ドル円の先行きを間違えないために-貿易収支と稼ぐ力-=村上尚己
日本の貿易収支の赤字拡大が、メディアで話題になることが多くなっている。過去2年余り貿易赤字が広がったことには様々な側面がある。ただ、一部の大手電機メーカーの業績不振が目立つので、日本企業の「稼ぐ力」の低下と関連づけられ、ネガティブに伝えられることが多い。
貿易赤字の拡大=稼ぐ力の喪失、という側面は分かり易い。なので、貿易黒字拡大が「良い」、貿易赤字拡大が「悪い」ので、貿易赤字拡大=「貿易収支の悪化」などとメディアで言われる。ただ、一国全体の貿易収支(経常収支)は、国全体の輸出と輸入のバランスである。そして輸出<輸入となることで、経済全体に悪影響を及ぼしたり、日本人の生活が貧しくなるかと言えば、必ずしもそうではない。
2013年の貿易赤字拡大は、輸入が大きく増えたことによる。これは円安などの価格上昇で原油や天然ガスなどの輸入が増えた面もあるが、2013年の輸入増加のうち原油等で説明できる部分は約3分1である(グラフ参照)。それ以外で幅広く輸入が増えたのは、アベノミクス発動で国内需要が主導する格好で景気回復が起きたからである。製造業の海外進出が進み、国内生産活動の回復で、アジア地域からの輸入(部品の調達など)が増え易くなっていることもある。
アベノミクス発動で国内需要が回復し、それで輸入が増え貿易赤字が広がったなら悪いことではない。長年日本で貿易収支(経常収支)の黒字が続いていたことには、日本の国内需要が抑制され、輸出の牽引で景気回復が実現していた負の側面があった。個人消費主導による景気回復で、貿易赤字が拡大したという点で、むしろポジティブな現象である。
にもかかわらず、貿易収支赤字の拡大(貿易収支悪化?)と企業の「稼ぐ力」の関係だけに拘り、2012年末以降の円安を考えるとどうなるか。大幅な円安(円高修正に過ぎないが)は、「経済力低下」や「産業構造の変化」の象徴と評価される。アベノミクスで始まった円安、そして円安が後押しする脱デフレ、に懐疑的な方は最近の円安をそう解釈する傾向がある。
このロジックに基づくと、貿易赤字拡大が続くと円安が進み、貿易赤字縮小で、円高になる。筆者は、2014年は貿易赤字の拡大は止まり、やや縮小すると予想しているが、そうなると円安が止まることになる。
ただ、2011年3月の東日本大震災で貿易収支が大きく赤字に転換してから1年半以上円高が続いたように、貿易収支の動向はドル円にほとんど影響しない(グラフ参照)。2014年に仮に貿易赤字拡大が止まっても、引き続き、米日の金融政策に対する思惑でドル円の方向が決まるだろう。(執筆者:村上尚己 マネックス証券チーフ・エコノミスト 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
日本の貿易収支の赤字拡大が、メディアで話題になることが多くなっている。過去2年余り貿易赤字が広がったことには様々な側面がある。ただ、一部の大手電機メーカーの業績不振が目立つので、日本企業の「稼ぐ力」の低下と関連づけられ、ネガティブに伝えられることが多い。
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2014-02-07 17:30