対外開放と対内開放を目指す金融改革(1)=関志雄
― 期待される民間と外国資本の参入による競争の促進 ―
中国経済新論「中国の経済改革」-関志雄
中国では、2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で、「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(以下、「決定」)が採択され、これを受けて、金融改革は市場化を中心に加速している。中でも、金利、資本取引、人民元レートの自由化からなる三位一体の改革(「金融開国に向けた為替レート・金利・資本移動の自由化」『中国情勢レポート』No.14ー03,2014年4月3日」参照)に加え、銀行業と資本市場の対内開放と対外開放がその焦点となっている。民営銀行の設立と多層的資本市場システムの健全化は前者に当たり、外資銀行に対する規制緩和と上海・香港市場の株式相互取引制度の導入は後者に当たる。
【1】銀行業の対内開放と対外開放
中国における銀行部門の最大の問題点は、国有銀行による独占体制の下で、資金配分の効率が悪いことである。これを改めるために、対内開放と対外開放を通じて、競争を活発化させなければならない。
1)対内開放の拡大:民営銀行の設立
銀行部門の対内開放に関して大きな注目を浴びているのは、民営銀行の設立である。これまで、民間資本は株式制銀行、都市商業銀行、農村における中小金融機関の資本の中でかなり高い割合を占めていたにもかかわらず、民間資本が中小型銀行の単独の発起人となることは許されていなかった。2013年11月に開催された三中全会で採択された「決定」では初めて、監督管理を強化する前提の下、条件を満たした民間資本が法律に基づいて中小型銀行などの金融機関を発起設立することを許可すると打ち出した。
これを受けて、2014年3月、国務院は第一陣となる民営銀行5行の試行案を審査・認可した。5行のうち、深セン前海微衆銀行が2015年1月初めに最初の融資を実施し、営業を開始した。3月初めに上海華瑞銀行は中国(上海)自由貿易試験区で開業した。続いて、民営企業の多い温州を本拠地とする温州民商銀行が3月26日に、天津金城銀行が4月27日に相次いで営業を開始した。残りの浙江網商銀行も5月27日に当局から正式に開業の許可を得た。5行の中で、深セン前海微衆銀行と浙江網商銀行は、それぞれ中国の大手IT企業であるテンセントとアリババの傘下の企業が最大の株主となっている。
2015年3月の全国人民代表大会で審議された政府活動報告では、実体経済を支援するため、条件を満たした民間資本による中小型銀行など金融機関の設立を推し進め、特に数の面で制限を設けないとされている。民営銀行の設立は今後、さらに加速する可能性が高い。
一般的に、民営銀行は、民間資本によって設立され、市場原理に基づいて経営され、コーポレート・ガバナンスも国有銀行とは異なる。所有権構造と経営方法の違いから、民営銀行は国有銀行に比べ、経営が柔軟かつ効率的である。このため、民営銀行の設立により、銀行部門における国有銀行による独占体制が打破され、国有金融機関と民間金融機関、大型金融機関と中小金融機関が共存する多様な金融機関体系が実現され、金融部門における公平な競争が促進され、ひいては実体経済への支援が強化されることが期待できる。
2)対外開放の拡大:外資銀行に対する規制緩和
民営銀行より一歩先に、1980年代以降、外資銀行は中国市場に参入してきた。このプロセスにおいて、外資銀行の進出先が一部の地域から全国へ、業務範囲が外貨業務のみから人民元業務へ、サービスの対象が外国人から中国人へと拡大してきた。外資銀行は、拠点網が次第に拡充され、業務規模が拡大した上、中国資本の銀行との間で広範な業務提携と資本提携を行い、中国銀行業におけるプレゼンスが高まっている。
特に、2001年12月に中国が世界貿易機関(WTO)への加盟を果たし、加盟時の約束に従い、2006年までの経過期間において、外資銀行支店に対し、①外貨業務の対象顧客制限の廃止、②人民元業務の取り扱い地域を上海、深セン、天津、大連の四都市から、中国全土に拡大、③人民元業務の対象を外資企業と外国人個人から、中国企業と中国人にまで段階的に拡大、④「人民元負債が外貨負債の50%を超えてはいけない」という制限の撤廃、といった規制緩和が行われた。
同じ時期に、中国資本の銀行の改革に外国の戦略的投資家の参加が認められるようになり、それに合わせて、外国金融機関による中国資本銀行への出資比率の上限が引き上げられた。実際、2004年に、香港上海銀行が交通銀行の19.9%の株式を取得するなど、多くの外資銀行がこのチャンスを捉え、中国資本の銀行との提携を強化した。
