福祉拡充も施政報告に不満、財政圧迫への懸念=香港ポスト

梁振英・行政長官が1月に発表した施政報告(施政方針演説)では、新たに「低所得在職家庭手当」が設置されるなど、低所得層や高齢者・弱者への支援に重点が置かれた。福祉拡充は梁長官の公約でもあるが、一過性でない生活支援策が増えることで財政を圧迫する懸念も持ち上がり、曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官が歳出拡大に警鐘を鳴らした。2月末に発表する新年度の財政予算案ではばらまき措置の引き締めが見込まれているほか、施政報告に対し不満を抱いている中流層への配慮も求められている。
梁長官が施政報告を発表した1月15日の夜、香港大学民意研究計画が行った世論調査(対象1017人)によると、施政報告について「満足」と答えた市民は36%で昨年と同じ。だが「不満」と答えた市民は31%で昨年より7ポイント上昇した。100点満点で表す施政報告の評価は54.1で昨年より2.3ポイント低下した。所得層別に見ると主なマイナス要因となっているのは中流層の答えで、「満足」は0.9ポイント上昇の33.6%、「不満」は10.7ポイント上昇の34.7%、評価は2.8ポイント低下の53.95だった。
さらに16~17日に行われた追跡調査(対象519人)では「満足」と答えた市民は23%で、15日に比べ13ポイント低下。「不満」と答えた市民は41%で同10ポイント上昇した。評価は48.1で同6ポイント低下した。また「今年の施政報告は中流層を軽視している」との見方については「賛成」が70%、「反対」が15%。「低所得在職家庭手当」の設置については「賛成」が62%、「反対」が25%。住宅政策の「今後10年で47万戸供給」には「賛成」が76%、「反対」が13%だった。
梁長官自身に対する評価(100点満点)でもこの間に変化が見られた。15日の調査では評価は48.9で、施政報告発表前の2~6日の調査に比べ3.3ポイント上昇したが、18~22日の調査では47に低下した。施政報告の発表当日は好感を得たものの、その効果はまたたく間に消えたようだ。
曽財政長官は1月19日、公式ブログで施政報告に触れ、低所得層支援策などによる財政支出拡大に懸念をのぞかせた。曽長官は政府が新措置によるコストを負担できるかどうかに社会の関心が高まっていることを注視。今政権の任期中は問題ないものの、「支出が収入より高い伸びを維持すれば、いつかは増税や借金に依存しなくてはならない」と述べたほか、「将来の人口構成や経済発展、歳出から推計すると財政が黒字から赤字に転落し、財政備蓄を使い果たすのも遠い将来ではない」と警告した。また一般歳出の伸びが高すぎるとの見方について「的外れではない」と認め、社会の発展に伴い市民の公共サービスに対する要求も変わると説明した。
曽長官は施政報告の発表当日に今年度一般歳出が200億ドル増加すると述べたが、林鄭月娥・政務長官は17日にこれを否定し、約100億ドルに過ぎないと述べた。このため曽長官は低所得層支援策に賛成ではないともみられている。
曽長官と梁長官の間には亀裂があることが以前からささやかれている。きっかけとなったのは梁長官を支持する財界人として知られる恒隆地産の陳啓宗・会長が昨年7月、曽長官を批判する発言を行ったことだ。陳会長は曽長官について「香港は本来金があるのに財政長官は金を使いたがらない」と曽長官の倹約姿勢が梁長官の施政を妨げていることを示唆した。だが曽長官の留任は中央政府の意向であり、大衆主義の梁長官が施政の経験がなく大風呂敷を広げるのを心配したため、曽長官を歯止め役にしたとみられている。
● 財政予算案 中流層支援求められる
2月26日に発表される予定の新年度財政予算案では、財政黒字が過去数年には及ばない上、施政報告で多額の財政支出を伴う貧困対策が講じられたことから、ばらまき措置が縮小されるのは必至だ。1月23日付『星島日報』で政府消息筋は、過去数年にわたって実施されてきた公共住宅の家賃2カ月分免除が今年は盛り込まれないことを明らかにした。ほかに不動産税の減免は昨年より縮小、電気代補助も維持するかどうか検討中。施政報告が中流層の不満を買ったものの、中流層が最も関心を持つ税金還付も上限が昨年を上回ることはないという。
ただし政府は家賃免除を一度に取り消すと大きな反発が起こると懸念しており、1カ月の免除に縮小する可能性がある。折しも行政長官の普通選挙に向けた政治体制改革の公開諮問が行われている。政府内部では一過性の生活支援策を一度に取り消すのは政治的リスクが大きいため、段階的に削減すべきとの見方があるようだ。
香港税務学会は1月21日、特区政府の財政状況予測を発表した。政府は今年度の財政収支を49億ドルの赤字と見込んでいたが、同学会は221億ドル余りの黒字と予測。不動産取引の減少で印紙税収入は減少するものの、公有地売却による収入増加でこれを相殺、さらに歳出が予想より少なかったことを理由に挙げている。
施政報告が中流層を軽視していると批判されたことから、同学会は財政予算案では中流層や中小企業の税負担を緩和するよう要求。個人所得税の基準金額を4万ドルから5万ドルに引き上げ、父母・祖父母の扶養控除を増やすことなどを提案した。一方で環境保護税の徴収などで税収の安定を図るべきと指摘している。
予算案では今後の財政支出増大に対応するため、新税導入が盛り込まれるとの見方が浮上していた。だが曽長官は2月2日、商業電台の番組「政好星期天」に出演し、財政予算案では新税導入は盛り込まないことを示唆した。
曽長官は施政報告に触れ「政府の財政能力は施政報告で打ち出された新措置による支出を負担できる」と強調。現在の香港の税収基盤は比較的狭いものの、政府が年間の歳出を域内総生産(GDP)の約20%の水準で維持できれば新税の導入は必要ないと説明した。かねて導入がささやかれている消費税についても「雇用状況への影響が大きいため引き続き検討が必要」と慎重な姿勢を見せた。小売業界は雇用に占めるウエートが大きく、消費税によって小売りが打撃を受ける懸念があるためだ。
民主派の新民主同盟は2月1日に行ったデモで、施政報告の措置が低所得層に集中し中流層を軽視していることを批判、予算案で減税措置の拡大による中流層支援を要求した。2011年には民主派が予算案に不満を持つ市民に大規模デモを呼びかけて政府は異例の大幅修正に追い込まれた。当時は選挙に向けた政治対立の激化という事情もあったが、今年もさほど事情は変わらない。市民の不満があおられれば政府は再び譲歩を迫られるかもしれない。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:水野陽子)
梁振英・行政長官が1月に発表した施政報告(施政方針演説)では、新たに「低所得在職家庭手当」が設置されるなど、低所得層や高齢者・弱者への支援に重点が置かれた。福祉拡充は梁長官の公約でもあるが、一過性でない生活支援策が増えることで財政を圧迫する懸念も持ち上がり、曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官が歳出拡大に警鐘を鳴らした。2月末に発表する新年度の財政予算案ではばらまき措置の引き締めが見込まれているほか、施政報告に対し不満を抱いている中流層への配慮も求められている。
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2014-02-10 10:30