中国は人治国家? それとも法治国家?

 中国に住んでいると、様々な場面で不条理というか、ルールが存在しないのではないかと思う場面に遭遇する。何か新しい法律が出来ると、それをただ守るのという考え方でなく、どのように対応するか考えるといった姿勢がその典型である。まさに「上有政策,下有対策」(上に政策あり、下に対策あり)という言葉そのままである。これが中国を「人治国家」と感じる瞬間である。  しかし、実際にはどうなのだろうか。労働争議や民事裁判の際も、全て証拠物件に基づいて話をする必要があり、特に当事者の証言はあまり重視されない。徹底的な証拠主義を取っている。  例えば残業の未払いに関する労働争議であれば、残業をさせたという証拠物件が必要になる。第三者の証言や命令書など具体的な証言が必要になる。法治国家であれば当然と言えば当然だが、中国の混沌としたイメージからは意外と感じる人も多いのではないでしょうか。  ではなぜ、多くの人が人治国家として中国を感じているのだろうか。それは労働争議や民事争議に発展しているケースを見ていくとわかってくる。一番の原因は中国に法律が、非常にラフであり裁判官の裁量権が非常に大きく(裁量できる範囲が広く)、過去の判例にあまり沿わない結論が出る可能性があるという点である。  例えば中国では民法は156条、民事訴訟法は237条しか条文がない。日本では民法は1044条、民事訴訟法は405条ある。比較すれば一目瞭然だろう。簡単に言うと、訴訟を起こす側に証拠に加えて、裁判所や裁判官と人脈がある場合、裁判官の裁量権を最大に利用して、自らにできるかぎり有利な判決または判断を導す可能性があるという事である。  このような事から、多くの中国人は法律が信じられないものだと熟知しており、証拠や人脈をフル活用して、争議が割に合うものかどうかを判断してから対応するという、非常に現実的な側面を持っている。  面子と言いながら実際は金銭が割に合うかどうかの問題なのである。日本人のように体面や感情的に引きずられて裁判や係争案件を起こすような形はあまりなく、要は勝てない裁判は起こさないという傾向にある。  簡単に言えば、労働争議や民事案件を相手から起こされた段階で、相手は既に「割に合う」利益プランを描いていることになり、逆にこちらは何らかの損失を被る可能性が高い。日本人としては非常に厄介な状況ということになる。対策としては、まず係争案件を起こせないように、日々の業務の中で自分に有利な証拠を残しながら業務をする事が基本である。  中国は法によって統治されている以上、法治国家であることは事実だ。ただし現実には法の解釈やそれを司る人の裁量によって、全く異なる答えが出る可能性のある国ということだ。中国は法に基づいた人治国家という事になるもしれない。(執筆者:武田 康夫 提供:中国ビジネスヘッドライン)
 中国に住んでいると、様々な場面で不条理というか、ルールが存在しないのではないかと思う場面に遭遇する。何か新しい法律が出来ると、それをただ守るのという考え方でなく、どのように対応するか考えるといった姿勢がその典型である。まさに「上有政策,下有対策」(上に政策あり、下に対策あり)という言葉そのままである。これが中国を「人治国家」と感じる瞬間である。
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2015-06-17 13:00