2006年12月にWTO加盟の経過期間の終了に合わせて、「外資銀行管理条例」が施行された。同条例は、現地法人として進出する外資銀行には「内国民待遇」を与える一方で、支店形態での進出の場合にはより厳しい健全性の基準とリテール業務への制限が適用されることから、外資銀行の支店の現地法人化を促すきっかけとなった。中国当局も、監督の強化と(外資銀行の親銀行が破綻した場合の)預金者保護という観点から、外資銀行の現地法人化を奨励している。
2013年11月の三中全会の「決定」を受けて、中国銀行業監督管理委員会は、2014年9月に外資銀行に対する「1都市当たり1支店まで」という支店設立の制限を撤廃し、電子銀行業務の取り扱いなどを解禁した。
続いて、国務院は2014年12月20日に改正した「中華人民共和国外資銀行管理条例」を公布し、中国での支店の設立条件と人民元業務取扱の申請条件を緩和すると発表した(2015年1月1日から施行)。まず、外資銀行の参入条件について、それまで、外資独資銀行と中外合弁銀行が中国国内で設立する支店は、本店から1億元以上の運転資金の無償提供を受けなければならない上、外国銀行が中国で営業性機関(外資独資銀行、中外合弁銀行、外国銀行支店)を設立する前に代表事務所を設立しなければならないとされていたが、これらの条件は今回の改正により撤廃された。また、外資銀行の営業性機関が人民元業務取扱を申請する条件として、従来、中国国内において営業実績が3年以上、申請前の2年間連続で利益を出していることが求められていたが、今回の改正により、前者は1年以上に改められ、後者は撤廃された。そして、外資銀行の支店1店舗が人民元業務取扱の許可を取得した場合、当該行の他の支店が同業務を申請する際に、営業期間の制限を受けなくなった。その結果、外資銀行は中国市場により参入しやすくなり、業務範囲も広くなった。
外資銀行の進出は、中国の銀行業の発展にとどまらず、中国経済全体の発展にも貢献してきた。
まず、外資銀行は対外貿易の発展と外資の導入に大きな役割を果たしている。外資銀行は国際貿易の融資および決済、シンジケートローン、キャッシュ管理および資産運用などの面で明らかに優位性を持つ。外資銀行の進出は、中国市場に多くの金融商品をもたらし、中国銀行業のサービス機能を向上させた。同時に、外資銀行はその海外拠点のネットワークとシステムを生かして、国際貿易と投資を行う中国企業に資金調達および他の金融サービスを提供し、中国企業の海外での事業展開を支えている。
第二に、銀行をはじめとする外資金融機関の対中投資が、中国に外貨資金をもたらしている。また、外資金融機関を戦略的投資家として迎えることは、中国資本の銀行にとって、コーポレート・ガバナンスの向上と経営ノウハウの導入のきっかけともなった。
第三に、外資銀行は先進的経営理念、成熟した管理技術および商品を中国市場にもたらし、競争と提携を通じて中国資本の銀行の商品開発意識と能力の向上を促した。その結果、経営効率が改善される一方で、顧客へのサービスも大きく向上した。
最後に、外資銀行の進出は、国内の銀行業の監督管理レベルの向上につながった。監督当局は国際的ルールを参考しながら、公平で、統一された、透明度の高い管理環境の整備に努め、外資銀行と中国資本の銀行に対する監督管理基準の統一に向けて監督体制を整えてきた。また、外国の銀行監督当局との交流を深めることで、中国当局はリスク監督の能力を高めることができた。
今後、外資銀行の更なる参入により、これらのメリットが一層発揮されると期待されるが、その一方で、①国内の優良顧客が中国資本の銀行から外資銀行に流れること、②外資銀行を経由する内外の資金移動は金融・為替の不安定要因になりうること、③外資銀行に対する監督が困難であること、などが新しい課題として浮上している。<(2)につづく>
(執筆者:関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー、野村資本市場研究所 シニアフェロー 編集担当:水野陽子)
(出典:独立行政法人経済産業研究所「中国経済新論」)
中国では、2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で、「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(以下、「決定」)が採択され、これを受けて、金融改革は市場化を中心に加速している。
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2015-06-10 13:15