持続可能な水産物消費の実現、2020年に向けた日本の重要な役割を共有=サステナブル・シーフード・ウィーク ビジネスフォーラム

 水産資源の利用を持続可能なものへと転換することで、将来も生命溢れる豊かな海を引き継ぐことができるということを社会に呼びかけるキャンペーン「サステナブル・シーフード・ウィーク2015」が6月5日の環境の日にスタートした。WWFジャパンとMSC日本事務所からなるサステナブル・シーフード・ウィーク実行委員会が主催し、イオンリテールなどの販売会社や、極洋などの水産事業者、さらに、三菱商事などの商社といった水産物を取扱う企業が協賛し、6月15日まで様々な啓発活動を展開している。6月9日には、東京・新宿で「サステナブル・シーフード・ウィーク ビジネスフォーラム」が開催され、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会に向けて日本で持続可能な水産物を広めるために成すべきことをテーマに、海外からの参加者も交えた会議を開催した。(写真は、ビジネスフォーラムの様子。左がWWFジャパンの山内愛子氏、右はイオンリテールの土谷美津子氏)  世界の人口が爆発的に増加する中、天然の魚の数は減少している。WWFジャパン自然保護室水産プロジェクトリーダーの山内愛子氏は、「世界の海は2006年にはほぼ地球の全域が漁場となり、漁獲地域開拓の時代から水産物資源の回復の時代に転換すべきだったのに、未だ密漁も残り、各地域で“獲った者勝ち”の乱獲が続いている」と指摘。すでに世界の水産資源は3割以上が獲り過ぎで枯渇し、さらに5割以上が限界状態で枯渇の危機にあるといわれる。「世界の約30億人が水産物をたんぱく質の一時供給源として求めている現在、消費者も含めて水産事業に携わる事業者、政府も一体となって水産物資源が持続可能な状態に復するように連携していくことが必要」と訴えた。  MSC(海洋管理協議会)は、1997年に設立。責任ある漁業を推奨する非営利団体として、持続可能で適切に管理された漁業で獲れた魚に「海のエコラベル」といわれるMSC認証を発行している。また、責任ある養殖により生産された水産物を認証する「ASC認証」。そして、MSCは加工・流通において認証製品と非認証製品を区分し、消費者の信頼に応える対応した流通・加工・販売業者への「CoC認証」を発行し、漁獲から販売に至るまで、トータルで豊かな海を回復するための活動を展開している。  6月9日の国際会議では、第1部のパネルディスカッションで日本国内において2件だけのMSC認証を受けた漁業者の1つである京都府漁業協同組合の組織部次長・指導課課長の濱中貴志氏、MSC認証商品やASC認証商品の取り扱いに積極的なイオンリテールの取締役専務執行役員・食品商品企画本部長の土谷美津子氏、また、主婦連合会会長・環境部部長の有田芳子氏、京都大学経済研究所付属先端政策分析研究センター研究員の行本雅氏が、パネラーとして登壇し、「日本の消費者に水産エコラベルを認知してもらうには」というテーマで、それぞれの取り組みについて現状と課題を報告した。  京都府漁業協同組合の濱中氏は、2008年にMSC認証を受けた背景を、「アカガレイの底引き網漁業で稚魚の保護などのため、67.8平方キロメートル(甲子園球場の1700個分)を保護区としてブロックを沈め、漁ができないようにするなど、漁協として長年取り組んできた水産保護の活動が評価された」と語った。ただ、2015年3月にイオンに「海のエコラベル」付きアカガレイの加工品を卸した際には、「地場の加工工場は、大手流通企業が求める高い基準の安全基準にはなかなか合致せず、加工工場の確保に苦労した。ただ、新しい流通チャネルが拓けたことで、煮付けやヒモノなの加工を中心に展開していたアカガレイに、活〆による刺身商材や、冷凍流通など新たな展開に進むきっかけになった」という。そして、「認証を継続して取得するためのコスト負担」が直面する課題だと語った。  イオンリテールの土谷氏は、同社が2014年2月に自然資源の持続可能性と事業の継続的な発展を両立させるために制定した「イオン持続可能な調達原則」を発表し、積極的にMSC認証商品やASC認証商品の取り扱いを拡大したことについて「会社として宣言を出すことには、大変な勇気がいることだった」と振り返っている。調達先を限定するというリスクに対し、日本におけるMSC認証の認知度が低いために消費者に受け入れてもらえるかという点で、不安を抱えたスタートだったという。2015年3月には取り組みが国際的に評価され「国連生物多様性の10年委員会(UNDB-J)」の連携事業として認定されるまでになった。そして、「現在は取扱い水産物の3%程度が認証商品や完全養殖商品だが、2020年に向けて10%をめざしたい。そのためには、国産の認定商品の拡大が不可欠」と語った。6月4日に発売開始した完全養殖の本マグロには、「多くのお客様から養殖の仕方などのご質問があり、皆さまの間に水産物のサスティナビティについて関心が高まっていることを感じた」と、消費者の反応に手応えを感じたと語った。  一方、主婦連の有田氏は、「イオンが、これほど自然資源の保護について前向きに取り組んでいるとは、話を聞くまで知らなかった」と語り、MSC認証やASC認証についての一般消費者の認知を高める努力を水産庁などの政府も含めて取り組むべきだと語った。また、経済学者の立場で「消費者政策と資源管理問題」のレポートをまとめた京都大学の行本氏は、消費者の間で水産エコラベルの認知度の普及について調査を行った結果に基づいて、「単純な情報提示のみ行った場合は感情的な反応となり情報の定着は安定的ではなかった。論理構造を理解する課題を課した消費者は非認証商品を避けて購買する行動をとるなど、知識の定着に有効だった」と結果を紹介し、単純な情報提供ではない息の長い情報提供の取り組みが、「海のエコラベル」など認証制度の定着には必要と分析した。  その後、オーストラリア、太平洋、チリなど海外での取り組みが紹介された後、「2020年東京オリンピック・パラリンピック大会でのMSC・ASCの認証水産物の供給をめざして」というセッションが続いた。2012年ロンドンオリンピック以降、開催国が供給する水産物は、MSC認証とASC認証とすることが宣言されており、2016年リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックでも、開催27日間で提供される約1400万食について、認証水産物を提供すると宣言されている。2020年の東京で、「日本の持続可能な水産物」をどれだけ世界の人々に提供できるのかが問われている。  会議では、関係業者がそれぞれ連携し認証商品の普及に向けた取り組みを積極化させること、さらに、公的機関による広報活動など、様々な機会を捉えた消費者に向けた情報提供が当面の重要な課題であるという議論などが活発に行われていた。(編集担当:風間浩)
水産資源の利用を持続可能なものへと転換することで、将来も生命溢れる豊かな海を引き継ぐことができるということを社会に呼びかけるキャンペーン「サステナブル・シーフード・ウィーク2015」が6月5日の環境の日にスタートした。
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2015-06-10 09:00