高血圧はITで予防する時代に、家庭血圧の重要性を「大迫研究」で著名な東北大・今井教授が力説

 推定患者数が約4300万人といわれ、日本人にもっとも患者数が多い生活習慣病「高血圧症」について、東北大学大学院医薬開発構想講座教授の今井潤氏は、「高血圧診療は予防医学です。家庭での血圧測定を日常化し、自身の血圧についての理解を深めることで、血圧の管理ができるようになります。高血圧症と関係の深い認知症や、脳卒中、心臓病、腎臓疾患、糖尿病などへの進展の予防にもつながります」と、家庭での血圧測定の重要性を強調した。今井教授は、オムロン ヘルスケアが2015年5月13日に東京で開催した「高血圧に関するプレスセミナー」で講演し、「家庭血圧の普及は年間の医療費を1兆円削減する効果が期待されます」と血圧測定の重要性について語った。写真は東北大学大学院医薬開発構想講座教授の今井潤氏。  今井教授は、岩手県花巻市大迫町で1986年から地域住民9400人の協力を得て、家庭での血圧測定の実証研究を継続している。長期間にわたる観察研究は、「大迫研究(Ohasama Study)」として世界的に有名となった。「大迫研究」で明らかになった「家庭血圧値135/85mmHg以上は高血圧」という診断基準は、2014年に制定された日本高血圧学会のガイドラインにも採用され、WHO(世界保健機関)や米国JNCガイドライン、ヨーロッパのESC(心臓学会議)などでも採用されて国際的な基準として認められている。  今井教授によると、「病院外来における血圧測定は“白衣高血圧(医師らの白衣を前にすると血圧が高くなる)”によって高くなりがち。あるいは、日中の血圧が正常値でも就寝中などの夜間に高血圧になってしまう“仮面高血圧”は、病院外来では発見が難しいなどの問題があります。現在の医療では、診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合は、家庭血圧による診断を優先するということが医療現場で定着してきています」と語っている。このような医療の“常識”に大きく寄与したのが、今井教授らが続けてきた「大迫研究」の大きな成果だ。  この家庭血圧の測定に欠かせない自動血圧計は、1973年にオムロンによって開発され、日本のメーカーが主体となって世界に普及。現在は年間1400万台の家庭血圧計が日本メーカーによって生産され、うち日本国内で280万台が販売されている。既に日本では約4000万台の家庭血圧計が購入されてきたという。  今井教授は家庭で血圧を測定する場合は、「起床後1時間以内の朝に1回、就寝前に1回と、1日2回測定することが望ましい」という。そして、それをできる限り長期間にわたって記録していくことが重要だと強調した。また、実際に高血圧症であると診断されている患者には、家庭血圧を測ることで、降圧薬の服薬による血圧変化について管理することも可能になる。「家庭血圧の記録があると、薬効や薬効持続時間がわかり、季節による血圧変化も確認できることから、必要に応じて降圧薬の増量や減量のアドバイスも的確にできます」と語っている。  さらに、近年では、家庭血圧の測定結果を電子化して蓄積、転送、集計、検索することで医療の現場で積極的に活用する「テレメディシン」が注目されている。今井教授は、「家庭血圧のデータが蓄積されることで、アルゴリズムによる判断やフィードバックについて医療の現場で活用することも可能となり、高血圧診療の強力なサポートシステムになることが期待されます。さらに、将来は降圧薬の増減を患者自身によって調節することすら可能になるでしょう」と将来を展望している。  オムロン ヘルスケアは、これまで医師とともに作り上げてきた血圧管理プログラムを、スマートフォン向けアプリ「血圧ノート」(開発・運営はプラスアール)に2015年5月25日から搭載開始することを発表した。  測定データを分析し、血圧があがりやすいタイミング(時間、曜日、時期)の傾向を知らせるとともに、日々のデータをもとに血圧傾向の良し悪しを教えてくれる「ひとことアドバイス」機能を搭載。高血圧の知識がない人でも、自分の血圧の状態を把握していくことができるようになる。また、同社の通信機能付き血圧計を使うことで、計測データを簡単に転送することができる。オムロン ヘルスケアでは「日々の血圧管理をソフト面でも便利にすることで、スマートフォンを使い慣れた30代~40代の若い世代の血圧測定習慣を拡大し、高血圧症の未病・予防の促進に貢献したい」としている。  今井教授は、スマートフォンのアプリを使った血圧管理について「高血圧症は一般に、男性であれば30代後半、女性は40代前半から症状が出てきますが、その前段階の前高血圧症の方々は少なくありません。家庭血圧で高い方の数値が125mmHgを記録するようであれば前高血圧症を疑って、生活習慣の改善を考えた方が良いと思います。塩分を控える、体重を減らす、お酒の量を減らす、タバコを止めるなど、生活習慣を見直すことで高血圧症のリスクを抑えることは可能です。まずは、普段の自分の血圧について関心を持つところから、健康管理を考えていただきたい」と、若い時期から家庭血圧に取り組むことの大切さを語り、スマートフォンのアプリによる血圧管理の普及にも期待していた。(編集担当:風間浩)
推定患者数が約4300万人といわれ、日本人にもっとも患者数が多い生活習慣病「高血圧症」について、東北大学大学院医薬開発構想講座教授の今井潤氏は、「家庭での血圧測定の重要性を強調した。
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2015-05-15 17:00