新興国危機は続くか-中国リスクの検証-=村上尚己
1月後半以降の新興国の大幅な通貨安をきっかけに、世界の金融市場は大きく揺れ動いた。新興国の通貨下落の背景の一つは、FRBのテーパリング(量的金融緩和縮小)によるマネーフローへの思惑がある。予想できない通貨危機を引き起こすとの懸念だが、この点については、1月27、31日レポートで取り上げた。
新興国に対する懸念が高まっているもう一つの理由は、中国への警戒である。心配されていた、理財商品の債務不履行は回避されたが、シャドーバンキングの潜在的リスクに加えて中国経済が大きく減速しているとの懸念が高まった。新興国経済や商品市況に影響を及ぼす中国経済が大きく減速すれば、それが先進国経済回復の足を引っ張り、リスク資産への逆風になる。最近のマーケットの混乱はそれを示唆しているかもしれない。
以下では、そのリスクについてデータを確認しながら考えたい。まず、1月23日に発表された、中国製造業景況指数(PMI指数/HSBC)が50を下回り6か月ぶりの水準まで低下したことが、中国リスクへの懸念を高めた。
同様に先週末発表された、政府が発表した1月分の製造業景況指数も6か月ぶりの低水準まで悪化した。これらのヘッドラインをみると、2013年夏場に中国への懸念が高まった時と同様、再び中国経済が減速しているように見える(グラフ参照)。
ただ、大企業を対象とした景況指数(政府統計)は、旧正月要因で1月に低下する傾向があり、過去(2008-09年除く)1月の同指数は、平均で前月から0.6ポイント低下している。つまり、2014年1月は6か月ぶりの低水準といっても、前月から0.5ポイント低下で、1月に観察される平均的な指数の低下である。また、中小企業への調査であるHSBCのPMIは、50割れとなり心配だが、2013年半ばなどの大底ほど悪くない。
以上を踏まえると中国経済は依然停滞しているが、大きく減速しているとまではいえない。また、中国は停滞しているが、1月分としては欧州の製造業景況指数が引き続き改善した(グラフ参照)。少なくとも、中国経済減速の悪影響が、先進国の生産活動に及ぶ兆しはみられない。この点について、今晩発表される1月分の米国ISM指数で確認したい。
PMIの悪化自体は、今市場が抱いている新興国への懸念を裏付けるほど悪くはない。ただ、気になる点もある。年明けから海運市況の指数であるバルチック指数が再び下落している(グラフ参照)。また、産業用金属価格(銅、アルミニウム、鉛等)や中国が輸入する鉄鉱石価格も、足元で低下している。これらは中国が旧正月休みに入ったことが影響している面もあるが、中国の需要減速のシグナルかもしれない。
現時点では、中国経済について少し注意すべき点があるが、過度に悲観する必要はない。中国減速を起因とした新興国経済停滞が世界経済の大きな足かせになる、リスクシナリオが訪れる可能性は高くない。市場のリスク回避の強まりがもたらした最近の株安・金利低下は、このリスクシナリオまで強く懸念しているのかもしれない。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
1月後半以降の新興国の大幅な通貨安をきっかけに、世界の金融市場は大きく揺れ動いた。新興国の通貨下落の背景の一つは、FRBのテーパリング(量的金融緩和縮小)によるマネーフローへの思惑がある。予想できない通貨危機を引き起こすとの懸念だが、この点については、1月27、31日レポートで取り上げた。
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2014-02-03 17:45