<書評>「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」・・・彼らの「本音」と「実情」に迫る1冊

今年(2015年)に入り、日本を旅行する中国人が増え、多くの来日者が「温水洗浄機能付き便座」などを“爆買い”することが話題になった。
日本人の反応はさまざまだ。インターネットへの投稿などを見ると、過激な反日運動の記憶が鮮烈なのか、「日本が嫌いなら来るな、買うな」との主張もあり、「優秀な日本製品の魅力には逆らえない」と、日本人としての誇りをただよわせる意見もある。「自分の目で日本を見てもらえれば、反日に走ることもなくなるだろう」と期待を示す声も珍しくない。
さて、本書「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」の第一の特長は、「生身の中国人の声」を多く集めたことだ。日本製品や日本社会を高く評価する人がいる。日本文化に熱烈にあこがれる人がいる。本書は一方で、世界第2位の経済規模を獲得した中の国民が旅行に出る際、いかに「不便」で「不自由」で「肉体的にも精神的にも消耗を強いられる」かを、次々に紹介する。
日本人にとって想像することもできない「キツイ」社会環境はまだまだある。本書は、そんな中で日本人とはかけはなれた発想をする中国人の姿を生々しく紹介する。「トイレ」についての説明はほんの入り口で、誠に興味深い、と言って不謹慎なら、身につまされる話が次々に紹介される。
日中間に限らず、他国の人々の状況や考えを知ることは、そう容易でない。まして中国は、言論統制をつづけている。日本のメディアも、その時々の「大勢」を紹介することに追われがちだ。現実を生きる個々の中国人がどんなことに直面し、どう考えているかは、なおさら伝わって来にくい。本書は中国や中国人という「現場」に長く深くかかわり続け、「本当のところとは何なのか」とのテーマを持ち続けてきた者だからこそ書けた1冊だ。
日本にいると中国人がとかく「得体の知れない集団」のように思えてしまう。しかし、そう思っているだけでは、建設的な未来が期待できない。そして、これは私自信の信念でもあるのだが、日中――その他の国についても実は同じだが――の問題の根本は「互いに引っ越しができない」ことに由来している。
だったら、上手につきあう方が互いに楽だし得だ。私はあえて「友好的に」とは言わない。キーワードは「上手に」だと信じている。そのためには、相手の実情を知っておいた方がよい。双方が対立することもあるだろう。そんな場合でも、相手の実情を知っていた方が、有効な反論ができるし、双方が受け入れられる「落としどころ」も探りやすくなる。
中国や中国人への敵愾心や嫌悪感だけに凝り固まっている人に、本書はあまり意味をなさないかもしれない。そうではなく、「中国や中国人があまり好きでない」あるいは「嫌いだ」と思いつつ、「いがみ合うのは楽しいことではない。しんどい」と心のどこかで感じている人には、是非目を通していただきたい1冊だ。
【DETA】
書名:なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか 「ニッポン大好き」の秘密を解く
出版:中央公論新社(中公新書ラクレ)
著者:中島 恵
(編集担当:如月隼人)(写真提供:中公新書ラクレ)
今年(2015年)に入り、日本を旅行する中国人が増え、多くの来日者が「温水洗浄機能付き便座」などを“爆買い”することが話題になった。(写真提供:中公新書ラクレ)
china, japan
2015-06-28 21:15