政府部門に委ねるのではなく、中央政府の上層部によるグランド・デザイン(中国語で「頂層設計」)の下で進めるように改めなければならない。   今回の三中全会の「決定」において、三点目に当たる上層部によるグランド・デザインが強調されている。それを推進する組織として、改革の全体設計、統一的な企画・協調、全面的な推進、実施の督促の責任を負う「改革全面深化指導グループ」が設置されることになり、大きな期待が寄せられている。しかし、他の二点に関しては、これまでの議論と比べて大きな進展が見られず、「改革全面深化指導グループ」の力だけで、「体制移行の罠」が破られ、三中全会での提案通り、改革の加速が実現するかは、見極める必要がある。 <参考文献> Williamson、J.(1990)”What Washington Means by Policy Reform、”In J.Williamson ed.、Latin American Adjustment: how much has happened?(pp.5-20). Washington DC: Institute of International Economics 清華大学研究グループ(2012)「『中所得国の罠』それとも『体制移行の罠』」『開放時代』第3期。 (執筆者:関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー、野村資本市場研究所 シニアフェロー 編集担当:水野陽子) (出典:独立行政法人経済産業研究所 「中国経済新論」)   
《「体制移行の罠」を乗り越えられるか》 市場化を軸に改革の青写真を示した今回の三中全会の「決定」は、それを受けた中国の株式相場の大幅上昇に象徴されるように、高い評価を得ている。しかし、立派な改革案が策定されても、実施の段階になって骨抜きにされ、途中で挫折してしまうケースが過去にはしばしば見られた。
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2013-12-17 01:30