ファナックとトヨタとの双発エンジン点火ならキャッシュリッチ企業の決算発表マークはまだまだ遅くない=浅妻昭治

<マーケットセンサー>   「私は財布ではありません」……トヨタ自動車 <7203> の豊田章男社長の発言である。ドッキリする発言だ。しかし、ご心配はご無用。トヨタの資本・財務戦略に言及したものではない。同社長は、今年4月16日にサッカーのJリーグの名古屋グランパスエイトの代表取締役会長に就任した。発言は、その就任の記者会見の席上で発せられた。トヨタは、同クラブのメーンスポンサーで、前身が「トヨタカップ」と呼ばれた「FIFAクラブワールドカップ」のスポンサーの位置にもあってサッカーとの縁が深く、もちろん「トヨタ銀行」との尊称さえ奉られたほど日本一の金持ち会社、いやワールドサイドのキャッシュリッチ企業である。そのトヨタの現役社長の会長就任である。クラブの内外では、否が応でもスポンサーとして大盤振る舞いの資金支援期待が高まるのは当然のことであった。   ところがそこにこの記者会見での会長発言である。スポーツ新聞では、直ちの大型補強や運営費増額などの資金支援を否定したと報道した。しかし新会長就任は、間違いなく同クラブの成績急上昇に直結している。今シーズンに入り、それまでJ1カテゴリー18チームの12位と成績が低迷していた同クラブが、新会長就任後には、カップ戦を含めて4勝1敗と白星を積み上げリーグ第6位(5月2日現在)まで順位を上げてきた。日本代表に選出された永井謙祐選手や川又堅碁選手らもピッチ上で躍動して得点を伸ばし、チームの勝利に貢献している。この様変わりの好成績は、新会長がいくら資金支援を否定しようが、選手は何らかのインセンティブを期待してモチベーションを高め、サポーターも2010年以来のリーグ優勝の夢を見始めていることは間違いない。   そういえば、2010年に同クラブが優勝の表彰式を終えたピッチ上で、優勝銀皿を一人高々と頭上に掲げて喜びを爆発させていたやや場違いな人物の姿が、テレビの映像にチラリと映った。何者かと目を凝らせば、その人物こそ豊田社長その人であったことを憶えている。この2010年は、トヨタにとっても特別な年だったわけで、豊田社長の喜びもよく理解できる。この辺の事情に興味のある読者には、同クラブのホームページに掲載されている新会長就任の記者会見の模様をぜひ一読されることをお奨めしたい。   今回の当コラムは、株式投資とまったく関係ないサッカーの話から稿を起こして恐縮だが、本題を株式市場の方に戻そう。実は、株式市場の方でもサッカーのピッチと同様に、トヨタの「財布」への期待が高まっているのである。同社は、明8日に3月期決算の発表を予定しているが、最高業績を連続更新する好業績はもちろん、増配などの株主還元策の大盤振る舞いへの催促相場がかまびすしい。すでに市場では、ファナック <6954> が、今年4月27日の3月期決算の発表時に、連結配当性向を30%から60%に引き上げ、今後、5年間は、平均総還元性向80%の範囲内で機動的に自己株式取得を実施すると表明して、株価急伸につなげている。ちょうど1年前の昨年5月15日にアマダホールディングス <6113> が、2年間限定で利益の100%還元により増配と自己株式取得・消却を発表して大幅高したが、今年も、ファナックが、これを再現し相場テーマとしての再浮上を確実にした。   実際、大型連休前までに決算を発表した主力株の株価動向でも、連続増配や自己株式取得などを発表したイビデン <4062> 、TDK <6762> 、ローム <6963> 、村田製作所 <6981> などの初動の株価感応度は高く、とくに言及のなかった信越化学工業 <4063> 、京セラ <6971> などは失望売りを浴びて急落、明暗を分けた。   株式投資には、「たら」、「れば」は禁句である。「贔屓の引き倒し」で楽観的な観測に基づいて株式投資をすれば、逆に出たときに手厳しいしっぺ返しを受けることになる。しかし、もしトヨタが、決算発表の席上で「私は財布です」と表明して積極的な株主還元策を打ち出して「くれたら」、マーケットは、ファナックに続くリーディング・カンパニーの援軍到来となって、双発エンジンが点火されることになり、テーマはより航続距離を伸ばすことになる。   大型連休中の海外市場では、相場のムードが不安定化した。一人勝ちの米国経済で、相次ぎ発表された経済指標が景気の先行き不透明化を示唆し、ギリシャの財務不安が続き、総選挙次第では英国のEU(欧州連合)離脱なども懸念されるためだ。そうした逆境をハネ返して東京市場が逆行高するには、独自材料が不可欠で、ファナック、トヨタによる双発エンジンの点火は願ってもないフォロー材料となる。と「なれば」、このリーディング・カンパニーにならって「金持ち会社」、「キャッシュリッチ企業」の3月期決算発表をマークすることが、最も妙味の大きい投資スタンスとなるはずだ。3月期決算発表は、明8日にピークを迎えるが、まだまだ注目は怠れず、キャッシュリッチ企業のランキング表と決算発表スケジュールとを突き合わせつつ銘柄スクリーニングを進めたい。(本紙編集長・浅妻昭治)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)
「私は財布ではありません」……トヨタ自動車の豊田章男社長の発言である。ドッキリする発言だ。しかし、ご心配はご無用。トヨタの資本・財務戦略に言及したものではない。
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2015-05-07 09:45