中国調達:中国製造業に不足しているのは管理技術、高度な技能も設備も宝の持ち腐れ
誰も知らない中国調達の現実(237)-岩城真
中国の製造現場を観察していると、「あ~、もったいない!」と思わず口にしてしまう。「何がもったいないのか」って、原材料の使い方がもったいない?もちろん、無駄になってしまう原材料が多いのも事実であるが、筆者がもったいないと痛切に感じているのは、“技能”である。組織としてそれなりの“技能”を持っているのにも関わらず、それが製品の品質にしっかりと反映されていないことだ。先に結論を書いてしまうと、“技能”や“製造ノウハウ”、“装置”といったリソースを持っていても、それをどのように配番、投入するかといった管理技術が低いということなのである。辛辣な表現をすれば、“宝の持ち腐れ”である。
溶接構造物を製作する場合、どこの部分にも最高の技能者を配備しなくてはならない、というのは建前だ。現実は、高い荷重を受ける重要部分はフルペネ(無欠陥溶接)が求められるし、目につく外面は見映えの良さが求められる。逆に目に留まらない内面の、しかも荷重の掛からない部分などそれなりの溶接でもよい、というのが本音である。
ところが、溶接工の力量を管理者が把握し、それを配番に反映させなくてはならないにも関わらず、それができていないことが多々ある。実際筆者の指導したファブリケーターも、発注前にその製品を見た関係者から「あそこでほんとうに大丈夫なのか?」といった不安の声があがった。筆者自身も「できることなら発注は見合わせよ」といった見解を出していた。しかしそこに替わるファブリケーターはなく、「それでも、発注を見合わせるか?」といったギリギリの選択を迫られた。
最終的に筆者は、発注を決断した。決断の決め手は、件のファブリケーターの製品を丹念に観察してゆくと、良好な溶接も見つけることができたからだ。結果的にクレームのつかない良質な製品を作らせることができた。筆者が何をしたのかと言えば、溶接工の選抜テストを実施して、技量の認定を行い、それに従って適切な配番をさせただけだ。特段、溶接の技能指導をしたわけでもない。したとしてもそんな短期間に溶接技能が向上するはずもない。ひとことで言えば、持てる力をきっちり発揮してもらったというだけなのである。
現場の作業者は、製作の過程で工夫し、冶具を考案して、それなりのものを作ろうと努力している。しかし、そのノウハウは、現場の班長クラスの頭のなかに溜め込まれているだけなのである。類似したものを別の班長に配番すれば、同様の失敗を繰り返し、膨大な時間を掛けて、手直しだらけの製品を作ってしまうこともある。折角のノウハウが組織に共有化されていないのである。
もし、現場の班長どうしで教えあってノウハウの共有化することを期待しているとしたら、それは中国製造現場の実態を知らなすぎる。それゆえ生産技術の担当者がノウハウを吸い上げ、別の班長にノウハウを落としてやるべきなのだが、中国のホワイトカラーは現場を知らない、見ようとしないから、ノウハウを吸いあげるどころか、そこにノウハウがあることに気がつかないことさえある。現場は誇るべき“技能”を持っているのに、それが品質にきっちりと反映されないのである。
工程管理にしても、プロセスの管理をしないので、ムダが多い。途中段階でマンパワーの絶対的な不足を確認していれば、余裕のある工程から作業者をシフトし、遅延を最低限に抑えられるものも、最後の最後になって遅延を認知するものだから、あとの祭りといったことが多い。
中国でのITツールの普及は、日本より進んでいるのではないかと思う。片田舎のサプライヤーの設計者のPCにも、たいてい3D-CADのソフトがインストールされている。ところが、3D-CADは、部材の干渉を確認するだけにしか使われていないことが多い。3Dデータを塗装の塗分け指示書、サプライリスト、パッキングプラン、据付組立図へと展開すれば、図面の読めないワーカーを使うこともできれば、間違いも減る。要するに、隣のセクションにどんなリソースがあるかも知らなければ、興味もない、といったことが問題なのではないだろうか。
中国は新興国向け輸出によって、国内のインフラ関連業種の設備過剰、低操業度を改善しようとしているが、今のままでは相変わらずの粗悪廉価品の販売が継続される。仮に目論見通りに輸出が増加すれば、為替、人件費の上昇と相まって利益なき繁忙、“貧乏の輸出”と揶揄されることになるだろう。繰り返すが、中国製品は技能が低いから品質が悪いとは一概に言いきれない。外資系企業が生産に大々的に介入する量産品の電子組立や衣類のジャンルでは、高品質低廉な製品を製造していることが、何よりの証拠である。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
中国の製造現場を観察していると、「あ~、もったいない!」と思わず口にしてしまう。「何がもったいないのか」って、原材料の使い方がもったいない?もちろん、無駄になってしまう原材料が多いのも事実であるが、筆者がもったいないと痛切に感じているのは、“技能”である。
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2015-05-12 10:15