良好な投資環境が続く米国REIT市場、フィデリティ・USリート・ファンドのアンディ・ルービン氏に現状と見通しを聞く

米国REIT市場の高いパフォーマンスが続いている。一方で、J-REIT市場は2015年に入ってからもみ合い相場となり、2014年の上昇の勢いを取り戻せていない。米フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ・カンパニーの機関投資家ポートフォリオ・マネージャー、アンディ・ルービン氏(写真)に米国REIT市場とJ-REIT市場との比較、また、今後の展望を聞いた。
――米国REITの投資環境は良好ですが、日本のREITは2015年になってからパフォーマンスが日経平均株価やTOPIXに劣後しています。これは年初からPO(公募・売出)や新規上場があり需給が緩んでいるのと、日本国債との利回り格差が3%を割ってきていることにあると言われています。米国REIT市場も、IPO(新規上場)によって需給が緩んで相場に悪影響を与えることはよくあるのですか?
米国REITのIPOは、近年かなり少なくなっています。2014年には5つのIPOがありました。そのうちの1つは、パラマウントグループによるIPOで、市場から20億ドル以上を資金調達し、米REIT史上最大規模のIPOでした。
一方、既存のREITによる資本市場からの資金調達は活発に行われています。米国の税制により、REITは課税所得の90%以上を配当の形で投資家に支払う必要があり、利益を蓄えることができません。したがって、REITが物件を購入して規模を拡大するには、社債や株式の発行によって行われています。このREITによる資金調達は、需給が緩むため短期的にはREIT市場のパフォーマンスにマイナスの影響を与えます。実際に2015年第1四半期は、REITの資本調達によって、パフォーマンスが低下しました。
しかし、REITの資金調達に対する投資家の応募姿勢は積極的であり、この状態は継続すると期待しています。このようなREITの新株発行を容易にする市場環境が続くことによって、REITの成長を後押しすると考えています。
――米国では10年国債とのスプレッドが2%を下回っても2014年は堅調に推移しましたが、日本のREITは国債利回りと配当利回りとの差が3%を下回ったことによって市場が過熱を懸念しています。これはREITの歴史や規模(流動性)の差なのでしょうか?
2015年3月31日現在の米国REITの配当利回りと10年国債利回りのスプレッドは2%でした。これは、1990年代初頭からの平均スプレッドである1.7%を上回っています。配当利回りの観点から、このスプレッドの水準は米REITの大きな魅力になっています。
米REITは2014年に前年比30%値上がりするなど、ここ数年間は堅調に推移してきていますが、この間に一貫して配当が増額し、国債とのスプレッドで優位性を維持しています。このようにREITの利益成長を配当で還元している動きが、近年の米国REIT市場の成長を支えているのです。
私は、日本の投資家が、REITの配当利回りと国債利回りとのスプレッドが3%を下回ると投資に慎重になってしまう理由を明快に解説することはできませんが、おそらく、日本では多くの投資家がREITに利回りをより強く期待しているためだと思います。米国では歴史的に、REITは利回り期待と成長期待が半々で期待されていますので、日本と比較するとスプレッドが小さくなっているのだと思います。
――米国REITには、モーゲージREITやリート債などもありますが、それらの市場規模は、どれくらいの規模ですか? また、「フィデリティ・USリート・ファンド」ではモーゲージREITやリート債も投資対象に加えていますか?
米国REITの無担保債券市場は、現在、1900億ドル程度の市場規模があります。また、モーゲージREITは約40本あり、時価総額で600億ドル程度になっています。「フィデリティ・USリート・ファンド」は、エクイティREITの投資にフォーカスしているため、モーゲージREITやリート債へは投資していません。
主として物件の賃貸収入から収益を生み出すエクイティREITと違って、モーゲージREITはローンの利払いから収益を生み出すという点で、性格が非常に異なっています。モーゲージREITへの投資は、債券投資との類似点が多く、その分析はエクイティREITと同じようにはできません。金利リスクをより大きく受けるため、モーゲージREITには約10%の平均配当利回りがあります。
一方、REIT債は、株式よりも破産の場合には返済が優先されるなど、信用力が高いというメリットがあります。また、REIT債には、投資家を保護するための財務制限条項を持っているものもあります。
――日本では個人投資家の間でREITへの人気が非常に強いのですが、米国では株式市場が巨大なため、セクターとしてのリートはそれほど大きなものではありません。REITに投資する投資家は、機関投資家と個人投資家でどちらが多いのですか?
