寛容さが伝統を作る―「ラブライブ」とのコラボを実現させた神田祭に思う

日本経営管理教育協会が見る中国 第362回--磯山隆志(日本経営管理教育協会会員)                ● 神田祭と「ラブライブ!」   2015年5月9日、神田祭のなかでもメインイベントとなる神幸祭がとり行われた。神田祭とは江戸時代から行われ、江戸三大祭または日本三大祭の一つにも数えられている神田明神の祭礼である。神田明神は1300年近い歴史があり、江戸時代には江戸のすべてを守護する総鎮守として、将軍から庶民まで身分に関係なく広く親しまれていたとされる。縁結び、商売繁昌、勝運に御利益があるとされ、場所が秋葉原に近いことから、IT情報安全にも御利益があるとされる。初詣には約30万人が参拝し、仕事始めの日には多くのビジネスマンが参拝するなど、現在でも東京都民に親しまれている神社である。   一方「ラブライブ!」とは、2010年に漫画雑誌からはじまったアイドルを目指す少女たちの物語であり、グループ名などを読者の投票によって決定する参加型の企画に特徴がある。同年にはCDが発売され、2013年にはアニメ化とゲーム化がなされた。今年は映画が世界各地で公開される予定もあり、大変人気のある作品となっている。中国においても2014年にはアニメとゲームがネットで配信され人気となった。上海と重慶では登場するキャラクター達が描かれた電車が走り、これを見かけたファンが土下座をするという現象までおきるなど、大きな話題となっている。   神田祭と「ラブライブ!」、一見何にも関係ないように思われるが、実はキャラクターの一人が神田明神で巫女をしているという設定で、劇中にも神田明神が登場する。これをきっかけに今年の神田祭では両者のコラボレーションが実現した。巫女姿のキャラクター達が描かれたグッズが限定発売され、境内は購入する多くのファンで溢れかえった。 ● 伝統と新しいもの   神田明神では昔からこうした取り組みがされており、明治時代には歌舞伎の浮世絵を作ったこともあったという。その一方で疑問を呈する声もないわけではない。特に今年の神田祭は神田明神が現在の場所に移ってから400年という記念すべき歴史的な年に当たり、伝統を重んじる姿勢からの意見もある。おそらく、同じような意見はいつの時代にもあったであろう。それでもこのような取り組みがなされてきたのは、新しいニーズを受け入れて取り込み、より多くの人を楽しませて祭りに巻き込もうという考えにあると思われる。   そうは言っても祭りの本質の部分を変えているわけではない。祭りの全ての行為は神事として意味を持っている。例えば神輿が出発する前には無事の祈願が厳かに行われ、最後は無事であったことに対する感謝の神事で締められる。また、神輿が威勢のいい掛け声とともに108の町会を練り歩くのは神々が町を祓い清める意味を持っている。   ● 楽しませることを楽しむ   日本人の気質の一つに形式を重んじるというのがあるといわれる。その一方で、形式にこだわりすぎないということもいわれる。また、和を重んじるというのもある。   誰もが価値を認める、変えるべきでないものは変えない――こうした信頼関係の中で楽しいことなら、こだわらずに取り入れる寛容さによって伝統は続くのではないだろうか。日本には100年以上続く企業が世界で最も多いとされる。東京商工会議所が発刊した『長寿企業の訓え~長寿企業における変革・革新(イノベーション)活動~』によると、「事業の存続に関する経営者意識調査」において、存続してきた最大の要因として「創業当時の製品・サービス等を守りつつ、時代のニーズ等にあわせて改善・改良したから」と回答した企業が71.3%であったとされる。   現在の神田明神の宮司も「伝統は守るものではなく作るもの」と話したというが、相手も自分も楽しいことがなければ続けるのは難しい。人を楽しませることを楽しむ、この長い積み重ねが伝統を作り、守り、残していくことにつながるのではないかと思う。   写真は神田明神随神門。(執筆者:磯山隆志・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)
2015年5月9日、神田祭のなかでもメインイベントとなる神幸祭がとり行われた。神田祭とは江戸時代から行われ、江戸三大祭または日本三大祭の一つにも数えられている神田明神の祭礼である。神田明神は1300年近い歴史があり、江戸時代には江戸のすべてを守護する総鎮守として、将軍から庶民まで身分に関係なく広く親しまれていたとされる。
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2015-06-10 12:15