日系企業の「甘やかし」が駐在員をダメにする

日本経営管理教育協会が見る中国 第358回--高橋孝治(日本経営管理教育協会会員)
● 郷に入っては郷に従う
「中国語は全くできません」と堂々とおっしゃる。そういうビジネスマンが、中国の日系企業の日本人駐在員の大多数を占める。筆者がお伺いした方の多くは「通訳をつけるから中国語はできなくてもかまわない」というのが、中国赴任のときの条件だったそうだ。
本稿を読まれている日本人の海外勤務経験者は、「ごく当たり前のこと」と思われるかもしれない。しかし少し冷静に考えれば、外国でビジネスをするのにその国の言葉もまともに話せないというのは異常ではないだろうか。
しかも、問題は言葉だけではない、住宅に関しても同様だ。北京や上海には、外国人向けに日本とあまり変わらないクオリティのマンションが多数ある。多くの日本人はこのような住宅に住んでいる。
その国の言葉も喋れない、その国の一般の人がとても住まない(住めない)ようなハイクオリティの家に海外赴任手当の現物給付の形で居住する。それで本当にその国を理解できているのかはすこぶる疑問だ。
● 住居ぐらいは自分で決める
「企業派遣の日本人って、だいたいああいう会社が用意した小奇麗な家に住みますよね。だからダメなんですよね」――北京で起業された、ある日本人の弁である。
日本以外の国の会社が社員に海外赴任を命じるときは、札束をポンと渡し、「それで自分で家を探して契約しろ。家が現地で見つかるまではその金でホテル暮らしをすればいいだろ」と言って終わりらしい。そしてこの日本人企業家は続ける――「そういう環境に置かれてこそ、不動産屋と交渉するために必死に中国語を勉強するし、その交渉の中で培ったスキルが結局ビジネスに生きるんですよ」。
どうやら一般的な日本人の赴任者は、海外でも会社が至れり尽くせりの「温室」をあてがうので、ビジネススキルを学ぶチャンスを大幅に失っているらしい。
この日本人起業家はさらに続ける――「一般的な日本人が短期間で不動産屋と交渉できるレベルの語学力を身につけられるとは思えないし、もしそんな要求をされたら、多くの日本人社員は海外赴任を命じられた途端に辞めてしまうでしょう。だから日本の場合はこれでいいんじゃないですか?ただ、それでは中国ビジネスなんかうまく行くわけないですけどね」。
● 苦労して初めて身につく中国ビジネスのスキル
海外赴任経験者は、経歴として、何年どこの国でビジネスをしてきたということを売りにする。しかしその実、海外で外国語も使わず、日本と大差ない環境で仕事をしていただけというケースも少なくない。実際、中国ビジネスを売りにしている方で中国語ができないという方も非常に多い。
これを聞いて耳が痛い方は、通訳などを雇わず、所持金5万円程度の中国出張を体験してほしい。中国語を使って銀行で両替をし、外国人なんかが来ないような汚くて安いホテルでさらに値切って泊まって……それを経験してこそ、中国ビジネスに必要なスキルが身に付くのだ。中国語ができないからなどという泣き言は中国ビジネスをやる以上許されない。
写真は外国人の姿も稀な北京のスラム街。(執筆者:高橋孝治・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)
「中国語は全くできません」と堂々とおっしゃる。そういうビジネスマンが、中国の日系企業の日本人駐在員の大多数を占める。筆者がお伺いした方の多くは「通訳をつけるから中国語はできなくてもかまわない」というのが、中国赴任のときの条件だったそうだ。
china,column
2015-05-13 17:30