米国のエクイティREITにおいて、個人投資家の投資割合は17.5%を占めています。また、ミューチュアル・ファンドを介してさらに12%、ETFを通じて7.5%、加えて、米国REITのインデックスファンドが投資主体の5%を占めます。これらを合計すると、米国REITの投資割合の42%は、米国の個人投資家から来ているといえます。
一方、機関投資家の投資割合の中でも、実質的に個人資産に帰属する企業年金基金を通じ米国REITの約24%を所有しています。このように、米国の個人投資家は米国REITの発行済株式時価総額のかなり部分を所有していることがわかります。
――米国では不動産関連の投資対象としてREITの他にも、CMBS(商業不動産担保証券)、RMBS(住宅ローン担保証券)、現物不動産などが入り交っています。仮に個人投資家が不動産投資をする場合、どの資産クラスが不動産投資でよく活用されているのでしょうか?
米国では一般的に、エクイティREITを通じて、商業用不動産に投資されています。RMBSは一戸建て住宅の抵当権を担保にした債券ですが、こちらも巨大な市場になっています。多くの投資家は、さまざまな債券ファンドを介してRMBSにも投資することが可能です。
――米国はFRBが利上げのタイミングを模索しているところですが、量的金融緩和が中止されたことで、米国REIT市場にとってどのような影響が考えられますか? 「フィデリティ・USリート・ファンド」の投資戦略に変更はありませんか?
金利変動と米国REITのパフォーマンスには、長期間にわたって相関関係がほとんどないことが示されています。金利上昇によって、REITのパフォーマンスが弱くなる局面も、金利が上昇しているにも関わらずREITが上昇していく局面もありました。
一般的に、金利上昇は景気拡大を背景とするため、商業用不動産のファンダメンタルズが強くなることの前兆といえます。重要なのは、金利が変動する理由や金利の変動の大きさです。FRBが短期金利を上昇させる場合、一般的に25ベーシス・ポイントという小さな変動幅で金利を動かしてきました。これは、FRBが投資家を驚かさないよう、金利変更のプロセスを非常に透明にしているためです。
私たちは、REITの投資家として金利動向に基づいて投資判断をするのではなく、REITのファンダメンタルズに基づいて判断します。したがって、FRBの政策スタンスの変更によって投資戦略が変更されるようなことはありません。私たちは、長期的な観点でより高いパフォーマンスを上げられる銘柄を選ぶことに注力しています。金利はいずれ正常化するべきですが、短期的にはさまざまなセクターや銘柄に影響を与えることになると思います。
――日本のJ-REITの歴史は10年余り。市場規模は10兆円程度と米国の10分の1程度ですが、J-REITは米国リートのように拡大していくと考えていますか?
私はこの質問に答えるに適任ではないと思いますが、一つの考え方として、以下のことはいえると思います。米国REIT市場は世界最大であり、米国でのREITの成長は、商業用不動産の「証券化」が活発化したことによって、近年著しく成長してきたということです。
日本のREITでは法律によって、不動産開発のプロジェクトに投資することができないように規制されています。この点が、米国とは非常に異なっています。このことによって、不動産開発業者としてのREITが日本には存在しません。
一方、J-REITは、物件の管理を外部に委託していることが、米国REITがほぼ100%自社で管理していることとは異なります。外部管理は、内部管理と比較すると、はるかに弱いコーポレート・ガバナンス体制です。私は、このことがJ-REIT市場の一段の成長には、新たな課題になると思っています。(編集担当:徳永浩)
米国REIT市場の高いパフォーマンスが続いている。米フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチ・カンパニーの機関投資家ポートフォリオ・マネージャー、アンディ・ルービン氏(写真)に米国REIT市場とJ-REIT市場との比較、また、今後の展望を聞いた。
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2015-05-20 11:15