新興国通貨安が円安の基本トレンドにブレーキ=外為どっとコム総研

アルゼンチン・ペソの急落に始まった新興国通貨不安が為替市場の波乱要因になっている。米国のテーパリング(量的金融緩和の縮小)によって、経常赤字が大きな新興国から投資資金の流出が起こると恐れられていたことが、通貨安となって表れているようだ。当面の外為市場の見通しについて、外為どっとコム総研の調査部研究員、石川久美子氏に聞いた。(写真はサーチナ撮影)
――新興国の通貨下落を受けて、外為市場で円買いの動きが強まっています。当面のドル/円の動きをみるポイントは?
新興国の危機が「今、そこにある不安」として意識されてしまっていますので、当面は落ち着きがなく、価格変動も大きな相場になりそうです。
米国のテーパリングをきっかけに、海外からの資金に頼っている新興国への投資資金が縮小されてしまうとの観測が底流する中、1月23日のアルゼンチン・ペソの急落、中国のシャドーバンキング問題に絡む理財商品のデフォルト懸念の台頭、トルコ・リラや南アフリカ・ランドの急落など、新興国発のリスクシナリオが同時多発的に発生しました。
一つひとつの事例は、市場を震撼させるほど大きくはないといえますが、次々に悪いニュースが出てくることが不安感につながっています。たとえば、トルコ・リラの急落に対しては、翌日物貸出金利を7.75%から12%に、1週間物レポレートを4.50%から10%に引き上げるなど、市場の予想を上回る大幅な利上げだったため、一旦は、リラの急落をくい止めたものの、その後、トルコ経済への利上げによる悪影響が意識され、翌日には再びリラが下落するという展開になりました。
トルコでは現政権が利上げに反対していたにも関わらず、中央銀行が極端な利上げを実施してしまったことに対して政治的な混乱が今後起こる可能性もあります。トルコでは3月に統一地方選挙が予定されているということを考えれば、また何か、トルコ・リラを揺るがすような動きが出てくることも考えられ、落ち着かない状況が続きそうです。
新興国の問題が一気に解決することが難しく、また新興国不安を払拭するほどの新しい材料が出てこない間は、ドル/円も落ち着かない動きが続くと思います。悪い材料が重なった時には、思わぬドル安・円高に振れる可能性があることを意識しておかなければなりません。
ただし、こうした不安が沈静化してくれば、再び市場の目線は米国の量的緩和縮小ペースに戻っていくでしょう。つまり、日米の金融政策スタンスの「米国:量的緩和縮小(=引き締め睨み)、日本:追加緩和が視野(=緩和睨み)」という差異に着目し、再び円売り優勢に戻ると見ています。
――当面の予想されるドル/円のレートは?
悪い材料が重なった場合は、1ドル=100円台へのドル安・円高も考えられます。ちょうど200日移動平均線が現時点で100円程度の水準ですので、その辺りまでの円高の可能性はあります。一方、新興国不安が早期に後退した場合には、今年のドルの高値である1ドル=105.440円をめざす動きになると思います。
――豪ドル/円が低迷していますが、当面の見通しは?
豪ドルを積極的に買う理由がなくなっていると見ています。先日発表された2013年第4四半期の消費者物価指数が市場予想よりも高値に出たことから、当面の利下げ観測は後退しているのですが、豪州の雇用もまだまだ弱めですし、経済的な結び付きが強い中国について、シャドーバンキング問題などの先行き不透明感を強める要素が強く意識されている点は重石です。
さらに、豪中銀(RBA)のリドアウト理事が、「オーストラリア経済にとって1豪ドル=0.80米ドルが適当な水準」と発言したと伝えられています。現在、1豪ドル=0.87米ドル台の取引ですので、一段と下落することを望んでいるとみられ、豪ドルに積極的に投資する意欲をそいでしまっています。
新興国の通貨不安で円が買われるような場面では2013年8月の1豪ドル=86.399円を抜けて、85円程度までの豪ドル安もイメージされるような局面だと思います。新興国不安が後退し、全般にリスクオンの状況になれば、20日移動平均線(現時点:1豪ドル=91.926円)、または、200日移動平均線(現時点:1豪ドル=92.962円程度)への戻りを試すことになると思います。
――その他、注目される通貨ペアは?
新興国に対する不安が収まったらという条件付きなのですが、NZドル/円の戻りは速いと思っています。1月30日に、ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は、政策金利の据え置きを発表したばかりですが、インフレ圧力が高まっているとして、近い将来の利上げの公算があることを表明しています。こうした中で、3月に予定されている次の理事会での利上げが期待されており、NZドルは他の通貨に比べて買いやすい状態にあると言えます。
ただ、新興国の通貨不安が続いている間は、1NZドル=83円台を維持できずに、一段安となる可能性があります。NZドルの流通量が比較的少ないことを考えると、下げに勢いがついてしまえば、昨年11月初め以来の80円台までの下落も否定はできません。他方、為替市場が落ち着けば、今年1月高値の87円台を目指して戻っていくでしょう。そのスピードは他のクロス円の戻りより速くなると考えられます。87円台まで戻せれば、その後は1円刻みで88円、89円へと上値を1つずつ試す展開になりそうです。(編集担当:徳永浩)
アルゼンチン・ペソの急落に始まった新興国通貨不安が為替市場の波乱要因になっている。米国のテーパリング(量的金融緩和の縮小)によって、経常赤字が大きな新興国から投資資金の流出が起こると恐れられていたことが、通貨安となって表れているようだ。当面の外為市場の見通しについて、外為どっとコム総研の調査部研究員、石川久美子氏に聞いた。(写真はサーチナ撮影)
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2014-01-31 17:15