中国調達:日系企業は「現地化」の意味を見誤ってはいないか
誰も知らない中国調達の現実(238)-岩城真
今の中国の実体経済は、過去に例のない混沌ではないだろうか。景気は減速し、閑古鳥の鳴くサプライヤーも散見される。それでいて人件費は高止まりのままで、海外に行って“爆買い”する購買力がある。「シャオミーやファーウェイでも問題ない、でもアップルが欲しい」と言ってアイフォンを買う消費者層が、一定のボリュームを占めるようになった。
中国が“世界の工場”から“世界の市場”へ転換してから久しいが、日系企業のビジネス戦略は、一握りの高級品市場を狙うか、現地化を進めローカル企業に負けないコストの構築か、の紋切型の選択が依然として続いているようでならない。特に後者の「現地化」は、何が現地化なのかを理解せずに、イメージ先行で突き進んでいるケースが多い。
企業の現地化というのは、無国籍になることではなく、現地の顧客に企業価値が認識され、必要とされる企業になることである。どんなに中国語が流暢になり、中国人の価値観を理解したとしても、日本人は日本人であって中国人にはなれないように、日系企業も中国人を経営トップに据え、中国人社員だけで運営したとしても、それは現地化とは呼べない。中国ローカル企業にはない価値を提供し、かつそれらが中国の顧客が必要とされたものであるときに真の現地化が達成されるのである。
ところが、今の多くの日系企業はひたすら悪い意味での中国化に走り、「中国ローカルよりちょっと良い」を狙っているように見える。日系現地法人の手っ取り早いコスト削減は、日本人駐在員の帰任である。逆に解すれば、それだけカネを掛けているのだから、日本人駐在員は、中国ローカルスタッフが逆立ちしてもできないパフォーマンスを示さなくてはならない。ところが、「中国のことは中国人の方がよくわかっている」のひとことで、ビジネスの最前線の判断を中国人社員に丸投げしてしまっている。判断を任せること自体を筆者は否定しないが、判断を任せる前に、日系企業ならではの判断基準、価値基準を伝授しなくてはならないにも関わらず、そんなことは吹っ飛んでしまっている。
卑近な例を紹介する。筆者はプラント機械を中国の顧客に納入することに携わっているが、顧客へ提出する資料は、日本の官庁向けの場合と比較するとかなり簡易なものであるものの、結構なボリュームになる。それを受け取った顧客の担当者は、チェックしたあとに輸送計画や一時保管場所の手配作業を始める。そういう場合、中国的には、期限までに一気に送付すれば問題ないのだろう。しかし、期限前に8割の資料が用意できるのであれば、まず用意できた分だけでも送付し、残りを期限までに送付するといった配慮が日系企業なら必要だ。
中国の顧客の担当者は、全部の資料を受領してからチェックを始めるかもしれない。しかし、8割の資料を事前に送付することで、いつからチェックを開始するかの選択の巾が広がることは間違いない。(実際、顧客の担当者は、資料を受領するとすぐにチェックを開始した。) このような、ちょっとした配慮の積み重ねが、日系企業が短期間で現場工事を完工できる秘密のひとつでもある。
また、プラスマイナス10の公差があっても、ゼロを目指す愚直さに通じることかもしれない。この時も、資料を分割して送付するように指示を受けた中国人部下は、「全部まとめて送ればいいんじゃないですか?(面倒臭いですよ)」と返してきたので、既述のように先行して送付することの意味を説明し、「面倒臭い仕事をしたからといって、君の給料を何割もアップすることはできない。しかし、日系企業のモノの考え方、判断基準を君が学び、君の価値をアップさせることへの指導を厭わないよ」と筆者は話した。
中国で生活していると、同じブランドなのに日本で売られているものと中国で売られているものとで包装の質が違うことに気がつく。食品の小袋の封を切ろうとしたとき、日本のものは手で簡単に切れるのだが、中国のものはなかなか切れない、勢いあまって中身を飛び出させてしまうこともある。食品評価の本命は中身なのだろうが、消費者の使い勝手を考慮すれば、包装も重要である。食品製造の門外漢の筆者は、包装の改善にどれほどのコストを要するのか、また切りづらい封に慣れっこになっている中国の消費者にどれほどの満足感を与え、それが販売にどれほど寄与するものなのかを計算することはきない。しかし、このようなジャンルでは、日系企業は圧倒的に豊富なリソースを持っているはずだ。(執筆者:岩城真 編集担当:水野陽子)
今の中国の実体経済は、過去に例のない混沌ではないだろうか。景気は減速し、閑古鳥の鳴くサプライヤーも散見される。それでいて人件費は高止まりのままで、海外に行って“爆買い”する購買力がある。「シャオミーやファーウェイでも問題ない、でもアップルが欲しい」と言ってアイフォンを買う消費者層が、一定のボリュームを占めるようになった。
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2015-06-09 10:45